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2015年(平成27年)11月4日、鹿児島県の奄美市立中学校の男子生徒Aさん(中学1年生•13歳)は、担任教諭から同級生へのいじめに加担したと誤認され、執拗に叱責された後に自死した。いじめの事実は確認されず、Aさんが地元の方言で話し掛けたことを、同級生が方言の意味を理解できずに悪口を言われたと誤認したことが原因であり、誤解が解けて和解していたにもかかわらず担任教諭が叱責していた。同校ではゼロ•トレランスに基づく生徒指導を行っていた。
2018年12月9日 調査委員会は、「自殺した当日の指導と家庭訪問時の対応が不適切であり、男子生徒を追い詰めたことは明らか」として、教員の指導が自殺の要因であると認めた。
事件の経緯
2015年9月15日 放課後、同級生の男子生徒Bさんが泣き出し、担任は「嫌なことがあったら話すように」と言い、Bさんは生徒10人の名前と行為を挙げた。その中に「消しゴムのかすを投げる」とAさんの名前が挙がり、担任はAさんを指導した。Aさんは友人や家族に「B君からやってきたのに、自分が怒られた」と不満を述べていた。
10月5日 Aさんは家族に、担任について「意味の分からないところで怒る。目を見るのが怖い」などと話す。
11月2日 Bさんが「友達に嫌がらせを受けるので行きたくない」と学校を欠席した。
11月4日 Bさんが登校した際、担任は「他の生徒からされた嫌なことを書くように」と指示し、Bさんは5人の行為を挙げて、その中の「方言を言ってくる」相手の一人にAさんを挙げた。
放課後、担任はAさんらを呼び、自らの行為を書くように指示し、Aさんは「自慢話の時、『だから何?』と言った。話を最後まで真剣に聞けていなかった」と書き、方言を言ったことを認めた。担任はAさんらに謝罪をさせ、Bさんも「僕も方言の意味が分からなくて文句を言われていると思っていた」と謝り、Aさんは「意味分からんこと言ってごめんなさい。これからも仲良く遊びましょう」と言って泣いた。担任はその場でAさんら5人に「(Bさんが)学校に来られなくなったら、お前ら責任を取れるのか」などと叱責した。
下校時にAさんは友人に「意味が分からない」などと不満を言っていた。
午後6時 担任は連絡なしにAさん宅のみを訪問し、Aさんに「誰にでも失敗はあることなので、改善できればいい」などと言い、Aさんは泣いていた。
午後6時55分頃 帰宅した家族が首を吊った状態のAさんを発見した。Aさんのポケットには「こうして罪を償うことと決めた」などと記した遺書が入っていた。
(担任が帰った40分後にAさんは自死した。Aさん宅を訪問した理由を、担任は「思いを持つ子だからそわそわした」と不安を感じての訪問であったことを口にした。)
学校と教育委員会の対応
11月5日 市教委が臨時校長研修会で「いじめた側の子が責任を感じて自殺した」と説明。
9-12日 市教委が教職員30人から聞き取りを行う。
18-27日 中学の教員が、サッカー部員と同じ学級の生徒などから聞き取りを行う。
30日 校長が市教委に「調査の結果、事故の原因は特定できなかった」とする基本調査報告書を提出し、遺族に報告した。担任による指導の具体的な内容には触れず。
2016年1月8日 市教委が全校生徒にアンケートを行う。「A君がいじめているとか見たことがない」などの回答。教員について、「いきなり切れてたたく」「暴力を振るう先生が何人もいる」などの回答もあった。
8月16日 校長は、5月19日に第三者委員会の設置を申し入れた遺族に対して「第三者委設立を(市に)お願いすることを再考できないか」などと発言した。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2016年5月19日 遺族が、事実究明を求めて第三者委員会の設置を奄美市に申し入れる。学校側は詳細調査に難色を示したが、市は「奄美市立中学校生徒の死亡事案に関する第三者調査委員会」を設置し、2017年5月に第1回の第三者委を開いた。
第三者委はAさんの同級生やその保護者、教職員や市教委ら68人の聞き取り調査など計22回の会合を実施した。聞き取り調査では、「ベルトを掴まれ、突き飛ばされた」「怒って教卓を倒した」「部活の練習でミスをした女子生徒にボールを当てた」「たばこの吸い殻の入ったコーヒー缶を顔付近目掛けて投げられた」などの日常的な暴力や暴言などがあった担任教諭の指導が複数の生徒の証言から浮かび上がった。また、Aさんらへの指導の際にも、担任は別の生徒を叩いていたことが明らかになった。
調査委員
