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2018年(平成30年)8月26日、埼玉県さいたま市の市立南浦和中学校の男子生徒(中学1年生•13歳)は、過去に別の部員への暴言や体罰があったバドミントン部顧問の教諭の指導についていくことができずに部活を休んだことを責められて、部活に行く途中に自死した。
2022年7月 第三者委員会の調査報告書によると、遺族が原因だと訴えていた部活動の顧問の指導などについては、自死の「大きな契機」と指摘したが、決定的要因ではないと認定し、男子生徒の性格や特性、部活でのストレスが原因と推測している。また、学校の姿勢について、「遺族の心情に寄り添う対応でなかった」とした。
事件の経緯と学校の対応
男子生徒は、バドミントン部に入っていたが、練習についていけず悩んだ様子だったという。夏休み中の8月25日、顧問から母親に「生徒が部活を休み、ゲームセンターにいた。明日個別に呼んで指導する」と電話があった。
2018年8月26日、男子生徒は、部活動に行くため自宅を出た後、自死した。
遺族によれば、自死当日に校長から、自殺と公表すれば「マスコミが騒ぐ」「保護者会で遺族が説明する必要がある」と言われ、「不慮の事故」とすることに同意したという。
2018年9月4日 学校は不慮の事故として扱い、自殺の原因は把握できなかったと遺族に報告した。
2018年12月 学校が全校生徒に部活に関するアンケートを実施した。別のバドミントン部員が顧問から「お前はバカだ、アホ」「おまえ、存在する意味あるのか」と暴言を吐かれたり、胸ぐらを掴まれたりしたと答えた。「(男子生徒が)圧をかけられていた」との回答もあった。
また校長は、母親に「一度休むと外周10周という厳しいペナルティーがあった」と説明していた。顧問は、学校の聴取に「口調が強かったり、言い方がきつかったりした。至らなかった点は反省している」と答えたという。
2019年3月、顧問は別の中学校に異動。
市教委は、「指導が自死の要因かどうか確認できなかった」とした。
2020年3月28日 学校側は、バドミントン部顧問の教諭が過去に別の部員への暴言や体罰があったことを把握しながら、「大声で指導した」などの説明にとどめ、遺族に対し詳しく説明しなかったことが判明した。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2019年4月 遺族は部活動内に不適切な指導などの問題があったことを知って、自死との関連を調べるように、市教委に第三者委員会の設置を要望した。
市教委は第三者委員会を設置し、7月4日に初会合を行い、22年7月までに計74回に亘って非公開で会合を開いた。
第三者委員会の設置を決める際に、情報を隠すために「写真をずるい週刊誌がネットに上げる」「(男子生徒の)妹にも調査が入る」「調査の影響で、同校に入学予定の妹に対する配慮が疎かになる」などの遺族に脅迫めいた発言をして妨害していたのではないかという情報が明らかになっている。
男子生徒の母親は、取材に「顧問から謝罪はなく、学校から詳しい説明もない。事実を知りたい」と話した。
市教委の吉田賀一指導二課長は「指導が自死の要因かどうか確認できなかった」と述べた。
2021年3月 第三者委員会は、3月に答申を出すと2月に説明していたが、座長から「まとまらない」と言われ、答申の目処も示されなかった。
調査委員
委員長:岡田弘東京聖栄大学教授(心理学)
副座長:湯谷優埼玉県警少年サポートセンター所長(臨床心理士)
調査専門員:高井美智子埼玉医科大学医学部客員講師(医師)
久保村康史弁護士
和泉貴士弁護士
調査報告書
2022年7月 遺族側に報告書を渡した。
2023年6月23日 遺族と調査結果や公表内容について協議を進め、発表した。
男子生徒が入学直後の2018年4月、顧問は2年生に対する「頭が悪い」という暴言などで保護者から苦情を受け、校長から注意を受けていた。(調査委員会は当該発言を不適切な指導と認定している。)報告書は、顧問と2年生の間では確執が続く雰囲気だったと認めたが、男子生徒への影響は不明とし、自死の背景には「大人との対人関係で不安や緊張を抱きやすく、繊細で感受性が高かった」という男子生徒の特性があったと分析した。
男子生徒は8月に2人の部員と共にフォーム改善の指導を受け、その際に顧問から厳しい言葉を掛けられた。その後部活を休むようになり、休んでいる間にゲームセンターへ立ち寄ったことを問い合わせる電話が顧問から自宅の母親へあった後に遺書を書いて翌日に自死した。
報告書は、練習の際の厳しい言葉に加え電話があったことにより、「大人の男性に叱られる恐怖感や、部活での遅れを自覚して孤立することへの不安感や焦りを抱いた可能性がある」と推定。顧問の電話は「自殺に傾倒する大きな契機になったと考えられる」としたが、中学校入学の間もない時期、部活動への適応、顧問による指導など複数の要因の他、「大人との対人関係で不安や緊張を抱きやすく、繊細で感受性が高かった」という男子生徒の特性もあったとして、「直接的もしくは決定的な要因とは考えにくい」と結論付けた。
また、遺族は前日に顧問から「部活さぼって、ゲームセンターにいたことを個別に呼んで指導します」と電話があったとしているが、調査報告書は関係証拠を総合的に考慮すると、「個別に呼んで指導する」との発言は考えにくいとした。
学校側は男子生徒の自死当日に事実を公表するかの判断を両親に求め、校長は報道陣に取り囲まれるなどと発言し、「不慮の事故」とするよう提案があったが、この点について報告書は「当日に両親が十分理解するよう説明を行い、方針を確定しようとすること自体に無理があり、適切とは言えない」とし、「遺族の心情に真に寄り添うものではなかったと言わざるを得ない」と指摘して改善を求めた。
