石田僚子さん追悼30周年記念文集

高塚高事件の今昔

弁護士 野口善國

 事件発生当時、私たち学齢期の子どもを持つ親には大変なショックであった。
 校門を閉めようとした教師が生徒の頭を門扉で挟み死亡させるという、その形態の残酷さと、一方、どこの学校でもそれは起こり得るという恐怖があった。
私はその日の夜中、自分の息子が大量に鼻血を出した夢を見て思わず飛び起きた。そんなことはないとわかっているものの、息子の寝顔を見に行かずにはいられなかったのである。
 その当時、学校の管理教育による人権侵害が一つの社会問題となっており、神戸市の行っていた男子中学生に対する丸刈り強制もその一つであった。
当時から、弁護士会の子どもの権利委員会(かつては少年法委員会、少年問題対策委員会と呼ばれていた)に属して、子どもの権利を守る活動に参加し、丸刈り校則、その他、管理主義的な校則廃止の運動を行っていた私には、この事件は活動の大きなテーマとなった。
 当時は、管理主義的な校則が猛威をふるっていたが、一方、良心的な教師や声を上げ立ち上がる親たちもいて、高塚高事件以後の数年は随分、管理主義的校則改訂は進んでいったと思う。
 私の息子も丸刈り校則廃止前に友達と知り合い、長髪のまま中学に入学し、その学校をあげての大騒ぎとなった。私たちを応援してくれている親もいたが、かなりの数の親たち(特にPTAの役員など)は私たちのことを「悪の軍団」と呼んでいた。
 今から考えると、滑稽な感じもするが、当時、大きな問題となっていた管理主義教育は、その後、本当に改善されたのであろうか。
 管理主義による種々の規制が校則として文章化されているかは別にしても、管理主義教育に声もあげられず、苦しんでいる子どもは依然として多くいると思われる。
 現在、大きな社会問題となっているいじめ問題の原因の一つは、管理主義教育によって、子どもがストレスをためており、気力を失われ、声をあげられなくなっていることではなかろうか。
 そして、高塚高事件当時と比べて、声をあげられる親や子どもは少なくなっているのではなかろうか。「モンスターペアレント」問題などとして取り上げられ、「学校」側の「防衛態勢」は整備されつつあるのに、子どもの権利を守る活動はそれ程には広がっていないのではなかろうか。
 高塚高事件の頃に親だった私たちは、もう生徒たちにとっては「じいちゃん、ばあちゃん」の世代になってしまったが、もうしばらくは頑張り続けねばならぬかなと思うこの頃である。


親をせめるな: わが子の非行に悩む親たち、親を応援する人たちへのエール親をせめるな: わが子の非行に悩む親たち、親を応援する人たちへのエール

野口善國(著) / 教育史料出版会 / 2009年6月1日


歌を忘れたカナリヤたち―子どもは必ず立ち直る歌を忘れたカナリヤたち―子どもは必ず立ち直る

野口善國(著) / 共同通信社 / 2005年12月25日
<内容>
少年法を改正し、厳罰化を進める動きが出る中、神戸連続児童殺傷事件で少年Aの弁護を担当した弁護士が、少年法再改正の動きに疑問を呈す。切り捨て社会へ警鐘を鳴らし、愛とゆとりのある社会と家庭の再建を訴える。


それでも少年を罰しますかそれでも少年を罰しますか

野口善國(著) / 共同通信社 / 1998年12月1日
<内容>
神戸連続児童殺傷事件の弁護団長が初めて明かす「少年A」の実像。少年法の厳罰化では非行はなくならない。


どうなる丸刈•校則 (ヒューマンブックレット9)どうなる丸刈•校則 (ヒューマンブックレット9)

野口善國(著) / 兵庫人権問題研究所 / 1991年1月1日


子どもが育つ家庭づくり: 弁護士とカウンセラー夫婦の子育て論 子どもが育つ家庭づくり: 弁護士とカウンセラー夫婦の子育て論

野口善國(著), 野口喜美子(著) / 教育史料出版会 / 1989年1月1日
<内容>
非行•いじめ•登校拒否…。現代の子育てには心配がいっぱい。子どもを健やかに育むために、少年問題の専門家夫婦がそれぞの立場から、豊富な事例にわが子の子育てのエピソードも交えて、子どもの自立の芽を育む家庭づくりを具体的にアドバイス。


3訂版 個別労働紛争あっせん代理実務マニュアル3訂版 個別労働紛争あっせん代理実務マニュアル

前田欣也(著), 野口善國(監修) / 日本法令;3訂版 / 2021年4月18日
<内容>
あっせん代理、補佐人業務に携わる専門家と紛争解決手続代理業務試験受験者が押さえておきたい申立書•答弁書の書き方、民事訴訟法の知識、必須判例をやさしく解説。
2016年5月の改訂版発行以降の新たな事例や、同一労働同一賃金、セクシュアル•ハラスメントにかかわる新たな判決などを解説に加えた3訂版。



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