2017年5月7日に設置された調査委員会は、当初、委員には大学教授や市の顧問弁護士、公認心理士、PTA代表、校長、教頭、生徒指導主任、養護教諭ら計10人を選任し、假屋園昭彦鹿児島大学大学院教育学研究科(教育心理学)が委員長に就任していたが、遺族らの要望を受けて、9月の第3回会合から父親と同問題を調査した第三者委員会の副委員長を務めた栁優香弁護士が加わった。
委員長:内沢達元鹿児島大学教授
副委員長:栁優香弁護士
大貫隆志((一社)ここから未来代表理事)
小山献弁護士
清田晃生(児童精神科医)
餅原尚子鹿児島純心女子大学教授
報告書
2018年12月9日 報告書を提出 (全127頁)
当該生徒の発言を「いじめ」と認定することはできないとして、担任の事実確認の不十分さと、指導時の発言を、生徒の尊厳を傷つける不適切な行為と問題点を指摘した。また、担任が家庭訪問をした際、かけた言葉は、当該生徒の気持ちや立場を理解しない不適切なものだったと指摘した。
生徒指導や家庭訪問時の対応を誘因として精神的混乱を生じ、心理的視野狭窄に陥る中で自殺行動に至ったとして、指導と自殺の因果関係を認定した。
事後対応の問題として、当該生徒がいじめを行ったと認定し、学校の不適切な指導を正当化しようとしたこと、「子どもへの指導で欠けていた部分」を把握しようとさえしなかったことなどを挙げた。
2018年12月9日 「平成27年11月奄美市立中学校生徒の死亡事案に関する第三者調査委員会調査報告書【公表版】」(PDF:3MB)
- Aさんが使った方言は「友人同士の他愛のないやり取りだった」と指摘し、Bさんが第三者委の調査に「Aさんは友達。方言は遊びみたいなもの」と話したことや、Aさんが指導を受ける直前にもBさんに給食を運んだり、サッカーに誘ったりしたことなどから「心身に苦痛を与える嫌がらせとは認められない」と判断した。そのうえで、担任の生徒指導について、第三者委は「Bさんからは十分に話を聞かずに『嫌なこと』を書かせた。Aさんらにも言い分を丁寧に聞かず紙に書かせ、事実確認も不十分なまま一方的に嫌がらせがあったと思い込み、不要な指導をした」と認定した。さらに、Aさんに対して担任が家庭訪問で「誰にでも失敗はある」などと伝えたことで「過大で理不尽な自責感をもたらした。自殺の引き金になった」と認めた。また、第三者委は、担任が他の教員と情報を共有せずに1人で対応したとして「学校には組織対応するという意識が欠如していた」と指摘した。
- 第三者委は、Aさん死亡後の市教委や学校側の対応の問題点を指摘した。報告書では、Aさんが死亡した翌朝に開かれた市内の臨時校長研修会で、市教委が「いじめた側の子が責任を感じて自殺した」と説明したことを明らかにし「憶測が地域に広がった」と批判した。また、遺族が2016年5月に市に第三者委の設置を申し入れた3ヵ月後に当時の校長が遺族に「再考できないか」と思い止まるよう迫っていたと指摘し、その理由として校長は「全部、公になる」「マスコミも来る」「学校は混乱する」などを挙げたという。第三者委は、「自殺が学校生活に関係すると疑われる場合には第三者委などによる詳細調査に移行すると定めた文部科学省の背景調査指針を無視し、大きな問題だ」と批判し、一連の市教委や学校の対応について「事実に向き合おうとする姿勢が見られなかった」と結論付けた。
2021年2月22日 「生徒指導ハンドブック ~子どもたちの尊い命を守るために~」(PDF:7MB)
その後
2020年6月29日に開催された共同会見において、第三者委員会の副委員長を務めた栁弁護士は、再発防止対策検討委に市教委が提示した「再発防止ハンドブック」について、「文部科学省などの通達やガイドラインなどを集めた資料的な要素しかなく、男子生徒の死に正面から向き合った再発防止策ではない」と指摘した。内村委員長は、「教育長は学校現場に責任を押し付けようとしている。市教委自らが、自身の誤りに向き合わなければ問題は解決できない」などと、要田憲雄教育長や市教委の対応を厳しく批判した。
Aさんの父親は、市の再発防止対策検討委員会がまとめた生徒指導ハンドブックの問題点について、自死事案の概要と課題について冒頭のわずか2ページのみしか触れられていない点などから「事案の概要と課題の記載が不十分」と指摘し、2018年12月にまとめられた第三者調査委員会の調査報告書で指摘された学校や市教委の対応の問題点などについて、具体的に触れられていないことなどから「生徒指導に関する理解が不十分」としている。また、「市教委自身の対応や取り組み、責任については何ら明示されていない」などと、市教委の再発防止に対する姿勢を批判し、事案の調査報告をまとめた第三者調査委員会と連携した再発防止策の提言を求めている。