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2019年(令和元年)7月3日朝8時頃、岐阜市立東長良中学校の男子生徒(中学3年生•14歳)が、同級生からのいじめを苦にして、登校時に岐阜市内のマンションから飛び降り自死した。男子生徒の自宅からは、同級生の実名を名指しし、「暴行を受けた」「土下座を強要された」「金銭を要求された」などといじめを訴える内容のメモが見つかった。
男子生徒に対するいじめについて、担任教諭(33歳)は同級生から告発メモを受け取っていたが、教諭は加害者の指導後、メモをシュレッダーで裁断処分した。
2019年12月23日 第三者委員会の報告書は、遺族の意向で多くが白紙や黒塗りとなったが、所属する卓球部や学級での複数の生徒からの暴行と自死の因果関係を認めると共に、「学校がいじめへの組織的対応を怠った」と指摘した。
2021年2月22日 男子生徒の遺族側に対して、岐阜市側が「安全配慮義務が果たせていなかった。いじめへの教師の対応が不十分だった」と認め、約1,150万円の損害賠償金を支払うことで和解した。
事件の経緯
2019年5月31日 同級生の生徒が「この生徒(男子生徒)がいじめを受けているのを目撃した」として、男子生徒が同級生からされていた行為を時系列で記したメモ1枚を「生活ノート」に挟んで担任教諭に手渡した。
メモには男子生徒が「給食の時間、嫌いな食べ物を押しつけられていた」「持ち物を隠されていた」「同級生から見下されるような言動があった」などの内容が記されていた。男子生徒がこれらの行為を嫌がっていると話していたことを聞いたともした。メモを作成した同級生は、「(男子生徒のことが)心配なので私も一緒に戦います。先生、力を貸してください」とも綴っていた。
教諭はメモを受けて男子生徒に事情を聴いた。またメモで「この生徒へのいじめ行為をした」と名指しされた同級生の男子生徒2人にも事情を聴いて指導を行った。その際にメモの内容を加害者側に見せたことで、指導後にいじめが激化する一因となったと指摘された。
教諭はメモの内容について、学年副主任の教諭(加害者と名指しされた生徒のうち1人の2年時の担任でもある)に見せて、「(名指しされた生徒が)このような行為をする可能性があるか」と確認のための相談を行っていたという。しかし、教諭、学年副主任とも、このメモについて管理職や学年担当の他の教員とは情報共有をしなかった。教諭は指導後、「個人の氏名や個人情報が記載されている」としてメモをシュレッダーで裁断処分した。
6月 学校が実施した定期アンケートの「困っている仲間はいないか」という設問に、「この男子生徒がいじめを受けているようだ」とする回答があったとされるが、教諭はこのことに気付きながら特に対応しなかった。男子生徒本人の回答からは、いじめの訴えなどは確認できなかったとされる。
7月3日 男子生徒が岐阜市内のマンションから飛び降り自死した。自宅から「自分が死ねば(いじめた側は)反省するかな」との趣旨や金銭を要求されていたこと、同級生の名前などが書かれたメモが見つかった。
男子生徒の死後、学校に対して「この生徒へのいじめを目撃した」とする同級生からの証言が複数寄せられた。
岐阜市教育委員会は7月3日夜に記者会見を開き、男子生徒の自殺事案を公表した。「いじめがあった可能性がある」として、調査委員会を設置する方向を示した。
7月4日 保護者説明会の参加者の発言と指摘により、同級生が学校に提出していたいじめ告発メモの存在が明らかになった。学校と市教委は、その場では「存在は把握していない」としたものの、その後の調査で教諭がメモを受け取り、その後処分していたことが発覚した。
「物を隠された」などの情報が寄せられたことは市教委に伝わっていなかった。また、市教委は男子生徒の死亡直後の4,5両日、同級生十数人が、男子生徒へのいじめを疑わせる情報を学校に伝えたことも明らかにした。
また、男子生徒は1,2年生のときの定期アンケートでも「嫌なことをされた」「暴言をはかれた」と記したが、進級後引き継がれなかった。
教諭は、いじめに関して不適切対応をしたと指摘され、男子生徒の自死直後に生徒への指導を外れ、別の複数の教員が当該クラスの担任業務を交代で代行していた。
8月20日 岐阜市教育委員会は、2学期以降N教諭を当該クラスの担任から外し、市教委で研修させる方針を明らかにした。後任の担任には、生徒指導主事の教員を充てる。さらに岐阜市教委は、同校に教職員を4人増員することも併せて決めた。教諭が受け持っていた教科の後任の他、いじめや人権問題を担当する2人目の教頭、校務を補佐する職員2人の計4人を同校に着任させた。
9月末 教諭は一身上の都合により退職した。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2019年7月 市教委は、いじめ防止対策推進法に基づき、弁護士などの外部委員で作る「いじめ問題対策委員会」の設置を決定。年内にも調査結果をまとめる方針。
7月12日 第三者委員会初会合
• いじめの事実関係
• 学校の対応の事実関係
• いじめと死の関係
• 実効性ある再発防止策