2023年6月23日 「調査報告書(公表用)」(PDF:6MB)
2022年9月9日 「調査報告書に対する所見」(PDF:1MB)
「調査会開催記録」(PDF:89KB)
調査委員会の不誠実な対応
遺族への説明は、2023年3月に東京聖栄大学を退職した岡田弘座長が行っていた。第三者委員会の調査は2019年7月に開始され、公表するまでに約4年を費やしたが、第三者委はこの間、岡田座長が遺族への情報提供を最小限に止めて途中の取材にも応じない方針を決めていた。調査の長期化の理由や議論の内容の説明がないことから遺族は不信感を募らせて、2回にわたり座長の解任を要望した。
遺族が2021年10月に座長の2回目の解任要望を出してからは、説明が書面に変更された。委員5人の連名で「協議内容は報告書(案)についての検討がなされました」と記されていた。遺族は内容のない報告が続いたことに不信感が募ったという。
解任の要望を受け入れないまま、岡田座長は病気を理由に2023年6月23日の報告書の公式会見を欠席した。(これについて、母親は「本当に驚いた。座長の口からきっちり説明してほしかった。重ね重ね不誠実だと思う」と強く批判した。)1
報告書の問題点とその後
学校側が実施したアンケート調査では、教諭が普段から部員に暴言を吐いていたとの証言や、男子生徒に「圧をかけているように感じた」との声が寄せられていた。しかし、報告書では、「圧をかけている~」と答えた生徒が、再三者委員会の調査に「(当該の)男子生徒だけではなかった気がする」と答えたことなどを挙げて、「不適切な指導だったとは言えない」と結論付けた。
自死前日の教諭からの電話について、母親は第三者委員会の聴取に、「部活をサボってゲームセンターにいたことを個別に呼んで指導しますと言われた」と回答して、怒られると感じたことが相当のプレッシャーになっていたはずと説明したが、報告書では「体調が戻って部活に来られたら、私も話を聞いてあげたい」という趣旨の話をしたと答えた教諭の主張がを採用し、「証拠を総合的に考慮しても、教諭がその旨の発言をしたと判断することはできない」とした。
調査報告書は顧問の指導により、「部活動への不適応に陥った」と指摘しながら、指導と自死の因果関係を否定した。遺族は所見で、「部活に行きたくなくなるような環境や空気をつくったのは間違いなく顧問だと思う」「(前日の電話は)顧問の意見をそのまま受け入れ、安易に結論づけるのはおかしい」と指摘した。「顧問自身がどこまで関与していると認識しているかを知りたい。報告書を読んでほしい」と会見で述べた。
遺族側は、教諭の指導が自殺の原因だと主張し、教諭と母親の電話や男子生徒への指導の内容について「報告書が明確な理由なく、教諭の言い分を採用したのは納得できない」と反発している。また、自死の背景として男子生徒の特性が指摘されていることについて、「◯◯(男子生徒の名前)が部活不適応に陥ったのは、本人の特性だけではなく、顧問が部活に行きたくなくなるような環境や空気をつくったからだ」と語った。
2022年9月、遺族は指導死を事実上否定した調査報告書に対して「理不尽で納得的ない部分もたくさんある」として、顧問教諭の処分と調査委員会の座長による丁寧な説明を求めた要望書を市教育長に提出した。
調査報告書の誤掲載事件
2023年6月23日午後2時半頃から4時頃までの間、調査報告書のマスキング(黒塗り)した文字がコピーにより読み取ることができる状態で市のホームページに掲載されていた。調査報告書のPDFファイルのマスキング部分をコピーしてワードに貼り付けると文字が読み取れる状態だった。匿名の通報を受けてミスが判明し、市教委指導2課は読み取れないように編集して改めて掲載したが、一時停止するまでの1時間23分の間に59回(市教委指導2課職員らのアクセスも含む)のアクセスが確認された。
調査報告書は、遺族と市教委、第三者委が約1年間かけてマスキングする部分を協議して公表した。当事者の名前など個人情報が流出した可能性がある。同様の誤りは、以前から全国の自治体で報告されていた。
母親は取材に対して「私たち家族も含め、(調査に協力した)他の人たちも被害者。市教委は個人情報を盾にして、開示できないと言い続けてきた。今後このようなことがないようにという問題ではない。最後にこんな発表のされ方をして、杜撰としか言いようがなく、呆れてしまう」と話している。
マスキング(黒塗り)されて、さいたま市のホームページに掲載された調査報告書。誤って読み取れる状態で一時公開された。
画像出典:埼玉新聞
教育委員会の対応
2023年6月23日 さいたま市教委の細田真由美教育長は記者会見で、「◯◯(男子生徒の名前)さんに対して、心からご冥福をお祈りします。命を救えなかったことに、心から謝罪します」と述べ、再発防止に全力で取り組む意向を示したが、顧問教諭への処分を行わないと説明した。
顧問教諭は、調査報告書で当時の2年生に対する指導が不適切と認定されたが、校長らの指導で改善されたと判断された。細田教育長は「処分に該当するとは考えられないと結論に至った」と説明した。
顧問に対しては「一つの要素になった行動をしてしまった。重い事実を受け止めてもらいたい」。校長に対しては、遺族に複数の不適切な対応があったとして当時、指導を繰り返したという。「なぜ気持ちに寄り添う行動ができなかったのか残念」と述べた。
参考資料
“さいたま•中1自殺 第三者委が調査報告書 顧問の電話「決定的でない」” 東京新聞 (2021年11月17日) 他