保育•教育

定時制高校 青春の短歌 震災を詠む②

県立神戸工業高校 南悟

 七階の孤立した部屋蝋燭灯しますみと二人ポテトチップ頬張る  福本伸一

 兵庫区にある高層ワンルームマンションの七階で被災しました。彼には、生活を共にする女性がいて、そのふとんの上に家財道具のすべてが降りそそぎました。テレビなどが一度上にはね飛ばされて落下してくるものですから、まさに、降りそそぐといった表現がただしいのです。
 水道、ガス、電気のすべてが途絶え、食料はポテトチップスの袋だけで、外の町の様子をうかがって後、出て行く所も、なす術もなく、二人でポテトチップスを分け合い、一日過ごしていたそうです。
 翌深夜、携帯電話で北区の実家と連絡がとれ、ようやく迎えの車で被災地を脱出できたと言います。

手に負えへん崩壊家屋数えきれんジャッキアップしまくりまだ五◯軒  上杉義弘

 傾いた民家をジャッキアップ工法で修復する仕事のようすです。阪神•淡路大震災による全半壊の家屋数は、約四◯万戸というぼう大な数になりました。中には、傾いた家を持ち上げ、基礎の土台をやり直し、壁、柱、サッシ、屋根などを修理して使われる家が多数ありました。
 ジャッキアップの作業行程は、例えば二階建木造家屋で次のようです。手動の一◯トンジャッキ五本、五トン用五本、小さな二トン用を一五本程使い、四~五人の作業員がかかって一週間ほどの日程です。もちろん、ミリ単位で徐々に持ち上げるのですが、多くは土台の木材が腐食しており、新しい木材をあてがう手間が一番大変です。
 この作業に関わる上杉君たちのすごい点は、建築士一人が中心になり、ボランティアの若者たちが仕事を請け負っていることです。このために、ふつう一軒の相場は三百万円程だそうですが、その三分の一から四分の一の値段でこなしているとのことで、「困っている人に喜んでもらえるのが嬉しい」と、その日の出来事をいつも笑顔で語ってくれていた二◯歳の青年です。次の歌も詠みました。
ジャッキアップ家持ち上がりホッとするどこへ行っても涙でありがとう


生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)

南悟(著) / 岩波書店 / 2009年11月21日
<内容>
昼間働き夜学ぶ、定時制高校の生徒たちが指折り数えて詠いあげた31文字。技巧も飾りもない、ありのままの思いがこめられている。働く充実感と辛さ、生きる喜びと悲しみ、そして自分の無力への嘆き。生き難い環境の中で、それでも生き続けようとする者たちの青春の短歌。


ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春

南悟(著) / 解放出版社 / 2000年5月1日
<内容>
失敗や挫折や障害が癒され、人として生きる力が与えられる定時制高校の生徒たちの短歌、作文を紹介。NHKドキュメンタリー番組で放映。


定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)

南悟(著) / 岩波書店 / 1994年7月20日
<内容>
「大阪で道路舗装し夕映えの神戸の夜学に車を飛ばす」毎日、汗と油にまみれて働きながら、通学する夜間定時制高校の生徒たち。短歌に詠みこまれた喜び、悲しみ、悔しさ、そして恋─青春いっぱいの姿を教師が綴る。



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