エッセイ

蛇のこと

公庄れい

 集落から田んぼが消え、平行して蛇が減った。たまに蛇を見かけると、おっ生きとったか、頑張れよと声をかけたくなる程少なくなってしまった。
 去年秋、きのこを探して山の中の道を歩いていると前方に黒いおおきな固まり、近づくとその中から四つの蛇の首が立ち上がった。わたしの腕ほどもある大きな一匹の蛇がとぐろを巻き、3匹の小さな蛇が纏わりついているのである。しばらく見ていると、その中の少し大きいのが一匹、そこから離れて草むらに入った。あとの二匹は大きな蛇に甘えるように纏わりつき、とぐろの隙間に頭を突っ込んだりしている。
 蛇は春に交尾をするというから、眼前の蛇は雌雄ではない。大きい蛇は小さい蛇を呑むというのに、このおだやかな情景はなんだろう。大きい蛇は鎌首をもたげてわたしを見ているが、どっしりとして動こうとはしない。小さい蛇、人間なら三才、四歳といったところか、安心して大きな蛇に寄りかかっている。図鑑で調べると、この蛇はシマヘビの一種で、和歌山県ではカラスヘビというとある。本当のカラスヘビはこんなに大きくならないので、これはシマヘビなのだろう。
 『人間と蛇』─平凡社ライブラリー─にはこう書いてある。

蛇の繁殖条件は、冬眠から醒めた直後が最適のようである。そして子ヘビは夏の終わりに誕生する。孵化後の子ヘビには母ヘビの助は全く無く、すべての子ヘビは独力で生きる。外に出た小ヘビは激しい捕食の対象になる。又、大多数の小ヘビは最初の冬の寒さと飢えを切り抜けることが出来ない。地表に巣をつくるキングコブラは、からだの前方を曲げて枯れ葉の山に穴を掘り、その巣の底に産んだタマゴの上でとぐろを巻く。これで孵化した小ヘビの生存のチャンスが高まることに、ほとんど疑いはない。雌ヘビは一度きりの交尾のあと、長期にわたって精子を貯蔵し、出産を繰り返すことができる。

 わたしの見た大きな蛇は何年生きて、何度出産を経験して来たのだろう。草むらに逃げた子蛇は小学校低学年くらい、今は三匹の彼女の子供も、もっと多かったに違いない。子供の蛇たちは、この大きな蛇のそばでいるのが安全と分かっているのであろう。大きな蛇は出産を繰り返すうちに、この小さなものたちへの親しみをうっすらと感じるようになったのかも知れない。
 自然の営みの深い豊さに触れたひとときでした。

人間とヘビ かくも深き不思議な関係 (平凡社ライブラリー)人間とヘビ かくも深き不思議な関係 (平凡社ライブラリー)

R.&D.モリス(著), 小原秀雄(読み手), 藤野邦夫(翻訳) / 平凡社 / 2006年8月12日
<内容>
名著『裸のサル』で知られるモリス。その若き時代、妻との共著による衝撃のデビュー作。先史時代から現代まで、ヘビと人間の深い関係を博覧強記に追究する傑作。



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