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埼玉県の川口市立戸塚中学校の男子生徒(中学2年生•14歳)は、小学6年生の夏以降、同級生らからのいじめや精神的苦痛を繰り返し訴えて、いじめの内容や加害生徒の氏名を書いて「いじめられている」と助けを求める手紙を担任に複数回手渡したが無視され、学校や教育委員会からもいじめを否定されて絶望していた。2016年9月と10月に2度首を吊り一時意識不明になり、学校は無記名のいじめ調査を実施するが、教頭は「調べたが、いじめの実態はなかった」と電話で報告した。
2017年(平成29年)4月、男子生徒は自宅近くのマンション3階から飛び降り、頭蓋骨や太腿の骨を折る重傷を負い車椅子生活になった。学校で加害生徒から謝罪を受ける席が設けられるが、加害者の保護者からは「大けがをしたことを他人のせいにするな」と罵倒された。
2019年9月8日の未明に男子生徒は近くのマンションの最上階から飛び降り自死した。自室から「教育委員会は、大ウソつき。いじめた人を守って嘘ばかりつかせる。いじめられたぼくがなぜこんなにもくるしまなきゃいけない。(後略)」などと書いたノートが見つかった。(自死当時、埼玉県立川口特別支援学校高等部1年生•15歳)
2023年6月23日 調査委員会の報告書は、男子生徒の自死の主な原因を「いじめと、いじめ申告後の2次被害による非常に大きな精神的苦痛が軽減せずに、数年間にわたって継続したこと」と認定し、「何らかの適切な介入が行われ、苦痛を軽減できていれば自殺を回避できた可能性がある」と指摘した。
事件の経緯
男子生徒は小学6年生の夏以降、同級生らからのいじめや精神的苦痛を繰り返し訴えていた。
男子生徒は2016年4月に入学し、5月頃からサッカー部の同級生や先輩に悪口を言われたり仲間はずれにされたりした。
2016年9月 男子生徒は、いじめの内容や加害者生徒の氏名を書き、「いじめられている」と助けを求める手紙を担任に複数回手渡したが返事はなく、いじめは止まなかった。
2016年9月中旬から10月下旬、男子生徒は自宅で2度首を吊り一時意識不明となった。
2016年11月 学校は無記名のいじめ調査を実施。教頭は「調べたが、いじめの実態はなかった」と電話で報告した。
2017年4月 男子生徒は中学校入学当初からいじめを受けたとして、自宅近くのマンション3階から飛び降り、頭蓋骨や太腿の骨を折る重傷を負い、車椅子生活になった。
2018年6月 学校で加害生徒から謝罪を受ける席が設けられ、約半数の7人が謝罪。一方、「大けがをしたことを他人のせいにするな」と言った保護者もいた。(2018年10月9日判明)
2019年9月8日 未明に近くのマンション最上階の11階から飛び降り自死。自室から「教育委員会は、大ウソつき。いじめた人を守って嘘ばかりつかせる。いじめられたぼくがなぜこんなにもくるしまなきゃいけない。ぼくは、なんのためにいきているのか分からなくなった。ぼくをいじめた人は守ってて、いじめられたぼくは、誰にも守ってくれない。くるしい、くるしい、くるしい、つらい、つらい、くるしい、つらい、ぼくの味方は家ぞくだけ」などと書いたノートが見つかった。別のページには、「今度こそさようなら」とも記されていた。
被害生徒の遺したノート
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教育委員会は、大ウソつき。いじめた人を守ってウソばかりつかせる。いじめられたぼくがなぜこんなにもくるしまなきゃいけない。ぼくは、なんのためにいきているのか分からなくなった。
ぼくをいじめた人は、守ってて、いじめられたぼくは、誰にも守ってくれない。くるしい、くるしい、くるしい、くるしい、つらい、つらい、くるしい、つらい、ぼくの味方は家ぞくだけ
出典:文春オンライン
調査委員会
調査委員会の設置(1)
2017年10月 1回目の自殺未遂から1年以上が過ぎて、重大事態として市長に報告。
2017年11月2日 学校側はいじめがあったと認め、第三者委員会を設置。
市教委定例会議で教育長は「個人情報を含む内容のため秘密会で行いたい」と発言。被害者側に説明をしたという。
2017年11月27日 第3回委員会で調査は中断。
2018年8月 調査再開。
2018年10月12日 保護者は「重大事態ということや調査委員会があることなど調査の経過は一切説明がない」と話す。
市教委は、「調査が中断したのは、被害生徒からの事情聴取ができないとみたからであり、できると判断したので再開した。経過は担当者が(被害生徒側に)説明したと言っている」と話した。
2019年3月5日 第12回委員会を最後に一度も開催されず。
調査委員
弁護士、医師、学識経験者の3名。被害者側にも非公表。
2018年11月20日 記者会見で、委員氏名を公表。
委員長:小山望埼玉学園大学教授(臨床心理士)
委員の氏名を生徒側に伝えていなかった理由を「本人や保護者への聞き取りが必要となる時期に説明することから非公開としていた」とした。
調査委員会の設置(2)
