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2012年(平成24年)9月2日、兵庫県立川西明峰高等学校の男子生徒(高校2年生•17歳)が、同じクラスの複数の生徒から教室の椅子に蛾の死骸を置かれたり、「虫」や「菌」などと呼ばれたり、勝手に椅子や机を移動されたりする暴力を受けたことを苦にして、自宅で自死した。
2016年3月30日 神戸地裁で、加害生徒の行為は「悪質ないじめ」であり、「人格を深く傷つけ、大きな精神的苦痛を生じさせた」と指摘していじめを認め、「いじめの結果として自殺した」として、兵庫県と加害生徒3人に対して、計約210万円の支払いを命じる判決が出た。
学校側の責任については、「いじめを容易に認識することが可能だった。いじめ行為を発見するための措置を漫然と講じなかった」として、安全配慮義務違反が認められた。
男子生徒が亡くなった翌日に、校長が遺族に対して、「亡くなったことを学年集会で説明する際には、自殺ではなく不慮の事故ということにできないか」と打診するなど、学校側の不適切な対応も指摘された。
事件の経緯
(茶色の文字は、学校と教育委員会の対応です。)
2012年4月 男子生徒は2年進級後、加害生徒らと同じクラスになった。4月下旬頃、男子生徒と近い座席に座っていた加害生徒の1人が、この男子生徒に声を掛けたが無視されたと思い込み、「無視」の意味で「虫」と呼び始めた。近くの席だった別の2人の男子生徒も一緒になって「虫」と呼び、男子生徒の椅子の上に蛾の死骸を置く、筆箱を取る、消しゴムのカスを投げつけるなどの行為をした。
男子生徒は、5月から7月にかけて計3日、学校を休んでいた。5月は両親に「学校に行く」と言いながら無断欠席。6月は腹痛を訴えて欠席した。この際に担任が男子生徒に話を聞き、「頑張って学校に行くので大丈夫」と話したため、問題は解決したと判断したという。
6月上旬 加害生徒は、男子生徒を別の生徒にぶつけようとして、「エキスが付く」などと馬鹿にする行為を行った。
6月 同級生の女子生徒が「男子生徒の机が違う場所にわざと動かされている」と担任教師に訴えていたが、高校は男子生徒に事実関係を確認していなかった。高校によると、女子生徒も机を動かされるいたずらを受け、6月に担任教師に相談。自死した男子生徒も同じいたずらを受けていると伝えた。担任はいたずらをした生徒を呼び出して指導し、女子生徒へのいたずらはなくなったが、男子生徒については「本人からの訴えがなかった」として聞き取りはせず、放置した。(高校は「こちらから確認すると本人を傷つけることになりかねないと判断した」と説明している。)
9月2日 2学期の始業式の前日に男子生徒が自宅で自死した。遺書などはなく、家族は、最初は「思い当たる節はない」としたが、同級生らが男子生徒の棺に入れるために書いた手紙にいじめを示唆する内容があり、両親が学校に調査を求めた。
9月3日 校長は、遺族に対して、「亡くなったことを学年集会で説明する際には、自殺ではなく不慮の事故ということにできないか」と打診していたが、遺族側は打診を断った。
9月6日 教員は、男子生徒の友人や同級生から聞き取り調査を始め、2年生全員を対象にアンケートを取り、いじめの実態を把握した。14日夜、「精神的な苦痛があった」と事実を認めて両親に謝罪したが、自死との因果関係について「分からない」と説明した。
9月15日 校長は、マスコミの取材に応じ、「いじめに気づけなかったのは非常に残念。男子生徒の両親には謝罪した」と話した。校長らによると、男子生徒は今春以降、複数の生徒から教室の椅子に蛾の死骸を置かれるほか、「ムシ」「菌」と呼ばれたり、体が触れそうになった際に「ばい菌が付く」と言われたりしていたという。これらの行為について、校長は「いじめと判断した」と説明。暴力や金銭の要求などはなかったとし、「いじめと自殺との関連はわからない」と述べた。担任教諭らはいじめを全く認識しておらず、校長は「生徒に目が行き届かないこともある」と釈明した。