の4項目の真相究明と提言を諮問
学校が事案発生後、3年生と当該生徒が所属していた部活動の部員に取った約200人分のアンケートの9割が回収され、未開封のまま、調査委員会が預かる。
全校生徒を対象にしたアンケートでは、男子生徒へのいじめを見聞きしたと訴える生徒が、全校生徒約500人のうち100人近くいたという。第三者委員会では、本人や保護者の了承を得られた生徒については、委員と弁護士2人一組の直接の面談での個別聴き取りを行い、約50人の生徒が聴き取りに応じた。一方で、男子生徒を学校のトイレで土下座させたとみられる加害者の同級生への直接の聴き取りは実施できなかったとも指摘された。
9月27日 第三者委員会会合の報告によると、男子生徒が「給食で嫌いな食べ物を押しつけられていた」「漫画本の購入を強要されていた」「金銭を要求されていた」「校内のトイレで土下座をさせられていた」などとする、約30件の「いじめの疑いがある」証言が得られた。
11月1日 トイレでのいじめ行為について、これまでは伝聞による証言だったことから、11月22日の前回会合以降、改めて57人の生徒に調査し、複数の目撃証言が得られた。
第三者委員会では証言を精査し、約30件についていじめと判断した。
11月5日 会議で、男子生徒が死亡する前日(7月2日)の休み時間、校内の男子トイレで、和式便器に頭を突っ込むような姿勢を取らされていたことを、複数の生徒が目撃したことが判明した。加害者は同じクラスの3人程度の男子生徒。委員会は、この行為が主因となり死に至ったと認定した。
調査委員
委員長:橋本治日本自殺防止学会理事
委員:髙橋博志弁護士(岐阜県弁護士会)
杉田その子氏(岐阜県臨床心理士会)
美濃島慎平氏(岐阜市PTA連合会)
大河内祥晴氏(西尾市立東部中学生自死事件の被害者•大河内清輝君の父)
調査報告書
2019年12月23日 岐阜市教育委員会に報告書を提出。
報告書は、遺族の意向で多くが白紙や黒塗りとなった。学校の組織的な対応に関する記述が白紙になっていた。
男子生徒は、中学1年からいじめを受け、特に亡くなる1カ月半前の5月中旬頃から、部活(卓球部)や学級でのいじめが激しくなった。
5月末、同級生の女子生徒がいじめの事実を伝えた手紙を担任に渡したが、担任は加害者生徒2人から事情を聞く際、うち1人に女子生徒の手紙の一部を示して「同級生が訴えてきた」と話した。担任は結局、いじめと判断せず、給食マナーを指導するにとどめ、校長らにも報告しなかったという。
委員会は、この時の指導がきっかけで、いじめがエスカレートしたと認定した。
土下座の強要や金銭の要求、蹴ったり殴ったりといった暴行など計34件のいじめを事実認定。「多くのいじめが日を追うごとに激しくなり、自殺の主要因になった」と指摘。「教員間の連携不足など学校の対応が不十分だったため、いじめの激化を止めることができなかった」とした。
再発防止策として、教員にはいじめを認識したら速やかに報告し、学校の組織的な対応につなげるよう提言した。
同校は、岐阜大学の教育実習校の役割を担い、同大学の教育実習生を多数受け入れて教員が教育実習生指導に時間を取られていたことで教職員が他校よりも多忙になり、生徒に向き合う時間が少なくなったことも事件の背景にあると指摘された。(2018年度は他県の大学などの視察や公開授業、研究会が計25回あり、約960人にのぼった。トイレ事件があった日も、県や市の教委職員らが学校を視察に訪れていた。)
岐阜市教育委員会では、岐阜大学や岐阜県教委と調整の上、同校を含めて岐阜市内の特定の少数の小中学校が担っていた教育実習生の受け入れ負担を減らすために教育実習の受け入れ先を全県に広げるなどの対応も検討している。
加害者の処分
2020年1月17日 岐阜県警は「自殺前日、トイレで取り囲んで土下座を強要した」として、同級生の男子生徒3人を強要容疑で書類送検した。うち1人については、現金を脅し取ったり生徒を平手打ちしたりしたとして、恐喝や暴行容疑でも書類送検した。
10月5日 加害者の3人の生徒について、いずれも保護観察処分を決定した。
関係者の処分
2020年3月23日 岐阜市教育委員会は「学校がいじめへの組織的対応を怠った」と判断して、男性校長(57歳)を減給10分の1(3カ月)、男性教頭(51歳)と学年主任の男性教諭(42歳)を減給10分の1(2カ月)とした。
2019年退職した当時の担任の教諭(33歳)は減給10分の1(6カ月)が相当とした。
また、学校現場を指導する立場として早川教育長が自ら責任を取りたいと申し出て、教育長の給与を4月から3カ月間、10%減額する。
事件の報道
岐阜中3自殺 県トップ進学校 「イジメ集団は自殺後も笑っていた」
事件のその後
男子生徒の遺族側と岐阜市教育委員会は、事件発生以降、代理人弁護士を通じて訴訟外で話し合いを行っていた。話し合いの中で、岐阜市側が「安全配慮義務が果たせていなかった。いじめへの教師の対応が不十分だった」と認めて約1,150万円の損害賠償金を支払う方向を提案し、2021年2月22日に基本合意がまとまった。2021年3月3日開会の岐阜市議会で関連議案が承認されて正式に和解となった。
