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2018年(平成30年)6月22日、福岡県立久留米筑水高等学校の男子生徒(高校2年生•16歳)は、自宅で首を吊って自死した。生徒はスマートフォンに、同学年の野球部員数名の名前を挙げ、「毎日色々言われて限界やった」「生きているだけで苦痛だったよ」などのメモを残していた。
男子生徒は2017年7月から2018年6月頃にかけて、所属していた野球部の部員6人から、集団でズボンや靴下を脱がされたり、スマートフォンなどを隠されたりするなどの嫌がらせを受けていた。自死の直前には同級生のLINEグループから自分だけ外され、「さよなら、まじキモい」などと書き込まれ、靴の紐を絡ませる嫌がらせを受けた。
2019年3月27日 第三者委員会は、男子生徒が同学年の部員5人からズボンを下ろされたり、ベルトを取られたりした他、3人からスマートフォンを複数回隠されるなどしていたとして、いじめがあったと認定した上で、自殺はいじめが原因だったと結論付けた。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2018年7月 県教育委員会は、「重大事案」とした上で専門家などによる第三者委員会を設置した。
野球部の部員や教員などおよそ30人から聞き取りを行うなど事実関係を調査した。
調査委員
大学教授や弁護士ら
部会長:大坪靖直福岡教育大学教授
調査報告書•その後
2019年3月27日 調査委員会は、男子生徒が2018年4月から同学年の部員6人からズボンを下ろされたり、ベルトを取られたりした他、3人からスマートフォンを複数回隠されるなどしていたとして、いじめがあったと認定した。
その上で、自殺当日、主将が発表する夏の高校野球福岡大会の対戦相手をスマホで調べて、後輩らに先に話したことを非難されたり、同級生約10人のLINEのグループから外された。練習前には通学用とスパイクの紐を結びつけられたりもした。これらのいじめも加わって衝動的に自殺に至ったとして、いじめと自殺との因果関係が認められると結論付けた。但し、「(いじめに関わった)ほとんどの部員に、いじめていたとの認識はなかった」とした。
尚、学校はほぼ毎月、いじめなどの有無を問うアンケートをしていたが、男子生徒は被害の申し立てをしておらず、担任との定期的な面談でもいじめのことを話したことがないという。
2019年4月8日 橋本輝夫校長は、始業式に事件について、「亡くなった生徒は、保護者や教員などに相談しておらず、生徒自身が、いじめられていると捉えていなかった可能性もある」などと初めて全校生徒に説明した。(在校生徒の多くがこうした説明に違和感を感じたと言い、「相談しなかったのは、親に迷惑をかけたりいじめがエスカレートしたりするのを心配したからで、いじめと捉えていなかったら問題は起きなかった」などと話している。)
始業式での発言について、橋本校長は取材に対し、「もしいじめと思っていたら誰かに相談しているはずだ。結果的にいじめと定義づけられたが、自殺を考えたのは、いまだに何が原因なのかは分からない。誰がいじめたのかなど、犯人捜しはやめてほしいという思いもあって発言した」と話している。
2019年6月18日 日本学生野球協会は、同校の野球部を9月26日まで6か月間、対外試合禁止にする処分を決定した。
県は、いじめ防止対策推進法に基づく再調査を判断する委員会を設置した。
2020年9月28日、県が設置した委員会が8月、再調査を不要とする答申書を県に提出した。
再調査しない理由として、第三者委の調査報告書などでいじめに関する事実関係が明らかになっている、いじめの早期発見に向けてチェックリストを活用するなど学校側の再発防止策が妥当である、遺族側から再調査の要望がないことなどを挙げた。
加害者の処分
男子生徒の父親らは2019年10月に県警久留米署に被害届を提出し、同署は元部員3人を暴力行為等処罰法違反容疑で福岡地検久留米支部に書類送検し、福岡地検久留米支部は3人を同法違反の非行行為で家裁久留米支部に送致した。家裁久留米支部は2020年5月27日に2人を不処分とし、6月8日に残る1人も不処分とした(何も少年審判開始決定は、2020年5月18日)が、同支部は不処分の理由や内容を明らかにしていない。
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2020年10月 男子生徒の父親ら遺族3人は、「息子の名誉と尊厳を回復するには、被告ら全員から真摯な謝罪と、同じ過ちを繰り返さないという約束を受けることが必要不可欠だ」として、いじめに積極的に関与していた元野球部員の同学年の男子6人を相手取り、謝罪文の交付と慰謝料などの損害賠償(金額は非公表)を求めて提訴した。
元部員と保護者側は、遺族との2度の意見交換会でも「むしろ親しくしてやっていた」などと責任を全面否定し、一切謝罪に応じていない。
一審(福岡地裁久留米支部)
元野球部員6人全員が請求棄却を求める答弁書を提出し、争う姿勢を示した。
2020年12月、第1回口頭弁論が開かれた。
2025年10月31日、福岡地裁久留米支部(川崎聡子裁判長)で第2回口頭弁論が開かれ、元部員2人と遺族の証人尋問があった。第1回口頭弁論は第1回以来、約5年ぶりとなった。この間にウェブでの弁論や和解協議がもたれたが、和解には至らなかった。
元部員2人は傍聴席から見えないように衝立で遮られる形で法廷に立ち、1人はLINEグループについて「他のメンバーのほとんどが退会させられたことがある」とし、「退会が苦痛を与えるという認識ではなかった」と述べた。別の1人は被害生徒と互いにズボンを脱がせ合ったり、携帯電話を隠し合ったりしたとして、「普段からお互いにからかい合っていた」「仲の良い友達だった」「申し訳ないと思っているけど、お互いのじゃれ合いだった」などと述べ、いじめはなかったと主張した。
男子生徒の父親は元部員6人を「生き返ってほしいと思わない日はない」「(被告の言う)仲の良さは考え方が違う。許すことができない」と涙ながらに訴え、怒りを滲ませた。閉廷後、会見で父親は「記憶を取り戻して話してくれたのはよかったけれど、ひとこと謝罪があってもよかったのではと思う」「毎日毎日写真とかを見ていて、最初のほうは夢であってほしいと思っていましたけどつらくて。(同級生から)謝罪でも受けて、その言葉をもって息子のお墓に行って報告をしたいと思っています。」と声を震わせた。
同級生ら6人はいずれも訴えを退けるよう求めていて、次回の裁判は2026年2月6日に開かれる予定。
参考資料
“いじめ高2自殺訴訟、5年ぶり口頭弁論 元部員「じゃれ合いだった」” 朝日新聞 (2025年11月1日) 他