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2017年(平成29年)6月25日、新潟県の新発田市立第一中学校の男子生徒(中学2年生•13歳)は、中学1年生の時からほぼ毎日、複数の生徒にからかいや冷やかし、仲間外れなどのいじめを受けていたことを苦にして自死した。
6月26日、市教委は記者会見で、「生徒は、学校でいじめられていると家族に打ち明けていた。しかし、市教委は担任はいじめを把握しておらず、暴力があったとの事実も確認されていない」と説明したが、家族はそのようなことは聞いておらず、男子生徒へのいじめは授業中にも行われ、生徒は連絡ノートや教育相談を通して繰り返しSOSを発しており、学校側も男子生徒へのいじめを認識していたが、保護者と情報共有していなかったことが後に判明した。
2018年10月5日、第三者委員会は学校でのいじめを認定し、「心身の苦痛を感じていたことは明らか。自殺の原因はいじめにあると推定できる」との報告書をまとめた。
遺族は、男子生徒が自死したのは学校側がいじめに適切な対応をしなかったことが原因であり、市が加害生徒の氏名の開示に応じていないのは不当であるとして提訴した。
2020年6月、新潟地裁は、担任が「いじめかもしれないという認識はあった」と証言していたが、学校側の対応には問題はないとして、市の注意義務違反を認めなかった。また、保護者の知る権利よりも加害生徒のプライバシー保護を重視し、氏名を非公開とした市側の対応を支持した。
事件の経緯
2017年5月 教育相談で担任は「まだいろんな名前で呼ばれる?」と聞いたところ、生徒は肯定した上で「むかつく」と回答した。担任は相談の継続を呼び掛けたが、生徒は「昼休みは遊びたいし、放課後も早く帰りたい。めんどくさいのでいいです」と断ったという。
6月23日に男子生徒は、家族に「クラス全員に仲間外れにされている」と打ち明けていたと6月26日の市教委の記者会見で発表された。(市教委の説明に対して、遺族は「聞いていない」と否定している1。)
6月25日早朝、生徒は自宅敷地内の作業小屋で首を吊って自死した。
6月26日夜、学校側は保護者らを集めて事態を説明した。
7月3日 市教委は、いじめがあったと認めた上で、学校として重大な問題と認識できなかったと謝罪した。学校の調査で、5月頃から男子生徒を「アニメのキャラクターの名前などを挙げてからかい、追いかけるようなことがしばしばあった」とした。
8月4日、男子生徒の父親は弁護士とともに市教育委員会を訪れ、専門家でつくる第三者委員会のいじめに関する調査では、委員自らが教諭や生徒から聞き取りを行うよう求める意見書を提出した。また、学校側が作成したアンケートの要約などではなく、生徒が記入したアンケート用紙や聞き取りの際のメモを基に調査を進めるようにも求めた。更に、消しゴムを投げつけるといった暴力的ないじめや、仲間外れにするような言葉のいじめがあったかも調べるよう求めた。父親は「包み隠さず報告してほしい」と意見書を手渡した。
父親は取材に対し、遺族の要望を伝えるまで学校は主体的に調査をしようとせず、第三者委員会に任せ切りのようだと指摘し、学校側の対応に誠意が感じられないとして、「(息子は)学校に殺されたと思っている」と不信感をあらわにしており、「学校には人を殺したという自覚があるのか疑問だ」と悔しさを滲ませた。また、男子生徒が自殺の数日前、いじめられていると家族に相談したと市教委が説明していた点について「聞いていない」と否定した。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
市教委は今後、同級生らに聞き取りなどを実施し、常設の第三者委員会で経緯や原因を調べるとした。
2017年8月12日 初会合
調査委員
弁護士、精神科医、福祉関係者ら委員6人。
委員長:工藤ひとし元中学校長
近藤正道弁護士
有田正知医師
神田紀子新潟県新発田市児童相談所長
