門前追悼

19回目の朝

所薫子

 西神中央駅を出ると選挙攻勢の演説が聞こえ、通勤の人たちが駅の方へ急ぎ足で過ぎる。横断歩道を渡り南側の歩道を歩く。通学時間帯にもかかわらず道はすいている。並木が木陰をつくり涼しい。10年くらい前までは、ここに学生がひしめき合っていた。反対の歩道を見ても信号待ちの3人、5人の学生がいるだけだ。19年前、こんなだったら事件は起こっただろうか。
 校門前に着くと既に中村羅針さん他、数名が準備を始めていた。今朝、庭から切ってきたアジサイや野草を飾る。今年は深いエンジ色を中心に石垣の所までカーネーションが並べられる。甲子園を控えた野球部だけが練習に励み、期末試験一日目を迎える学生がプリントを見たりしながら連なって校門へ入っていく。校門指導に立つ教師も見られず、殺気立った空気は無い。
 追悼が始まる。何処からか別の団体から運び込まれた横断幕が歩道を遮るように広げられる。こちらからは死角になって書かれてある文字は見えない。歩いている学生には真正面で、目に入るのだろうか。心、騒がしくなる。遅れてくる学生一人一人に「お騒がせしてすみません」と頭を下げる。ハンドマイクを使った声が耳を刺す。言おうか、このまま黙っていようか。思いきって「休みの日以外は、静かに追悼をしてきました。スピーカー無しでお願いします」。理解してもらうのに少しの間があったが、スイッチが切られた。
 追悼を続けることさえも暴力にならないだろうか、自問自答を繰り返す19年。「非暴力」今年、石田僚子さんに強く教えられた気がする。

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