出水市立米ノ津中学校吹奏楽部員自死事件

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2011年(平成23年)9月1日、2学期が始まる日の早朝、鹿児島県の出水市立米ノ津中学校の吹奏楽部の女子生徒(中学2年生•13歳)は、所属していた吹奏楽部で使っていた学校の楽器を壊されたうえ、弁償を強要されたり、文房具を壊されたり、仲間外れにされたりしたことを苦にして、九州新幹線に飛び込み自死した。

学校側は全生徒を対象にアンケートを実施し、いくつかのいじめが報告されていたにもかかわらず、2011年11月、調査委員会は「(自殺の)直接のきっかけとなる出来事は確認できなかった」と結論付けた。

2015年12月15日、鹿児島地裁で、女子生徒の遺族により開示請求されていた、全校生徒対象のアンケートの結果をまとめたものの写し(固有名詞をマスキングしたもの)の開示請求が認められた。

2021年6月29日、いじめを窺わせる10項目の事実と、それに近い時期に女子生徒が死亡したことを市が認め、女子生徒が死亡した後の調査や対応が遺族の期待に沿うものではなかったことに市が遺憾の意を表し陳謝するとともに、市が解決金として遺族に200万円を支払う和解が成立した。

同中学校では、1994年10月29日に出水市立米ノ津中学生自死事件が起きており、調査のために取ったアンケートを遺族に見せることなく処分している。

事件の経緯

女子生徒は幼い頃に両親が離婚し、父と祖父母、弟と5人で暮らしていた。祖父母が普段の生活の世話をしていた。また、女子生徒は小学4年生の頃、入院していた祖父の見舞いの際、「看護師になって、じいちゃんのような病気で苦しむ人の役に立ちたい」と言っていた優しい子だった。

2010年8月、女子生徒は数人の女子生徒から、所属していた吹奏楽部で使っていた学校の楽器を壊されたうえ、弁償を強要されたり、文房具を壊されたりした。

女子生徒は亡くなる1か月前から吹奏楽部を休みがちになり、元気がなかった。

2011年9月1日、鹿児島県出水市境町のJR九州新幹線の線路上で身元不明の遺体が発見された。出水署の捜査で2日、行方不明になっていた近くに住む女子生徒と判明した。同署によると、DNA型鑑定で本人と確認した。線路を跨ぐ陸橋のフェンス(高さ約2.9m)の金属部分に指紋が残っており、遺体と女子生徒の自宅から採取した指紋とも一致した。女子生徒の捜索願は同日午前4時半頃、家族から出されていた。同6時20分過ぎに現場を通過した上りの回送列車の先頭車両に衝突痕とみられる凹みが見つかっており、同署はこの回送列車に轢かれたと特定した。遺書などは見つかっていないが、フェンスを複数の人物が上った形跡はなく、同署は女子生徒がフェンスをよじ登り、線路上に飛び降りて自死した可能性が高いとした。

葬儀の直後、遺族に「吹奏楽部でいじめがあった」という情報が寄せられる。遺族は、いじめが原因で自殺した可能性があるとして、学校に調査を依頼した。

遺族の独自調査により、女子生徒が数人の女子生徒から所属していた吹奏楽部で使っていた学校の楽器を壊されたうえ、弁償を強要されたり、文房具を壊されたりしたといういじめの態様が明らかにされた。

【遺族の独自調査】(伝聞を含む)
• 物がなくなったり、スリッパがぐちゃぐちゃにされたり、スカートをわざとらしく叩かれたりしていた。
• 部活のあと、ノートがなくなったと泣いていた。
• 同級生が女子生徒の悪口を言っていた。
• 同級生が女子生徒のカバンを蹴っていた。
• クラリネットを折られた。楽譜を破られた。
• 楽器を隠された。
• いじめられても『どうしたらいいかわからない』と言っていた。
• シャープペンシルの中央部分が鋭利な刃物でえぐられたうえ、焼かれていた。(現物有)
• クラリネットを壊され、弁償しなければならない、お金を貸してくれないかと言っていた。
• 5月から6月にかけて楽譜が数回なくなり、女子生徒の祖父がコピーしていた。
などの情報が生徒や家族から得られた。

10月7日、市教委は生徒368人を対象にアンケートを実施し、同年11月に「いじめなど自殺の直接原因となる出来事は確認できなかった」との報告書をまとめた。
これに対し、遺族は同年12月以降、女子生徒と接する機会が多かった生徒と保護者を対象に独自のアンケートを実施した。十数人から回答があり、伝聞を含め、「持ち物がなくなったり、スリッパがグチャグチャにされたりしていた」「いじめの対象となっていた」「いじめられても『どうしたらいいかわからない』と言っていた」などの記述があったという。

