教育

スクールソーシャルワーカーが全国的に導入されることになりました

弁護士 峯本耕治

 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 実は、昨年の終わりに「知る人ぞ知る」と言うか、「知る人しか知らない」嬉しいニュースが一つありました。文部科学省が2008年度から公立小中学校で活躍するスクールソーシャルワーカーを全都道府県141地域に配置することを決定し、その予算として約15億円を計上することになったのです。私が理事長を務めているNPO法人「TPC教育サポートセンター」はスクールソーシャルワーカー(SSW)の導入を一つの目標としてやってきましたので、その成果が出たと勝手に喜んでいるのです。
 高塚ニュースでもお伝えしたことがあると思いますが、大阪府教育委員会は2005年からスクールソーシャルワーカー配置事業を先行的にスタートさせています。7人のSSWが府内7市の小学校で活動している事業で、モデル的な取り組みですが都道府県でSSWの本格的な学校配置を行ったのは大阪府が初めてではないかと思います。ちょっと宣伝をしますと、TPCは、それらの事業の立ち上げから、SSWの人選や研修、スーパーバイズ体制等を大阪府教委と一緒に作ってきました。また、滋賀県でも2006年からスクールソーシャルワーク的支援事業がスタートして、臨床心理士や弁護士、社会福祉士等が学校現場に入って継続的にケース会議を持つ、なかなか興味深い取り組みをやってきましたが、ここでもTPCのメンバーが主要な役割を果たしてきました。
 一昨年頃から大阪府等のSSW事業が全国的にも注目されるようになり、文部科学省の会合で発表の場が提供されたり、制度内容についての聴き取りが行われるなどの動きが出てきていましたので、大阪府や滋賀県の取り組みが今回のSSW導入に大きな影響を与えたことは間違いないと思います。ただ、今回のSSW事業の導入については、文部科学省は必要性は認めながらも消極的だったようで、最終的に政治的な圧力もあって予算折衝過程で財務省から提案があり予算化されることとなったという非常に異例の展開をたどったようです。しかも、約15億円という予算は、事業開始の予算としては相当大きなものですので、教育界では、ちょっとした驚きと共に「どう対応したらよいかわからない」という困惑感が広がっています。
 確かに、事業化自体は評価できることですが、課題は山積みで正に前途多難です。何よりもまず、全国的にみると、文部科学賞を含めて、「スクールソーシャルワーカーが何をする専門職であるか」を判っている人がほとんどいないのです。当然のことながら、その役割を担うことができる人材も極めて限られています。人材育成や研修、SV体制についてのノウハウもほとんどありません。
 SSWに期待される役割は、簡単に言いますと、①校内チーム体制•対応のコーディネーター役、②子どもの様々な問題•症状についてのアセスメントやプランニングに関する先生へのコンサルティング役、③学校と家庭•保護者との橋渡し役、④学校と関係機関とのネットワーク作りと連携の窓口役等ということになりますが、これがなかなか簡単ではないのです。スクールカウンセラー(SC)については基本的かつ最後の「居場所」として、相談室で子どものカウンセリングをしていれば最低限の役割を果たすことができます。これに対し、SSWが上記の①~④の役割を果たすためには、福祉と教育に関する専門性に加え、教職員との信頼関係、保護者に対する対応能力、関係機関との調整能力等の様々な対人関係•調整能力が求められるのです。学校という独特の文化圏の中に飛び込んでいって、仕事ができる「居場所」を確保することは、なかなか大変なことです。過去3年間大阪府のSSW派遣事業に取り組む中で、その難しさを実感してきました。こんな力を持った人材が、多数存在するとはとても思えないというのが正直なところです。
 現在、全国の都道府県教育委員会は、文部科学省に対して具体的にどの程度の予算要求を出すか、そのために、SSW事業としてどのような制度設計にするか、SSWの人材をどのようにして集めるか等を慌てて検討しています。文部科学省の発表以降、大阪府教育委員会や滋賀県教委には、全国の都道府県教育委員会から、照会の電話が相次いでいるとのことです。
 文部科学省の事業はとりあえず3年程度を目処にしているものと思われますので、是非とも、この事業を成功させて継続発展させる必要があるのですが、人材確保のことを考えると本当に不安です。下手をすると、名ばかりのSSWになってしまい、大失敗に終わる可能性があります。
 せめて、私たちが直接関わることができる大阪府や滋賀県においては成功させる必要があり、人材確保をどのように行うのか、研修体制をどうするのか、活動面でのスーパーバイズ体制をどのようなものにするのかなど、全国のモデルとなるシステムができればと考えています。そのモデル作りに具体的に協力していきたいと考えていますので、SSW事業に少し注目してもらえればありがたいです。
 元々は前回に続いて、発達障害(3)として、「児童虐待等の愛着障害環境から生じる発達障害的な症状との見極め」について書く予定だったのですが、ちょっと嬉しいニュースがありましたので、SSWについて書きました。
 それから、昨年、下記の2冊の本を共編著等で書きましたので、関心を持っていただければ読んでみてください。
 ①「スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信
  ミネルヴァ書房 山野則子•峯本耕治 編著
 ②「子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて
  明石書店 小林美智子•松本伊知朗 編著
  なお、私は「第7章 介入•支援と連携─子どもの成長と発達を保障するために」を執筆しています。

スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信

山野則子(編集), 峯本耕治(編集) / ミネルヴァ書房 / 2007年8月1日
<内容>
はじまったばかりのスクールソーシャルワーカーの活躍を描く。スクールカウンセラーや養護教諭とともに様々な問題に悩む親子に、社会的問題を含めて解決にあたる事例を紹介します。今までにない児童生徒へのアプローチに非常な関心がもたれています。


子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて

小林美智子(著), 松本伊智朗(著) / 明石書店 / 2007年12月6日
<内容>
公権力の介入を求めるまで深刻化した子ども虐待。だが介入は虐待防止の切り札といえるのか。2005年の日本子ども虐待防止学会シンポジウムの記録を基に編まれた本書は、日英の経験をふまえ、虐待を防ぐために本当に必要な「ケアする社会」を構想する。




子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして

清水克之(著), 佐藤拓代(著), 峯本耕治(著), 村井美紀(著), 山野良一(著), 松本伊智朗(編集) / 明石書店 / 2010年2月5日
<内容>
子ども虐待と貧困との関係を乳幼児期から青年期までの子どものライフステージに沿って明らかにする。執筆者のまなざしは、親の生活困難に向けられ、子どもと家族の社会的援助の必要性を説き、温かい。貴重なデータも多数掲載している。


子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題

峯本耕治(編集) / 明石書店 / 2001年12月12日
<内容>
先進的なシステムをもつイギリスの児童虐待防止制度の詳細と、実際の運用状況を具体的に紹介する。ライン等も示し、問題点にも触れる。



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