藤間啓子新発田市社会福祉協議会事務局長
久住和明青少年健全育成センター所長
臨時委員(平成29年9月5日から):中川雅博弁護士
調査報告書•その後
2018年10月5日 報告書を市教委に提出した。
男子生徒は「ほぼ毎日」複数の生徒にからかわれ、相手を追いかけざるを得ない窮状にあったにもかかわらず、教師たちは傍観しており、「自殺の原因はいじめだと推定できる」と認定した。教員たちを「感性、想像力が足りなかった」と糾弾した。
報告書によると、男子生徒は1年の夏休み明け以降、関わりのなかった生徒からあだ名で呼ばれ、他クラス生からも揶揄われるようになった。2年に進級すると「状況はエスカレート」。からかった相手を追いかけるようになり、相手は逃げるのを楽しんだなど、いじめがあったと認定し、男子生徒が「からかいに被害性を感じ、心身の苦痛を感じていたことは明らか」だと断定し、「自殺の原因はいじめにあると推定できる」とした。
からかいの様子は多くの教職員や生徒たちに目撃されていたが、「楽しそうに見えた」(教職員)、「嫌がっているように見えなかった」(生徒)と見過ごされてきたという。昨年4、5月には男子生徒が担任に「あだ名で呼ばれている」と複数回伝えたが、担任はいじめと認識せず、保護者にも伝えなかった。
教師が生徒と向き合う時間が不足したことがいじめを見逃す要因になったとして、教員定数を増やすよう国や県に提言した。
「調査報告書(概要版)」(PDF:5MB)
同日、記者会見した男子生徒の父親は、「この報告書では誰がどのようないじめをしたか全く分からない」と述べ、いじめた生徒たちの名前を自身に開示すべきだと訴えた。
2019年3月18日 遺族が加害者氏名の開示を要求していたことに対し、市の個人情報に触れるなどとして「開示できない」と回答した。
市教委は非開示理由について、「加害生徒側からも訴訟を起こされるリスクを考慮した」と説明した。
2018年10月5日、山田亮一教育長は、男子生徒の父親の自宅に謝罪に訪れた際、「(保護者説明会に)お前も来るか」などと話した。父親は「この場ではあり得ないと思った。(自殺のことを)軽く見ているのかなと思う」として不快感を示した。山田教育長は10日、「私のその場にふさわしくない発言が、ご遺族の心を深く傷つけたことについておわび申し上げます」とコメントし、17日付で辞職した。
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2020年1月24日 男子生徒が自殺したのは、学校側がいじめに適切な対応をしなかったことが原因などとして、両親が市に3,000万円の損害賠償を求め提訴した。
また、遺族が加害生徒について知りたいのは当然なのに、市が氏名の開示に応じていないのは不当だとしている。
一審(新潟地裁)
2022年6月 島村典男裁判長は「いじめに当たりうる行為は認められる」が、「担任の教諭が男子生徒や加害生徒から詳細に事情を聴かなかったことなどが不合理だったとまでは言えない」として、市の注意義務違反と加害生徒の氏名の開示を認めず、遺族の請求を棄却した。
裁判では、担任が「いじめかもしれないという認識はあった」と証言したが、判決は、いじめについて「個々の出来事は相対的に悪質性が高い行為とは必ずしも言えない」などと指摘し、学校側が局面に応じて対応していたとして、市の注意義務違反を認めなかった。
また、「リーダーや首謀となった加害生徒がいたとの事情は認められず、特定の加害生徒がいじめを行ったような場合の氏名の開示とは事案を異にする」として、保護者の知る権利よりも加害生徒のプライバシー保護を重視し、氏名を非公開とした市側の対応を支持した。
参考資料
“「息子は学校に殺された」 遺族が市教委側の説明否定 委員自らの聞き取り調査要望” 産經新聞 (2017年8月5日) 他
- “新発田の中2男子自殺 家族にいじめ打ち明けるも市教委は「暴力は確認されていない」” 産經新聞 (2017年6月27日)