2012年8月10日、遺族は女子生徒が同じ中学の生徒に恐喝されたり物を壊されたりしたとして、恐喝未遂と器物破損の容疑で県警出水署に被害届を提出した。2011年8月頃、女子生徒が数人の女子生徒から、所属していた吹奏楽部で使っていた学校の楽器を壊されたうえ、弁償を強要されたり、文房具を壊されたりしたとし、「いじめがあったことは明らか。警察にしっかり調べてほしい」と訴えた。

2021年4月5日、女子生徒の父親が仕事を終えた後、急性心筋梗塞で倒れて亡くなった。(享年44歳)

調査委員会

調査委員会の設置•調査内容

2011年9月7日、市教委は教委や学校関係者を中心とした調査委員会と、外部専門家からなるいわゆる第三者調査委員会の2つの調査委員会を設置した。

10月7日、事故調査委員会は、女子生徒の自殺後、約1か月経って、全校生徒対象にアンケート実施。欠席者27名を除いた368名の生徒が回答した。

【アンケート内容】

「去る9月1日に亡くなられた、2年生の◯◯◯◯(女子生徒の氏名)さんのことについて、アンケートに協力してください。
このアンケートは、◯◯(女子生徒の苗字)さんのつらさを無駄にせず、二度とこのような悲しい出来事が起きないようにするための手がかりを得ることと、自分の子どもに何があったのか、真実を知りたいという家族の願いにこたえるために実施するものです。
みなさんがこのことを真剣に受け止め、知っていることを正しく誠実に答えてくれるよう願っています。」

質問1 以前に、◯◯(女子生徒の苗字)さんのことで気になったことがあれば、どんなことであったか(いつ頃、どこで、何を、だれと)書いてください。
質問2 最近の様子で、特に変わったことがありましたか。気が付いたことがあれば、どんなことか書いてください。
質問3 友達から聞いたこと。いつ頃•どんなことを聞きましたか。
質問◯ あなた自身について何か伝えたいことや相談したいことがありますか。

「記入したことやそれ以外のことで、直接話したいことがあれば、遠慮せずに先生やスクール•カウンセラー、あなたを支えている周りの方々に相談してください。」

学年•学級•氏名 記入欄

3回の会合を開いただけで報告書をまとめる。
第三者委員会は、事故調査委員会の報告書案を見て、評価を行う。
独自に追加して、アンケートや生徒の聴き取りを行わなかった。遺族に一度も聞き取りをしていない。
このようなやり方をした理由は、「知らない人だと生徒が身構えてしまって本当のことを言わない、遠方から来ている委員がいたので物理的にも生徒と接触を持つのは難しかったから」とする。

調査委員

事故調査委員会 11名。氏名非公開。
委員長:教育委員会
副委員長:教育委員会
委員:教育委員会、当該校校長、教頭、教務主任、生徒指導主任、PTA会長、PTA副会長、臨床心理士、スクールソーシャルワーカー

事故調査専門委員会 5名。氏名非公開。
委員長:学識経験者(大学教授)
副委員長:臨床心理士
委員:民生委員、児童委員、人権擁護委員

調査報告書•その後

2011年11月末、3か月後、全13頁の報告書を提出した。
生徒への聞き取りの結果、「吹奏楽部の部員が離れて座っていた」「ノートがなくなって泣いていた」「楽器を掃除するスワブがなくなって、あとで下駄箱から見つかった」「『きもい』と言われているところを見た」などが挙がった。しかし調査委員会は、いじめを認定せず、「(自殺の)直接のきっかけとなる出来事は確認できなかった」と結論付けた。

理由としては、「吹奏楽部内においては、楽譜クラリネットのリードがなくなったり、壊れたり、チューナーコードが切られたりしたことがあった。Aについても、部活動ノートがなくなったり、スワブがなくなったりしたことがあった。なお、これらに対して顧問は、日頃からのチームワーク等に関する指導に加え、Aのノートがなくなった時には強い姿勢で全体指導を行ったり、スワブがなくなった時は顧問自ら探してAを気にかけるなどしており、特に不適切な対応は認められない。また、吹奏楽部内には、Aが特定の生徒との人間関係を気にしていた様子も伺えるが、他方でAの話を聞いたり、一緒に練習や行動をしたり、遊んだりしている生徒もおり、Aが部活動内で孤立した状態にあったとは言えない。さらに、A自身が、2学期の部活動への期待を8月26日に話しているほか、8月29日の最後の部活動練習にも休むことなく出席しており、吹奏楽部の活動における人間関係等が今回の事故と直接関係しているとは考えにくい。」とした。

一方、遺族が独自調査を行い、「物がなくなったり、スリッパがグチャグチャにされたりしていた」「いじめられても『どうしたらいいかわからない』と言っていた」などの回答が十数人から得られた。また、所属していた吹奏楽部で楽器を壊され、同級生らから弁償を強要されるなどしていたという。
学校の調査でも、遺族側の調査と同様の内容が記載されていたというが、「断片的な情報や憶測•伝聞情報が含まれている」などとして、二次被害を防ぐために非開示にするという。

