保育•教育

定時制高校 青春の短歌 震災を詠む③

県立神戸工業高校 南悟 南悟

震災で神戸デパート焼け崩れ涙ながらに仕事失う  榊忍

 長田区にある神戸デパートの青果店を失職しました。震災で仕事を失った定時制高校生は、アンケート調査の結果、約三割にものぼります。そして、次の仕事がなかなか見つかりません。ゴム工場、港湾関係、零細事業所等が大きな被害を受けたのです。榊君は、幸いその後、深夜のコンビニエンスストアーに働くことができました。
 ある日の授業に、「今朝大変だった」と彼が血相を変えて飛び込んで来ました。深夜二時頃、一人で店番している所へ、四、五十歳の体格のたくましい男が、懐に凶器を忍ばせているかのごとく飛び込んで来、大声で「お前は米軍か日本軍か!」と詰め寄ったそうです。返事に窮していると、なお激高してにじり寄ってくるので、仕方なく「日本軍です」と答えると、今度は、「俺に敬礼しろ!」と言い、何度も何度も敬礼を強制したと言うのです。あげくの果てに「休め、敬礼!」の動作を繰り返させ、日本人や朝鮮人について論評し、さらに天皇についてどう思うのか、と言ったことなどを話し、約三十分間もの長きにわたって榊君を拘束したそうです。
 この間、客の出入りは一切なくて、救いを求めるすべもなく、懐手のままの「犯人」になされるがままの彼の恐怖体験は想像に余りあるものです。
 教室が、「これから日本軍と呼ぶ」「次は俺たちが押し入る」などと沸きあがり、授業所ではなかったのですが、それでも、皆の意見は、「深夜一人で店番させるところはやめるべきだ」というものでした。 「地震の方がこわかった」と言う榊君ですが、ガレキの中から救い出した人のことや死者のことは、「歌にしたくない」と触れたがりません。まだまだ気持ちが整理できないのです。

荒れ果てた広き更地に眼をみはる掘り当て探す水道管
依頼さる「通水調査」終えるたび長田の町に人々戻る  坂本隆志

 神戸市水道局で働く生徒の歌です。水道の水のありがたさは身にしみて忘れられません。ガスと水道は二ヶ月近く使えなかったのです。
 彼は、全日制高校の普通科を二年で中退し、その二年後、定時制神戸工業高校の一年生に入学し直し、二年時に水道局の採用試験に合格しました。
 この間、水道の復旧工事に忙殺されてきました。ガレキの山をかきわけ、図面通りでない水道管を探し当て、水漏れを点検して補修を行ない、送水へとこぎつけるのです。
 祖父は、鷹取商店街でたばこ屋を営んでいましたが、崩れた一階で焼死され、三日後に消防隊が遺骨を取り出してくれました。「おじいちゃんの供養にもなる」と、長田区で働く彼の頑張りを支えているようです。


生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)

南悟(著) / 岩波書店 / 2009年11月21日
<内容>
昼間働き夜学ぶ、定時制高校の生徒たちが指折り数えて詠いあげた31文字。技巧も飾りもない、ありのままの思いがこめられている。働く充実感と辛さ、生きる喜びと悲しみ、そして自分の無力への嘆き。生き難い環境の中で、それでも生き続けようとする者たちの青春の短歌。


ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春

南悟(著) / 解放出版社 / 2000年5月1日
<内容>
失敗や挫折や障害が癒され、人として生きる力が与えられる定時制高校の生徒たちの短歌、作文を紹介。NHKドキュメンタリー番組で放映。


定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)

南悟(著) / 岩波書店 / 1994年7月20日
<内容>
「大阪で道路舗装し夕映えの神戸の夜学に車を飛ばす」毎日、汗と油にまみれて働きながら、通学する夜間定時制高校の生徒たち。短歌に詠みこまれた喜び、悲しみ、悔しさ、そして恋─青春いっぱいの姿を教師が綴る。



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