保育•教育

定時制高校 青春の短歌 その②

兵庫県立神戸工業高校 南悟

※ 働き学ぶ生徒の歌を

 働きながら学ぶという営みは、定時制高校生のかけがえのない貴重な財産です。こうした彼らのいとなみを、国語の授業を通してなんとか表現できないだろうかと考えて取り組んだのが「短歌」の創作でした。もう一八年ほど前のことです。

 工場の昼なお暗い片隅で毎日向かうフライス盤  久保幸利

 短歌の授業を始めるきっかけを与えてくれた生徒の歌です。
 彼は毎日授業に遅れてきては、誰彼となく周囲の生徒と大声でしゃべり続け、注意をしても知らん顔で、一体何をしに学校に来ているのかと思える生徒でした。ある日、あまりの傍若無人ぶりに注意のため近付いて行った私の目に、彼の作業服の襟首や胸の油汚れが映りました。学校に遊びに来ているだけの彼が仕事をしているのかという驚きだったのです。
 その職場を訪ねてさらに驚いたのですが、経営者の工場長さんと二人だけの鉄工所でした。運河沿いの古びた鉄骨スレート造りの、小さな平屋建ての、陽の光りの差し込まない薄暗い片隅で、黙々とフライス盤に向き合っていました。
 教室の中だけで生徒を判断してはいけないということを気付かされたのです。

※ 仕事の歌

 卒業生たちが詠み残してくれた短歌が、色紙で八◯◯枚を越えます。いずれも、定時制高校で働きながら学んだ若者の汗と埃の結晶です。

 柑橘のプンと匂える本船のハッチ広げて検査品取る  森山孝一
 測量器持ちて寒風の中を行く勾配続く山林の道  丸山重治
 鉄工所僕の仕事はフライス盤仕上げの削り幅五◯ミリ  山形勝利
 全日をやめて仕事はしんどいが夜間に来れてめっちゃ良かった  松山肇
 足場にて可愛い娘見とれ踏み外し番線からまりニッカびりびり  峰山良平
 汗流しスコップ持って土ならしもうひと頑張り三時の休み  平野勇気
 四年間挫折しかけて立ち直り学校仕事みんなの支え  本田敦

(つづく)


生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)

南悟(著) / 岩波書店 / 2009年11月21日
<内容>
昼間働き夜学ぶ、定時制高校の生徒たちが指折り数えて詠いあげた31文字。技巧も飾りもない、ありのままの思いがこめられている。働く充実感と辛さ、生きる喜びと悲しみ、そして自分の無力への嘆き。生き難い環境の中で、それでも生き続けようとする者たちの青春の短歌。


ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春

南悟(著) / 解放出版社 / 2000年5月1日
<内容>
失敗や挫折や障害が癒され、人として生きる力が与えられる定時制高校の生徒たちの短歌、作文を紹介。NHKドキュメンタリー番組で放映。


定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)

南悟(著) / 岩波書店 / 1994年7月20日
<内容>
「大阪で道路舗装し夕映えの神戸の夜学に車を飛ばす」毎日、汗と油にまみれて働きながら、通学する夜間定時制高校の生徒たち。短歌に詠みこまれた喜び、悲しみ、悔しさ、そして恋─青春いっぱいの姿を教師が綴る。



Sponsored Link

続きを読む

Sponsored Link

Back to top button
テキストのコピーはできません。