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2013年(平成25年)11月14日未明、福岡県の私立筑紫台高等学校の男子生徒(高校3年生•18歳)が、2年近くにわたって同級生9人から暴力を受けたことを苦にして、春日市内のマンションの非常階段の踊り場から飛び降り自死した。
現場に残された情報端末には、同学年の男子1人を名指しし、「絶対に許せない」という文言が記録されていた。
学校は男子生徒に暴力を振るうなどした同学年の9人を停学処分した。第三者委員会が「いじめと自殺との因果関係は明白」と結論付けたが、学校側は、「いじめと断定するには至らず自殺の原因は特定できていない」と認めなかった。
2018年3月9日 元同級生1人と和解。継続的な暴力を振るっていたことと法的責任があることを認めて謝罪し、和解金を支払う、同級生が謝罪文掲示に異議を述べないなどの内容。
2021年9月 福岡高裁は、男子生徒の自殺と同級生のいじめの因果関係を認め、適切な対応を取らなかったとして、責任を否定していた学校側に約3,000万円の賠償を命じた。(確定)
事件の経緯
学校側が他の生徒にアンケートや聞き取り調査を実施した結果、男子生徒は2年生の頃から、「教室の手すりに粘着テープで縛られる」「硬いパンをあごにぶつけられる」「家庭科の時間に調味料を多めに入れて辛くしたマーボー豆腐を食べさせられる」などの行為を受けていた。学校は名指しされた生徒ら男子9人が関わっていたとして停学処分にした。うち1人は、「ふざけていただけだ」と学校側に説明したという。
加害者の処分
学校は男子生徒に暴力を振るうなどした同学年の9人を停学処分した。
2014年3月6日 福岡県警少年課は、暴力行為処罰法違反容疑で、加害者の3年の17~18歳の男子生徒7人を福岡地検に書類送検した。県警は「自殺との因果関係は不明だが、いじめ防止対策推進法の定義に照らせばいじめに当たる」としている。
送検容疑は、共謀して2013年10月1日~11月6日、同校の教室や調理実習室などでYさんに対して5回にわたり、殴ったり蹴ったり、熱したおたまを口元に押し当てたりなどの暴行を加えたとしている。
県警によると、7人は「生徒のリアクションが面白くてやった。申し訳ない」と容疑を認め、反省しているという。こうした暴行は高校2年時から続き、他にも複数の同級生が関与したとみられるが、学校側は把握していなかったという。
福岡地検は同容疑で少年らを福岡家裁に送致。福岡家裁は2014年8月、少年審判で非行内容を認定した上で、全員を一般の刑事裁判での「無罪」に当たる不処分とした。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2014年2月13日 学校は、いじめ防止対策推進法に基づき、第三者調査委員会を設置し、自死との因果関係を調べた。
遺族は、人選について事前協議がなかったことに不満を表明した。
2014年4月1日 遺族側が「公平性に疑問がある」として、推薦する弁護士1人を委員に加えるよう要望し、追加された。
29回の会合を開き、生徒や教諭から聞き取り調査を実施した。
調査委員
委員3名。後に4名。(氏名公開)
委員長:弁護士
委員:臨床心理士の資格を持つ大学教授
2014年4月1日 遺族が推薦する弁護士1人(古賀克重弁護士)を追加選任。
調査報告書
2015年3月30日 報告書を高校と遺族に提出した。(全108頁)
男子生徒が2年近くにわたる執拗な暴行を受け、自死未遂も起こしていたことから、「いじめと自殺との因果関係は明白」と結論付け、学校の対応については「いじめに対する理解が不足していた」と厳しく批判した。
男子生徒が2年生の5月から自死直前までに、同級生から「すれ違い様に頭を思い切り叩かれた」「画鋲を置いた椅子に座らされた」「体と口をテープでぐるぐる巻きにされた」「胸を圧迫して失神させられた」「熱した玉じゃくしを口元に押し当てられたやけどをした」など14件のいじめを受けていたと認定した。「虐待と言ってもいいような一方的な暴行が、享楽的かつ日常的に繰り返されるようになった」と指摘した。