9月17日 校長は記者会見で、いじめに関わっていたのは生徒3人だったと明らかにし、いじめと自死との関連について、「生徒が自ら命を絶っているので、全く関連性がなかったとも言い切れない」と話した。自死の翌日に「不慮の事故」として説明することを打診したことについては、「心に影響を受けやすい年ごろなので、自殺というインパクトのある言葉ではなく、穏やかな表現にしたかった。今も不慮の事故という言葉を使うべきだったと思っている」と強調した。
9月15~17日 加害者の3人の同級生は、男子生徒の自宅を訪ねて「申し訳ありませんでした」と謝罪をした。3人が男子生徒に「無視された」と感じた場面があったことを契機に、男子生徒のことを「無視」と同音の「虫」と呼ぶようになった経緯や、消しゴムを投げつけたり、筆箱を取り上げるといったいじめをしたことを聞き出した。3人とも頭を下げたが、両親には「反省の気持ちは感じられなかった」という。
9月18日朝 高校で臨時の生徒集会が開かれた。会は非公開で、全校生徒約800人が参加。校長は、「調査の結果、いじめがあった。『いじり』もいじめになることがあるのでよく考えてほしい。自殺との関連性は判断できない」と語ったという。男子生徒の自死後、「亡くなったことを考えるとつらい」などの理由で、数人が休みがちになっているという。
9月19日 学校側は保護者説明会を行った。しかし、担任や2年学年担当教員は全く出席しなかった。校長は、「デリケートな問題だから校長判断で参加を見送った」と伝えた。しかし、別の教諭は「責められるのを防ぐためだ」と話したとも指摘された。事件の経過も、学校側の一方的な説明に終始した。一方的な運営に、参加者からは怒号が飛ぶなどして紛糾したとも報じられた。
9月20日 生徒指導担当教諭は、自身が担当する教科の授業で、「遺族は学校を潰そうとしている」「体育祭や修学旅行があるが、それもどうなるかわからない」「遺族には申し訳ないが、同情する気はない」などと中傷発言を行った。
10月15日 学校は、2年生275人に実施したアンケートや聞き取り調査の結果をまとめた文書計68枚を両親に開示した。それによると、半数の生徒がいじめがあったと答え、いじめは2年生から始まったという回答が多かったという。アンケートでは「見たこと」として、「『虫をたべろや』といわれたのを授業中に見た」「毎日のように『ムシ』といわれる」という記述があった。さらに、「聞いたこと」として、「虫を食べさせられそうになった」「弁当に誰かが虫を入れたので、残して帰った」という記述もあった。
同級生10人は高校の聞き取り調査に、「授業で男子生徒が集中的に指名される嫌がらせがあった」と回答。高校によると、授業は現代国語で、教諭が最初に指名した生徒が回答した後、その生徒が次に回答する生徒を出席番号で指名する形式をとっていた。一部の生徒によると「当てっこゲーム」と呼ばれ、男子生徒は1回の授業中に集中的に指名されることがあった。高校は「特別多いわけではなかった」と反論した。
両親は「(アンケートは)打ち直されているので、本当は原本を見せてほしかった。学校は『これですべてを開示した』としてほしくない」と話している。
事件や、その後の不適切対応が相次いでマスコミで報じられたことで、学校への批判が高まった。学校名は報じられなかったものの、テレビ番組で校舎や生徒の制服などがモザイク越しに放映されたこともあったことで学校が特定され、無関係な生徒が通行人から言いがかりを付けられて中傷されるなどの状況が生まれたとして、学校側は生徒に対して「当面の私服登校」を指示したという。
