矢巾町立矢巾北中学生自死事件

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2015年(平成27年)7月5日、岩手県の矢巾町立矢巾北中学校の男子生徒(中学2年生•13歳)は、中学1年からバスケットボール部の同級生や複数の同級生らから暴言や暴力を受けていることを苦にして自死した。

男子生徒は「生活ノート」を通して何度も担任にいじめを訴えていたが、担任教師は的外れな返答に終始し、男子生徒を更に孤立させた。

2015年7月26日 学校は生徒や教職員に聴き取り調査を行い、「いじめが自殺の一因と考えられる」とした報告書をまとめた。尚、矢巾町でこれまで0としていたいじめ認知件数について、調査をやり直した結果、2014年度に30数件のいじめがあったと確認した。

2016年12月23日 第三者委員会は、男子生徒が部活動の練習中に同級生から受けた暴言や、暴力は「いじめ」に当たると認定した。男子生徒が生前、学校の「生活ノート」に「死」を仄めかす記述を残していたことについて、第三者委員会は「いじめ」が一因であると認めたが、遺書が残されていないなど、自殺を決意した経緯が分からず、自殺の主な原因と特定することは困難と結論付けた。

事件の経緯

男子生徒は中学1年からいじめを受けていた。2年生のクラス替えをきっかけに「特定のグループに毎日のように頭を叩かれ、髪の毛を掴まれて机に頭を打ち付けられる」などの暴行を受け、「本人は『やめて』と嫌がっていた」が、「クラスの他の生徒たちは、関わりたくないので距離を保っていた」(複数の同級生談)。男子生徒は泣きながら担任に相談し、担任は加害者を別の部屋に連れて行き叱るなどしたが、グループの態度はその後もあまり変わらず、別の生徒も特定のグループが男子生徒の机を蹴るのを見たが、「怖くて何も言えなかった」と話していた。2015年春の運動会の予行演習中には、複数の同級生から砂を掛けられ、男子生徒が「やめて」と言ってもしつこく続けていたのを複数の生徒が目撃していた。また、男子生徒が体をぶつけられて言いがかりを付けられたり、給食の配膳中に体を押されたりすることもあった。

男子生徒と担任間の「生活記録ノート」には、「なぐられたり、けられたり、首しめられたり」と書かれ、自死前の欄には「ボクがいつ消えるかはわかりません」「ただ市ぬ(ママ)場所はきまってるんですけどね」などと自死を仄めかす記述が約3カ月に渡って残っていた。(ノートは6日に県警から男子生徒の父親に返却された。)

7月1日から2日は宿泊研修で、3日は男子生徒は発熱を理由に学校を欠席した。

2015年7月5日午後7時半頃、男子生徒は矢巾町又兵エ新田のJR東北線矢幅駅のホームから線路に飛び込み、進入してきた盛岡発一ノ関行き上り普通電車(4両編成)に轢かれ、約40分後に列車の下から運び出されたが死亡が確認された。現場は同駅上り線のホームの北側で、運転士が急ブレーキをかけたが間に合わなかったとみられる。列車の乗務員や消防によると、男子生徒はリュックサックを背負い、列車が到着する直前にホーム上で動き回っていたという。

7月26日 いじめの有無を調べていた同校は調査報告書で、男子生徒へのいじめは1年~2年にかけて6件あり、その積み重ねが自殺の一因になったと認めた。学校は行為があった当時は6件全てでいじめとの認識を持てず「判断できない事案もあわせ、積み重ねが苦痛を増大させた」と分析し、「いじめが自殺の一因であったと考えられる」と結論づけた。

報告書では全校生徒が対象のアンケートを基に、いじめが疑われる13件を詳しく検証し、全校集会で列に入れない、机に頭を押さえ付けるなどの他、練習中にわざと強いパスを出すなど、バスケットボールの部活動中も含め、2014年7月~2015年6月に起きた6件をいじめと認定した。関わった生徒として7人の名前が挙がったが、「覚えていない」と話す生徒もいた。

校長は記者会見で「学校の最高責任者として、大きな責任を感じている。」と学校の対応について謝罪した。校長から説明を受けた男子生徒の父親は、詳しいアンケート結果の提出を求め、同日、県警本部に暴行容疑などで告訴状を提出し受理された。

