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2018年(平成30年)5月17日、熊本県立岱志高等学校の女子生徒(高校3年生•17歳)が、複数の同級生からの暴言や嫌がらせを苦にして自死を図り、18日未明に死亡した。女子生徒は、いじめ被害を訴えるメモを残していた。
2020年4月30日 再調査委員会は、授業中に同級生が女子生徒に放った「死ねばいい」「よく学校にこれたね。まじウザ」「視界から消えてほしい」といった数々の暴言などの行為をいじめと認定し、いじめと自殺の因果関係を認め、学校側の対応の不備も指摘した。
2022年6月15日 民事損害賠償請求訴訟では、加害者側は当初争う方針を示したが、それぞれがいじめと自殺との因果関係を認めて謝罪し、和解金を支払うことで和解した。
事件の経緯
2016年 女子生徒は、小学校からの同級生で、小中学校時代から乱暴な行為を繰り返していたA子(加害者の中心)と同じクラスになった。1年時はA子が中心となり、女子生徒だけでなく多くの生徒に対して、些細なことで「キモい」「ウザい」「死ね」などと悪口•陰口を繰り返してクラスを威圧するような状態になり、クラスの雰囲気が良くなかったという。当時、LINEでの悪口や特定の生徒をLINE外しするなどのいじめもあったとされる。
2017年 2年時にはA子とは別のクラスになったが、男子生徒B男と同じクラスになった。B男は、授業中に騒いだり、他の同級生に悪口を言うなどの言動が見られ、女子生徒はB男のことを快く思っていなかったが、B男は女子生徒に一方的に好意を寄せて接触を図っていたという。B男やB男に近い生徒からは「B男と◯◯さん(女子生徒の名前)が交際している」扱いをされていたが、女子生徒には交際の意思は無く、B男の機嫌を損ねると悪口を振り撒かれることなどを恐れて同級生としての対応をしていた。「交際していると言いふらされて迷惑している」と周囲に相談していたとも言われている。
2018年 3年時にはA子とその取り巻きの女子生徒が女子生徒と同じクラスになり、A子がクラスの雰囲気を悪くさせるような形になった。またB男とも同じクラスになり、A子とB男も接近するようになった。クラスの雰囲気は悪く、授業中にも私語や同級生の悪口などが飛び交う状況だったという。大人しく真面目な性格だったという女子生徒はクラスの雰囲気と距離を置くことを図ったが、A子などが執拗に絡んできて逃げられない状態になっていたともされる。
女子生徒は以前よりInstagramのフォロワー数の多さを妬まれていたり、LINEでの人間関係などについても悩んでいたとされる。
5月 2年生の男子生徒C男が、友人と校外で撮影したものを編集した動画をInstagramにアップした。その動画に偶然その場を通り掛かっていた女子生徒が映り込んでいたことにA子らが気付き、17日朝に女子生徒へのいじめと嫌がらせが起きた。
A子ら加害者女子グループは、B男に動画を見せて「これどう思う?」などと悪様に言い立てた。また授業中には同級生5人が女子生徒に対して、「死ねばいい」「視界から消えてほしい」「よく学校来れるね」「彼氏いるなら彼氏を大事にせなんやん」などと聞こえよがしに悪口を言い立てた。さらにB男を含めた加害者グループは女子生徒をC男の所に連れて行き、「動画に映り込んだのは偶然なのか」と責め立てる行為も行った。朝一番の自習時間から休み時間、3時限目の授業の時間まで嫌がらせが続いたという。
女子生徒は涙目で机に伏せている状態になり、体調不良を訴え、担任教諭に早退届を出した。Fさんは涙目になっていたというが、担任は深く事情を聴かず、また異変を家族に伝えることなどをせずにそのまま受理した。さらに、女子生徒が早退する動きを察知した加害者生徒は、「ネズミが逃げるぞ」「ガイジが逃げるぞ」などと女子生徒に罵声を浴びせた。
12時前に女子生徒は迎えに来た祖母の車で帰宅した。女子生徒が涙目になっているのに気が付いた祖母が事情を尋ねたが、女子生徒は頭が痛いとしか答えなかったので自宅に戻った。
帰宅後、スマホで自死の方法を検索していた女子生徒は、「同級生から『死ねばいい』などの暴言を受けた。誤解なのに。とても苦しかった。もう死にたい」などと記した遺書を書いた後、台所の取手に縄跳びの紐を括り付けて縊死した。祖母が気付いて病院に搬送されたが、意識は戻らぬまま翌18日の午前3時45分に死亡が確認された。遺書には、学校側に相談したことにも触れていたという。
学校•教育委員会の対応