男子生徒は夏ごろから情緒不安定になり、夜中に「虫がおる」と泣き出したり、登校を渋ったりしていたことが両親の話で分かった。男子生徒は同級生から「虫」と呼ばれ、椅子に蛾を置かれるなどのいじめを受けており、母親は「今考えると、いじめで追い詰められていたのでは」と話した。学校側は2012年6月にいじめをうかがわせる情報を得ながら対応しておらず、母親は「情報を教えてくれれば学校に行かせなかった」と悔やんだ。
両親によると、2012年8月中旬、夜中に寝ていた男子生徒が突然目を覚まし、布団をめくり、懐中電灯を持ち出して「ここにムカデみたいな虫がおる」と泣き出した。実際には虫はいなかった。梅雨時には、部屋に飛び込んできたカメムシを「はよ殺して」と叫んだ。高校に入るまで虫を怖がる様子はなかったため、母親は驚いた。夏休み前には弁当をほとんど食べずに帰った日もあった。男子生徒は昼食時、別の教室に行って友人と一緒に弁当を食べており、母親が理由を尋ねると「今のクラスになじめない」と答えたという。母親は「学校に行くように厳しく言ってしまった。今思えば学校をやめさせればよかった」と後悔の念を述べた。また、8月に男子生徒は、スマートフォンで自殺の方法などを20回以上検索していた。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
設置主体:川西市子どもの人権オンブズパーソン
2012年9月24日 男子生徒の遺族が、川西市子どもの人権オンブズパーソンに調査を依頼した。
オンブズパーソンの調査権には制約があり、高校側が拒んだため、生徒への聞き取りはできなかった。
学校のアンケート、関係生徒からの聞き取り書面、遺族と学校関係者との会話テープ、関係教職員からの聞き取り、その他の大人からの聞き取り、遺族からの聞き取りを行った。
全26回の協議が行われた。
調査委員
氏名公開
オンブズパーソン
調査報告書
2013年3月28日 調査報告書を、遺族、高校、兵庫県教委に提出した。全70頁
男子生徒が「学級内で孤立状態にあり、周囲の生徒や教員から支えがない中で一方的ないじめを受け続けた」とし、「自殺の原因となった可能性は極めて高い」と結論付けた。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
名称:いじめに関する調査及び再発防止に係る委員会
設置主体:兵庫県教育委員会
適用:第三者委員会
2012年11月1日 県教委が、川西市内の県立高等学校における「いじめに関する調査及び再発防止に係る委員会」を設置した。
いじめの実態、いじめの背景及びいじめと自殺の関連について調査を行い、同様の事案の再発防止•予防に関する取組等について検討を行う。
学校が行ったアンケートや関係生徒からの聞き取り書面、県教委や他高校の関係教職員からの聞き取り、遺族からの聞き取り、加害生徒3人を含む関係生徒9人からの聞き取りを行う。
全21回の会議が行われた。
調査委員
委員4名。氏名公開。
委員長:兵庫県臨床心理士会長 (大学健康科学部心理学科教授)
委員:兵庫県立大学環境人間学部教授
弁護士 (大阪弁護士会)
「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」委員
調査報告書
2013年5月2日 報告書を県教委や同校校長に提出した。
男子生徒が同級生3人から「虫」とあだ名を付けられたり、虫の死骸を椅子に置かれたりするいじめがあったと認定した。
いじめが無力感を生み、孤立感を強めたとしたが、遺書など生徒本人の記述が残されていないなどとして、「(いじめと自殺を)一直線に結びつける明らかな事実は見いだせなかった」と因果関係を否定した。
学校側は、同級生3人について、問題がある生徒とは認識していなかったとし、事前に「いじめを疑うべきだったとは断定できない」とした。また、問題発覚後の保護者会などで、自殺について「不慮の事故」と説明していたことにも、遺族への配慮が不足していたとしながら、「隠蔽の意図はなかった」と結論付けた。
その後