7月27日 同校は臨時の全校集会を開き、1年生の時から男子生徒へのいじめがあり、自殺の一因になったとする調査報告書の内容を生徒に説明した。

10月20日 岩手県議会は、いじめ問題への対応を強化するため、対策委員会や再調査委員会を常設するなど3つの条例を可決した。(「県いじめ問題対策委」は県教委の付属機関として常設し、弁護士や学識経験者ら10人以下で構成し、いじめ防止のために助言する他、県立学校でいじめによる自殺などの重大事態が発生した時は、第三者委員会として調査に当たるとした。「県いじめ再調査委」は知事の付属機関として設置し、県立学校や私立学校が行った調査について、知事が必要と認めた時に再調査を行う。)

加害者の処分

県警は同級生や教職員から事情を聴いたり、校内で実況見分をするなど捜査を進め、このうち、当時14歳の少年は2016年2月26日に岩手県警により書類送検され、6月6日に盛岡地検により暴行容疑で家庭裁判所に送致されたが、盛岡家裁(中島経太裁判長)は12月21日の少年審判で不処分と決定した。(不処分は非行事実がないと判断し「保護処分に付さない」とする決定で、刑事裁判の無罪に相当する。)

付添人によると、同日の審判には同級生と同級生の親が出廷し、2015年6月3~10日に男子生徒の背中を叩いたり蹴ったりした行為と、同24日に教室で男子生徒の胸ぐらを掴み、無理矢理立たせたり腕を押さえつけりした2件の暴行容疑を審理した。同級生は何も当初から「絶対にやっていない」と容疑を否認し、胸ぐらを掴むなどした行為について「◯◯(男子生徒の名前)君が先に手を出し、(自分が)腕にけがを負った」と主張していた。同家裁は「正当防衛の可能性もあるが、双方の暴行の経緯や態様は不明だ」と指摘した。

調査委員会

調査委員

人選の半分以上に遺族の意向を反映させた。

委員長:須山通治弁護士
委員:吉江洋弁護士
土屋昭広岩手大教育学部准教授
吉田智之岩手医科大学医学部助教授
精神科医で宮城県子ども総合センター技術次長
宮城大看護学部准教授

調査報告書•その後

2016年12月23日 (全200頁) 第三者委員会は、男子生徒へのいじめが「死にたい」と考える一因になったと認定し、学校対応が不適切だったとする調査報告書を町教委に提出した。いじめが自殺に対し、どの程度の影響を与えたかは「自殺を決意するに至った経緯が不明で、断定できない」と判断した。再発防止に向けた提言も盛り込んだ。

報告書によると、男子生徒は1年生の時の部活動では技術が未熟だったにもかかわらず、部員から同じ練習を強いられ、失敗を責められた。2年生になると、同級生4人から教室内で机に頭を押し付けられたり、顔を殴られたりした。これらの一連の行為をいじめに当たると認定し、学校の調査で認定されなかったゲーム「太鼓の達人」の操作の真似を強要されたこともいじめと判断した。

委員長は、男子生徒が遺書を残しておらず、自殺の前の行動などの情報も少ないため、「いじめが自殺にどの程度、影響を与えたか断定はできない」とした。「いじめが自殺の原因であったと、完全に否定するつもりは無いが、これ(いじめ)が主たる原因として、この子が自殺に至ったというところまで、断定するのが困難だというのが我々の最終的な結論」とも述べた。

学校の対応については「学校全体、学年全体としての対策が極めて不十分」と指摘し、「死」という言葉を生活記録ノートに記載したことを一度も生徒の保護者に情報提供しておらず、「学校の不適切な対応」とした。

2016年12月23日 「調査報告書【概要版】」(PDF:1MB)

学校関係者の処分

2017年3月28日 町教委は報告書を受けて、男性校長をいじめ防止に向けた適切な対応を取らなかったとして、減給1か月(10分の1)の懲戒処分、女性副校長は校長を補佐すべき立場としての責任を問われ戒告処分、担任だった女性教諭は自殺の兆候を認識できず、クラスに適切な指導を行わなかった点を指摘され戒告処分、男子生徒が1年生だった当時の男性校長も「いじめ防止の環境を整えなかった」などとして戒告処分とした。

「生活記録ノート」のやり取り

2014年10月29日
先生……、僕の心の中がいま、真っ黒い雲でおおわれていますぅ。もう地中深くのどんぞこに落ちたようなかんじです。先生ぇ! どうか! どうか助けてください……!
《担任から》どうしたのでしょう。最近イライラしているようですが、自分でストレスをうまく解消できるといいね。