2019年9月8日 男子生徒の自死後、調査委員会の設置にあたり、男子生徒の保護者は教育委員会から調査委員会が設置されたことを十分に説明されていなかったことから、遺族が調査委員会の解散を求めるとともに新たな調査委員会の設置を求めた。
2020年4月23日 市教委は当初の調査委員会の委員3名を解任し、2020年7月3日に遺族が要望した弁護士や医師などの専門家に全員を入れ替えた。
調査委員会では、今後、自殺に至った背景や、学校や市教育委員会の対応についても調査を進める。
10月15日 「委員会の公平性•中立性の確保並びに人数的に調査能力に限界があるため、調査を十分に行う観点から、2名の委員が教育委員会から追加で委嘱を受けた。」(報告書より)
調査委員
委員長:市川須美子獨協大学名誉教授(教育法)
天笠崇静岡社会健康医学大学院大学准教授(精神科医)
三浦正江東京家政大学教授(公認心理師•臨床心理士)
金子春菜弁護士(東京弁護士会)
川原祐介弁護士(埼玉弁護士会)
調査報告書•その後
2023年6月23日 報告書では、男子生徒の自死の主な原因を「いじめと、いじめ申告後の2次被害(注:男子生徒は、いじめを学校に訴えた際に加害生徒の保護者から非難されていた。)による非常に大きな精神的苦痛が軽減せずに、数年間にわたって継続したこと」と認定し、「何らかの適切な介入が行われ、苦痛を軽減できていれば自殺を回避できた可能性がある」と指摘した。また、男子生徒は精神的苦痛をノートに記して学校に繰り返し被害を訴えたが、十分な調査がなく「疎外感を増大させた」と認定し、小学校が「こんな文章を書けるはずない」と信じずに放置したことで深く傷ついたとした。
調査報告書の公表を受けて、遺族の代理人を務める弁護士は会見のなかで、「いじめを受けた人が2次被害を受けることはよくあることだが、今回のように、いじめと、その後の2次被害と自殺との関係が認められることは極めて異例だ」と述べたうえで、これまでの学校側などの対応について「ノートなどで生徒はいじめについてのメッセージを発信し続けていたのに、学校側が受け取らなかったのは非常に不適切だった」などと批判した。
遺族は「いじめに苦しみ抜いた5年間でした。いじめだけでなく、加害者の保護者から浴びせられた暴言の2次被害も認められた。このことは率直に評価したいと思います。息子が死を選ぶ前、学校としていじめを認め、助けてほしかった。重大事態として被害者に寄り添い、手を差し伸べてほしかった。今回の第三者委員会は徹底した調査をしてくれた。ここまで充実した調査をしてくれたことを感謝したい」とコメントしている。
調査委員会の委員長を務めた市川須美子獨協大学名誉教授はNHKの取材に対して、報告書ではいじめを申告したことで生徒が2次被害を受け、そのことが自死の原因の一つとなったと認定されたことについて、「学校はきちんと事実調査をせず簡単に当事者同士を会わせてしまうなど、非常に深刻な2次被害を与えていて、本人が書きためたノートの内容からもいじめられたこと以上に2次被害に苦しむ状況が明らかだった。いじめ自体はものすごい暴行などといったものではなかったが、学校や地域の対応で傷ついていったことは明らかだ」と指摘した。そのうえで今回の調査について、「何回も自殺未遂が行われたことに委員全員が衝撃を受け、どうして防げなかったのか可能な限り検証することに重点を置いた。学校と教育委員会は子どもの命に対する危機感が薄いと思わざるを得ない。自殺未遂は、いじめ防止対策推進法が定めた重大事態にあたると理解して、きちんとした体制を迅速にとるようにしてもらいたい」と話している。
「川口市いじめ問題調査委員会調査報告書(公表版) 1」(PDF:17.2MB)
「川口市いじめ問題調査委員会調査報告書(公表版) 2」(PDF:19.2MB)
「川口市いじめ問題調査委員会調査報告書(公表版) 3」(PDF:18.8MB)
「川口市いじめ問題調査委員会調査報告書(公表版) 4」(PDF:15.6MB)
「川口市いじめ問題調査委員会調査報告書(公表版) 5」(PDF:17.6MB)
「川口市いじめ問題調査委員会調査報告書(公表版) 6」(PDF:8.6MB)
(※調査報告書(公表版)の掲載期間は、令和5年6月23日から令和5年12月22日までとする。)
市教委の対応の問題点
いじめ防止対策推進法では、いじめで自殺や不登校など重大な被害が生じた疑いがある場合、学校は自治体の長に速やかに報告する義務がある。ところが、市教委が同法に基づく重大事態として市長に報告したのは1回目の自死未遂から1年以上が過ぎた2017年10月だった。
市教委は翌11月に事実関係を調査するために同法に基づく第三者委員会を設置したとしているが、委員の氏名を公表しないなど設置の明確な根拠を示していない。
文部科学省のガイドラインでは被害者側の意向を踏まえた調査にするために、調査開始前に調査目的や委員の人選などの説明を義務付けているが、ガイドラインに反して生徒側に説明していなかった。
男子生徒の母親は「調査委を設置したことや議論の内容なども一切知らされていない。本当に調査委を設置していれば記録があり、すぐに説明できるはず。それをしないのでは、調査委の実態がないと考えるのが自然だ」と批判している。
参考資料
“「教育委員会は、大ウソつき」埼玉県川口市で高1生徒がいじめを苦に自殺” 文春オンライン 他