2013年5月 両親が、調査報告書に10数カ所の事実の誤りがあるとして、学校へ修正を申し入れていたことが判明した。
2017年3月28日 日本スポーツ振興センターが、死亡見舞金の支給を決定した。
5月25日 民事裁判の判決で、いじめと自殺の因果関係については、「合理的な疑いを挟む余地はない」とし、同級生3人と県に損害賠償請求の支払いを命じたことを受け、学校は地裁の判決文などを引用し、いじめと認定された行為を明記し、自殺といじめとの関連を認める記述を盛り込んだ追加報告書を提出した。
加害者の処分
2013年1月9日 両親が同級生3人を川西署に告訴した。
2013年5月1日 兵庫県警は、自死した生徒に「菌」「虫」などと悪口を繰り返したなどとして、同級生3人を侮辱容疑で書類送検した。
2013年12月中旬 神戸家庭裁判所は、侮辱の非行事実で3人を保護観察処分とした。
民事訴訟
提訴
2013年12月4日 男子生徒の遺族は、兵庫県及び担任教諭•生徒指導担当教諭•校長と、いじめに関与したとされる同級生3人を相手取り、約8,860万円の損害賠償を求めて、神戸地裁に提訴した。
証人尋問
2015年8月28日には当時の担任や校長への本人尋問が神戸地裁で開かれ、当時の担任は同級生の行為について「いじめではないと認識していた」と述べた。
当時担任の男性は2012年の1学期、別の生徒から相談を受け、男子生徒の椅子が同級生に入れ替えられていることを把握していたが、生徒や両親に伝えなかった。「本人が気付いていない可能性が高く、精神的な苦痛は感じていないと思った」と振り返った。
当時の生徒指導部長の男性は、生徒の自殺後、授業中に「遺族は理解してくれない。このままでは学校がつぶれる」などと発言したことについて、「学校への非難の電話やマスコミ対応に追われていた。遺族を非難するつもりはなかった」とした。
元校長の男性は、自殺をほかの生徒に説明する表現として、遺族に「不慮の事故という表現を用いたい」と打診した。その理由を「県教委とも相談し、後追い自殺を防ぎたかった」などと述べた。学年集会前に遺族宅を訪問したと主張したが、原告側は否定し、食い違いが目立った。
閉廷後、両親は「担任が息子への嫌がらせを把握した時点で情報をくれていれば、自殺は防げたはずだ」と声を絞り出した。
一審判決
2016年3月30日 神戸地裁(伊良原恵吾裁判長)は、加害生徒の行為は「悪質ないじめ」だとしたうえで、「人格を深く傷つけ、大きな精神的苦痛を生じさせた」と指摘していじめを認め、「いじめの結果として自殺した」として、兵庫県と加害生徒3人に対して、計約210万円の支払いを命じる判決を出した。
「いじめではないと認識していた」とした担任教諭の主張に対しては、いじめが大勢の生徒の前で展開されていたことなどから、「いじめを容易に認識することが可能だった。いじめ行為を発見するための措置を漫然と講じなかった」と指摘し、校長も「教諭を指導、助言した形跡がない」として、2人の安全配慮義務違反を認めた。
また、男子生徒の自殺後に生徒指導担当の教員が、「遺族は全然理解してくれない。このままでは学校がつぶれ、修学旅行にも行けない」などと授業前に別のクラスで生徒たちに発言したことも不適切だったと指摘し、担任教諭らのいじめの対応を含めて、賠償責任は学校主体主の県にあるとした。
一方で、いじめと自殺の因果関係については、「合理的な疑いを挟む余地はない」としたものの、「激しい暴行などを長期間に継続し、重大な苦痛を与え続けたものではない」として、「自殺までは予見できなかった」ので法的責任はないとして、いじめと自殺は賠償責任が生じるほどの因果関係は認められず、生徒が受けた精神的苦痛に対する慰謝料に留めた。
判決後の会見で、両親は「少しは息子の思いが伝わったが、満足できない」と語り、県教委も「判決内容を検討し、今後の対応を考えたい」とするコメントを出したが、原告側、及び被告側の兵庫県•加害生徒側共に控訴せず、一審判決が確定した。