2015年4月7日
今日は新しい学期と学年でスタートした一日です。この今日を大切に、でだしよく、終わりよくしたいです
《担任から》新しいメンバーで戸惑うと思うけど、みんなと協力してがんばろう

4月20日
なんか最近家でも学校でもどこでもイライラするような気がします。いいことないし、しっぱいばっかりだし、もうイヤだ嫌ーです。byR「だったら死にたいゼ☆」
《担任から》みんな同じ。環境が変わって慣れていないからね。がんばれ

5月13日
ぼくだってがんばってるのにぜんぜん気にしないし、づっと暴力。づっとずっとずっと悪口<ママ>。やめてといってもやめないし、もう学校やすみたい。そろそろ休みたい氏にたいあーもうやだ
《担任から》予行でいろいろ言われたのですね。全体にも言おうと思います。失敗した人を責めないように。

5月15日
なにかの夢をみたようです。誰一人いない世界に一人ぼっちになったようなかんじ
《担任から》<回答なし>

6月8日
実はボクさんざんいままで苦しんでたんスよ? なぐられたりけられたり首しめられたりこちょがされたり悪口言われたり! その分を(全ぶだしてないけど)放ったんですよね。ハイ。ウアーー~ッ!!
《担任から》そんなことがあったの?? それは大変、いつ?? 解決したの?

6月9日
解決してまセン。またこりずにやってきた。もうほんっとやめてほしい。もうそうじの前に殴っちゃったよ。ハァーァー……。ますますイライラがたまりますよ。本当に。ボクはもう手加減ナシダ!
《担任から》<回答なし>

6月28日
ここだけの話、ぜったいだれにも言わないでください。もう生きるのにつかれてきたような気がします。氏んでいいですか? (たぶんさいきんおきるかな。)
《担任から》どうしたの? テストのことが心配? クラブ? クラス? 元気を出して生活しよう

6月29日
ボクがいつ消えるかはわかりません。ですが、先生からたくさん希望をもらいました。感謝しています。もうすこしがんばってみます。ただ、もう市ぬ<ママ>場所はきまってるんですけどねw まあいいか……
《担任から》明日からの研修たのしみましょうね。

日付不明
先生にはいじめの多い人の名前をおしえましょう。もうげんかいです。
《担任から》<「おしえましょう。」から後に朱線を引き>上から目先ですね。<ママ>

男子生徒は自死の2か月前から担任教師との連絡ノート(生活記録ノート)に「なぐられたり首しめられたり悪口言われた」「体操着や教科書がなくなった」「もうつかれました。もう氏にたいと思います」「しんでいいですか?(たぶんさいきんおきるかな)」「もう市ぬ場所は決まってるんですけどね」などといじめられていることを書いていた。(わざと「死」という漢字の使用をなるべく避けているところに、男子生徒の深刻な心境を読み取ることができる。)
この書き込みは担任への訴えか相談だが、「(略)首をしめられたりしている」という訴えには「それは大変、もう解決したの?」と書き、「解決していません」という書き込みには、担任は何もコメントをせず二重丸をつけて返しているなど、担任からの回答は、はぐらかしのように見える。
「先生にはイジメの多い人の名前を教えましょう」には、「上から目線ですね」と答え、最後の「ぼくがいつ消えるかわかりません」の訴えには、「明日からの研修、たのしみましょうね」です。その数日後に男子生徒は自死した。

教育評論家の尾木直樹氏は、7月8日放送の情報番組で「これは教育殺人だ」と激怒し、「担任の見殺しも同然ではないですか」「許し難い事件です」とコメントしている。生徒からのSOSに的外れな返答を繰り返した担任教師の対応が男子生徒を更に孤立させ、自死へと向かわせたことは疑う余地もない。

参考図書

「いじめ•自殺事件」の深層を考えるー岩手県矢巾町『いじめ•自殺』を中心としてー

>「いじめ•自殺事件」の深層を考えるー岩手県矢巾町『いじめ•自殺』を中心としてー増田修治(著) / 本の泉社 / 2017年8月21日
<内容>
人の命の重みを噛みしめる社会であって欲しい。そう願って、この本を書くことにした。一つの事件を深く追いかけることで、子どもを深く理解するための視点や教訓、いじめをなくしていくための方法等を引き出し、学校現場にいくらかでも寄与できることを願っている。(「はじめに」より)

参考資料

“岩手県矢巾町•町立中学校いじめ自殺” 地上の涙

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