情報開示請求訴訟

提訴

中学校長は当初、アンケートを遺族に見せると約束していたが、1枚も見せなかった。
遺族が、出水市情報公開条例に基づき、出水市教育委員会が組織した事故調査委員会が、同中学校の全校生徒を対象に実施したアンケート調査の回答用紙及びアンケートをまとめたものの各写しの開示請求した。
出水市教委は「開示により、特定の個人を識別することができ、又は特定の個人を識別することはできないが、なお個人の権利利益を害するおそれがあること、及び個人の生命、身体、生活、名誉等の保護に支障を生ずるおそれがあることを理由として、全部不開示とする旨の決定をした。
遺族は、アンケート開示を求める署名運動を実施し、全国から約1万4,000人分の署名を集めた。そして、何十回も市教委に開示を求めた。

2014年4月4日、遺族が、アンケートを全部不開示とする処分の取り消し及び本件文書の開示決定の義務付けを求め、提訴した。

【請求文書】
1 米ノ津中学校において平成23年9月7日に実施された全校生徒対象のアンケートの回答用紙の写し(ただし、固有名詞をマスキングしたもの)
2 米ノ津中学校において平成23年9月7日に実施された全校生徒対象のアンケートの結果をまとめたものの写し(ただし、固有名詞をマスキング処理したもの)

判決

2015年12月15日、鹿児島地裁で、一部認容判決(確定)
2の全校生徒対象のアンケートの結果をまとめたものの写し(ただし、固有名詞をマスキング処理したもの)の不開示とした部分を取り消す(開示を認める)決定。

判決後の記者会見で遺族らは、市に控訴しないよう求め、遺族への情報提供についての法制度の整備を訴えた。
原告の女子生徒の祖父は判決後、地裁前で「勝訴」と書かれた紙を掲げ、「すぐ帰って孫の仏前でお線香をあげたい」と喜びを口にした。寄り添うように立っていた女子生徒の祖母の胸には、女子生徒の遺影が抱かれていた。
記者会見で女子生徒の祖父は、時折タオルで涙を拭いながら、「いじめをなくす取り組みが全国的に進められている。出水市は判決を尊重し、控訴することなく直ちにアンケートを開示していただきたい」と話した。会見後には市役所で、控訴断念を求める市長宛の申入書を提出した。
出水市は22日、控訴しないことを決め、「個人を特定できる情報を伏せれば開示できる」とした地裁判決が確定した。
出水市教委の溝口省三教育長は記者会見で「判決は、個人情報を特定できないよう不開示部分を広げ、私たちの主張もある程度認めた」と説明した。地裁が判断した不開示部分を除き、アンケート結果をまとめた写しを遺族に開示する方針。
裁判では、市側は「個人が特定される」などと請求棄却を求めたが、15日の地裁判決は「一部を除いて開示すれば個人は特定できない」としていた。

その後

2016年1月8日、市教委は、アンケートの回答者の氏名や学年、部活動名など、個人が特定される部分を黒塗りにして、パソコンで打ち直した全校生徒300人分のアンケートを遺族に手渡した。

遺族は、改めて自殺の原因はいじめだったとして第三者による調査委員会の設置を求めた。

民事損害賠償請求訴訟

提訴

2017年5月23日、女子生徒の遺族は、学校がいじめの対策を取らず、情報開示もしなかったために真相を知ることができず精神的苦痛を受けたなどとして、出水市に1200万円の損害賠償を求めて鹿児島地裁に提訴した。

女子生徒の死後、学校は全校生徒を対象にいじめの有無を調べるアンケートを実施し、市教委は回答結果などをもとに「(自殺の)直接のきっかけとなる出来事は確認できなかった」と結論付けた。遺族は市の情報公開条例に基づいて2012年9月と2014年2月にアンケート結果の開示を求めたが不開示とされ、遺族が開示を求めて提訴した。2015年12月に鹿児島地裁が結果の一部の開示を市に命令した。その回答のなかにいじめをうかがわせる複数の記述があったとして遺族が市教委に再調査を求めたが、市教委が再調査に応じなかったため、自殺といじめの因果関係を明らかにするために提訴に踏み切った。

一審(鹿児島地裁)

2021年6月29日、ある生徒が女子生徒のバッグを蹴ったことや女子生徒がある生徒から「しゃべらないで」と言われたことなどいじめを窺わせる10項目の事実と、それに近い時期に女子生徒が死亡したことを市が認め、女子生徒が死亡した後の調査や対応が遺族の期待に沿うものではなかったことに市が遺憾の意を表し陳謝するとともに、市が解決金として遺族に200万円を支払う和解が成立した。

参考資料

鹿児島県出水市•市立中学校いじめ自殺地上の涙

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