男子生徒は2年生の6月に自死未遂を起こしており、首にひもで絞めたようなあざを残し、ばんそうこうを貼って登校していた。しかし、学校側は悩みを認識しつつも具体的な対応は取らなかったという。
自死直前には毎日のように殴られ、特定の同級生の名前を挙げて「許さない」「新しい自分に生まれ変わります」とメモに残していたことから、因果関係を「自分の人生に対する絶望感や無力感に陥り、死を自ら選ばざるを得なかった」と結論付けた。
民事訴訟
提訴
2016年10月13日 両親ら遺族5人が、男子生徒の自死は同級生によるいじめが原因で、学校側は適切な対応を怠ったとして、当時の同級生8人と筑紫台高校を運営する学校法人筑紫台学園(隈本豊理事長)を相手取り、総額約1億円の損害賠償と謝罪文の校内掲示を求めて福岡地裁に提訴した。
訴状によると、男子生徒は1年生の2学期頃から同級生に身体的特徴を揶揄われるなどし、2年生からは殴られるなど暴力も受けるようになった。そして3年生だった2013年11月、いじめに耐えきれず春日市のマンションから飛び降り自死した。また、首に紐で絞めたようなあざをつけて登校して、周囲から自死未遂を疑われたこともあったとしている。筑紫台高校側は、担任教諭が2012年7月に男子生徒が自死未遂を図った可能性を疑いながら校内で情報を共有しないなど、いじめに気付く注意義務を果たさず、自死を防げなかったとしている。
その上で、同級生8人に対し、他の生徒の前で暴行や侮辱を繰り返すなどして男子生徒の名誉を傷つけたとして550万円の損害賠償を請求。注意義務を怠った学校側にも損害賠償約9600万円を支払うよう求めた。
提訴後、記者会見した男子生徒の父親は、「18歳で命を絶たざるを得なかった◯◯(男子生徒の名前)の名誉を回復したい。同級生や学校はいまだに謝罪しておらず、学校側の再発防止の取り組みもない。二度といじめのない学校や社会になってほしいとの思いで提訴した」と語った。
2019年2月 2010年に起きた筑紫台高校剣道部員自死事件の被害者遺族は、「学校が部活動でのしごきに適切に対応していれば息子は死なずに済んだ。息子の死を教訓にしていれば◯◯さん(男子生徒の苗字)の自死は防げたはずだ」と訴える陳述書を作成し、提訴した。(いじめを巡る訴訟で、以前に自死した別の生徒の遺族が、学校の再発防止策の不十分さを訴えるのは異例。)
学校側の主張
2019年3月19日の弁論準備手続きで、2010年に起きた筑紫台高校剣道部員自死事件の生徒の自死について、「上級生による行き過ぎた指導はあったが、顧問が上級生に謝罪させるなど、その都度解決しており、自殺と因果関係は認められなかった」と主張し、「同じクラス内での同級生によるいじめ事案である本件とは内容や性質が大きく異なる」として、男子生徒の自死の「予見可能性」をあらためて否定した。
和解
2018年3月9日 元同級生1人と和解。継続的な暴力を振るっていたことと法的責任があることを認めて謝罪し、和解金を支払う、同級生が謝罪文掲示に異議を述べないなどの内容。
一審判決
2021年1月 福岡地裁は、男子生徒の自殺と同級生のいじめの因果関係を認め、適切な対応を取らなかったとして、責任を否定していた学校側に賠償を命じた。
男子生徒の遺族は謝罪文の校内掲示を求めたが、地裁判決は「社会的名誉が毀損されたとまでは認められない」として退けた。
控訴審判決
2021年9月 福岡高裁は、一審判決を支持し、学校側に約3,000万円の賠償を命じた。(確定)
事件のその後
遺族は謝罪などを求めて学校側に話し合いを申し入れたが実現しておらず、兄は「お金が欲しくて裁判を起こしたわけではない。学校現場の改善につながらないと、弟の死が無駄になってしまう」と懸念している。学校側は取材に対して、「裁判手続きの中で見解は伝えた」としている。
2022年3月 男子生徒の遺族ら約30人は、福岡市で集会を開き、学校側が謝罪を表明する制度の創設を国に働きかけることを決めた。制度の必要性を訴える動画の制作•公開も計画している。
参考資料
“宮城県仙台市•市立南中山中学校いじめ自殺” 地上の涙 他