2018年5月28日 熊本県教育委員会は記者会見を開き、当該自死事案を公表した。当時の発表では、生徒が2年時の2017年11月に学校が行ったいじめ調査では当該女子生徒からのいじめ被害の訴えは確認できなかった•現時点ではいじめは把握していないとした上で、生徒の家族から「いじめが原因ではないか」という訴えを聞いたとした。
6月15日 学校が同学年生徒から聞き取りした結果をまとめた調査報告書を両親に渡す。自死の原因が別にあるように受け取れる部分があり、遺族は遺書と矛盾しており納得できないとする。
遺族は、娘の自死直後に保護者会の開催を求めたが、何度も先延ばしにされた。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2018年5月28日 熊本県教育委員会は、遺族の要望を受けて、第三者の専門家で構成する付属機関の「県いじめ防止対策審議会」を開いて調査する。
全校生徒を対象としたアンケートや、生徒や教員への聞き取りを通して当該生徒を取り巻く人間関係や、自殺を図った前日や当日の出来事を調べていた。
6月 初会合で、委員の一人が「事案の関係者と関係があり、中立性が保てない」として辞任した。
7月末 委員一人が体調不良を理由に辞任した。
11月末 (9回の委員会開催後に)委員一人が一身上の都合で所属先を辞めたことを理由に辞任した。
審議会の委員3人が立て続けに辞任したことについて、遺族に辞任理由の説明も十分ではなかった。
遺族側は委員の推薦を希望したが、県教育委員会は、「(加害者側などに)中立性が保てない」として拒否した。
委員の辞任後も、推薦希望を聞いてもらえなかった。
調査委員
弁護士や医師、福祉などの有識者ら6人。
会長:岩永靖九州ルーテル学院大学准教授(精神保健福祉士)
会長代理:浦野エイミ熊本大学大学院教育学研究科シニア教授(臨床心理士)
園田理美弁護士(2018年7月31日まで)
園田将吾弁護士(2018年9月6日から) (熊本県弁護士会•子どもの人権委員会委員)
高原朗子熊本大学大学院教育学研究科教授(2018年11月30日まで)
八ッ塚一郎熊本大学大学院教育学研究科准教授(2018年12月7日から)
宮本武夫熊本県民生委員児童委員協議会会長
臨時委員:高森薫生熊本県精神科協会理事(2018年8月9日から)
調査報告書
2018年12月20日 中間報告を発表。女子生徒の遺書の内容や家族の訴えは大筋で事実だと確認し、自死を図った日に、女子生徒が知り合いの男子生徒と一緒に映っていたインスタグラムの動画を巡り、同級生に理由を確認されるなどのやり取りがあったことや、授業中に複数の生徒の間で「視界から消えてほしい」「死ねばいい」などの暴言など9件の行為を認定した。但し、「死ねばいい」の言葉については、「生徒たちがふだんから使っていた言葉でもある」として、いじめかどうかについては触れなかった。それらの行為がいじめに該当するかの評価はこの時点では保留し、引き続き検討するとした。
2019年3月26日 最終報告書を答申。
校外で他の生徒が男子生徒を撮影し、写真共有アプリ「インスタグラム」に投稿した動画に当該生徒が写り込んだことがいじめの引き金になったと判断した。
女子生徒の受けた行為5件をいじめだと認定した上で、いじめと自殺との因果関係について、一連の発言が遺書に記載されていることや、その他の行為も「当該生徒の心理的視野狭窄を起こす要因となったと推察できる」として、自殺に影響を与えたと判断した。学校以外の出来事については、「調査を行ったが、影響や要因については確認できなかった」とした。
再発防止のための提言として、「SNSの安易な利用や投稿が、誰も予想していな深刻な事態を引き起こす可能性があることについて、再度指導の徹底を図る必要がある」と指摘した。
いじめと認定された行為
• A子がB男にインスタグラムを見せて「これどう思う」と言ったこと。
• B男が「2年生男子を集めてもいいよね」と言ったこと。
• 2時間目の授業でクラスメイトが「死ねばいい」「よく学校にこれたね。まじウザ」「視界から消えてほしい」といった数々の暴言を吐いたこと。(学校で「死ね」などの暴言が日常的に使われていたとも指摘した。)
• B男が2年生にインスタグラムに映り込んだのが偶然かどうか確認したこと。
• 2年生に対して女子生徒らが再確認したこと。
再調査委員会
再調査委員会の設置•調査内容
2019年5月21日 遺族は、いじめ認定の部分については概ね納得しているとした一方で、授業中だったにもかかわらず教員が発言を認識していないなどの点を問題視し、「学校側の対応については十分解明されていない」という指摘を出し、再調査を要請した。
2019年5月21日 熊本県は知事部局が設置している常設の第三者委員会で再調査を行うことを発表した。
