児童虐待•子どもの貧困

岸和田児童虐待事件は、なぜ、起こったか?

弁護士 峯本耕治

 「何について書こうかな」と思っているうちに(これは嘘ですが)、またもや、印刷数時間前の限界時間になってきました。

 これだけ虐待事件がマスコミを賑わせていることを考えると、やはり、岸和田の児童虐待事件について書かないといけないかなと思います。
 岸和田の児童虐待事件は、大阪の児童相談所関係者にとっては本当にショッキングな事件でした。「知る人ぞ知る」の世界の話しですが、大阪は、児童虐待防止の取組が全国で最も進んでいると自他共に認める地域で、もちろん、色々問題はあるものの、児童相談所のレベルも全国で最も高いと言われていました。ですから、今回の事件は、その大阪の自信と評価を一挙に覆してしまう、まさに、トラウマティックな事件でした。

 「学校は、もっと早く虐待に気づけたのではないのか?」「学校が虐待の疑いをもって児童相談所に相談したのであれば、どうして、きちんと児童相談所が動いてくれるところまで、責任を果たさなかったのか?」「児童相談所は、虐待の相談を受けていたにもかかわらず、どうして動かなかったのか?」

 今回の事件だけを見れば、学校にとっても、児童相談所にとっても、本当に、後悔ばかりが残ります。ですから、学校長も児童相談所所長も、ほとんど何も弁解することなく謝罪の言葉を繰り返しています。児童相談所の所長は、私もよく知っている方で、虐待防止に本当に熱心に取り組んで来られた大変真面目な方ですので、見ていて本当に辛かったです。

 今回のケースについて、児童相談所は、結局、最後まで、虐待ケースとして対応することができませんでした。学校からの相談が持ち込まれたのが、児童相談所の「虐待対応課」ではなく「家庭支援課」であったのが、最初のボタンの掛け違えです。確かに、学校は家庭支援課への相談に際して虐待の疑いがあることを伝えてはいるのですが、他の多くのケースと一緒に相談したことや、あくまでも不登校ケースとしての相談であったために、児童相談所も、これほど深刻な虐待ケースであるとの危機感を全く持たず、そのまま、虐待対応課に伝えられることもなく、最後まで虐待対応が行われなかったのです。

 ただ、もちろん、岸和田事件は決して特異な事件ではなく、いつ、どこで、起こってもおかしくない事件です。私自身は、正直なところ、起こるべくして起こったという印象を持っています。いくつか理由があって、少し詳しくお話ししたいのですが、ごちゃごちゃと書いている間に約束していた字数を使いきってしまいましたので、ポイントだけを挙げて、中身は次回にしたいと思います。

第1は、不登校の背景にある虐待の問題が非常に深刻な状況にあること、
第2は、虐待を背景に持つ不登校ケースへの対応が一般的に困難であること、
第3に、虐待の中でも、特にネグレクト(養育の怠慢•拒否)への対応が大変困難であり、現在の体制が極めて不十分なものであることです。

 岸和田事件は、このような構造的な背景•原因のもとで、起こるべくして起こってきた事件であり、そこから導かないといけない教訓がいくつもあります。
 内容が内容だけに、次回はもう少し余裕を持って書きたいのですが、やっぱり、無理かな?

(字数の制限はありませんので、是非詳しくお聞かせください)


子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして

清水克之(著), 佐藤拓代(著), 峯本耕治(著), 村井美紀(著), 山野良一(著), 松本伊智朗(編集) / 明石書店 / 2010年2月5日
<内容>
子ども虐待と貧困との関係を乳幼児期から青年期までの子どものライフステージに沿って明らかにする。執筆者のまなざしは、親の生活困難に向けられ、子どもと家族の社会的援助の必要性を説き、温かい。貴重なデータも多数掲載している。


子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて

小林美智子(著), 松本伊智朗(著) / 明石書店 / 2007年12月6日
<内容>
公権力の介入を求めるまで深刻化した子ども虐待。だが介入は虐待防止の切り札といえるのか。2005年の日本子ども虐待防止学会シンポジウムの記録を基に編まれた本書は、日英の経験をふまえ、虐待を防ぐために本当に必要な「ケアする社会」を構想する。


スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信

山野則子(編集), 峯本耕治(編集) / ミネルヴァ書房 / 2007年8月1日
<内容>
はじまったばかりのスクールソーシャルワーカーの活躍を描く。スクールカウンセラーや養護教諭とともに様々な問題に悩む親子に、社会的問題を含めて解決にあたる事例を紹介します。今までにない児童生徒へのアプローチに非常な関心がもたれています。


子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題

峯本耕治(編集) / 明石書店 / 2001年12月12日
<内容>
先進的なシステムをもつイギリスの児童虐待防止制度の詳細と、実際の運用状況を具体的に紹介する。ライン等も示し、問題点にも触れる。



Sponsored Link

続きを読む

Sponsored Link

Back to top button
テキストのコピーはできません。