調査委員
委員長:古賀倫嗣熊本大学教育学部教授(専門分野:教育)
委員:古賀香代子九州ルーテル学院大学教授(専門分野:心理)
紫藤千子(しとう•ゆきこ)紫藤社会福祉事務所(専門分野:福祉)
古田哲朗弁護士(専門分野:法律)
横田周三医療法人横田会向陽台病院理事長(専門分野:医療)
報告書
いじめと自殺の因果関係を認定し、学校側の対応の不備があったとする報告書をまとめた。
「死ねばいい」などの発言が飛び交ったのは、生徒が自殺を図った当日の授業中で、担当教員は「発言は聞こえていたが、具体的な内容まで理解できなかった」と証言したが、答申は「(自殺後)すぐに当時の状況を振り返り、記録に残す必要があった」と結論付けた。
また、生徒が涙目になって早退を申し出た際の担任の対応には、過去に早退がほとんどなかった点を踏まえ、「普段とは異なった態度をもう一歩深く掘り下げ、迎えに来た親族に伝えることはできたのではないか」と言及した。
学校の対応については、初動の対応が錯綜し、遺族からの不信感を招いたなどとして、重大事態を想定した研修や外部専門家との連携など、対策の強化を提言した。
2020年4月30日 「調査報告書概要版(平成30年5月事案)」(PDF:552KB)
卒業アルバムに関する対応
学校側は、女子生徒と同学年の生徒の卒業にあわせて卒業アルバムを作成したが、そのアルバムの編集の際、女子生徒の個人顔写真を掲載せず、行事などの写真についても女子生徒が写っていないものを選んで掲載したという。
学校側は「(この時点では報道などでは非公表扱いになっていた)当該女子生徒の氏名や顔写真が外部に流出することを不安視した」としている。
学校側は、「遺族との面談の日程が取れなかった」として卒業アルバムに関する遺族の意向を聞かないまま、2019年2月になって、できあがった卒業アルバムについて「当該女子生徒を掲載しない措置をとった」とする連絡を行った。しかし遺族は「掲載してほしい」という意向を示し、学校側は急きょFさんの写真を掲載した卒業アルバムを作り直し、2019年3月1日の卒業式で配布した。
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2021年4月28日 第三者委員会の調査報告書では、いじめに関与した生徒の氏名は匿名で記されていたが、遺族側はFさんが残したスマホのやり取りや同級生への聞き取りなどの独自調査で、いじめに関与した生徒は6人と判断し、特定した。うち、A子とB男など中心的にいじめに関与したと判断した4人について、合計約1,100万円の損害賠償を求めて、熊本地裁に提訴した。
加害者側の主張
2021年7月28日の第1回口頭弁論において、元同級生側は争う方針を示した。A子は、一部の悪口を発したことは認めたが、自殺の原因ではないと主張した。B男は「自分の行為は、女子生徒を助けようとしておこなったこと。法的責任を問われる筋合いはない。加害者として訴えられること自体が名誉毀損だ」と主張したという。
和解
2022年6月15日 元同級生のうち1人の元女子生徒と熊本地裁で和解が成立した。元生徒側が両親に謝罪し、和解金10万円を支払う内容となっている。当該の元同級生は、訴状の内容を大筋で認めて、「自身の言動が女子生徒の自殺に影響を与えた」とも認め、反省の意を示したとされる。
残る3人は、訴状で指摘された内容を否定しているとして、訴訟が継続することになった。しかし3人は、1人との和解の報道を受けて、和解の意向を遺族側に申し入れたことが2022年10月2日までに判明した。
2022年10月7日 2人目の元女子生徒と熊本地裁で和解が成立した。元生徒側がいじめと自殺との因果関係を認めて謝罪し、和解金10万円を支払う。
2022年11月30日 いじめの関与が強かったとされる、3人目の元男子生徒(B男)と和解が成立した。元生徒側が、いじめへの関与を全面的に認めて謝罪し、和解金50万円を支払う。
2023年3月27日 いじめへの関与が最も大きかったとされる、元女子生徒(A子)と和解が成立した。元生徒側には謝罪と和解金50万円の支払いが命じられた他、女子生徒が亡くなった日から10年後と15年後にの5月に女子生徒への思いを記した手紙を女子生徒の両親に宛て送ることが義務付けられた。
女子生徒の父親は閉廷後の記者会見で、「和解という言葉は許すという印象があるが、そういうことではない」「亡くなって毎日ただ苦しかった。裁判は長く感じた」と言葉を詰まらせた。母親は「娘と向き合うことは私たちもつらい。(被告も)自分のしたことを認めて向き合うのは怖いと思うが、生きていく中で向き合ってほしい」と涙を流した。