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2018年(平成30年)9月3日、鹿児島市内の公立中学校の男子生徒(中学3年生•15歳)は、放課後、夏休みの宿題の一部を提出していなかったため、職員室で担任の女性教諭(40歳代)からおよそ10分間にわたって宿題を提出するよう大声で叱責するなどの個別指導を受け、始業式から帰宅した後、自宅で自死した。男子生徒は進路に関しやり取りした際、夏休み中に体験入学した高校の環境に不安を抱いたと明かし、涙を流したという。
母親は「宿題を忘れた複数の生徒のうち、息子だけが最後まで残され、指導は約40分に及んだと他の生徒らから聞いた」と話している。女性教諭を巡っては、2017年末、生徒らに大声をあげるなどして、保護者が学校側に改善を求めていた。数年前には、生徒を正座させ、髪を掴むなどの体罰があったとして、生徒側が学校に抗議していた。
2021年6月30日、調査委員会は「担任教諭による大声での叱責など、個別指導が自死の引き金になった」と認定した。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
遺族は第三者を交えた更に詳細な調査を希望した。
2018年10月16日、鹿児島市教育委員会は臨時会を開き、弁護士や精神科医ら5人により「詳細調査」を実施することを決定した。
2019年1月に設立され、学校や生徒らに聞き取りした。
調査委員
委員長:有倉巳幸鹿児島大学教授(教育心理学)
調査報告書•その後
(A4判約100ページ)
2021年6月30日、「担任教諭による大声での叱責など、個別指導が引き金になった」と認定し、個別指導で生徒が涙を流した理由を「信頼関係の希薄な担任に、進路の不安が露見し動揺したため」と推測した。「受験や夏休み後の登校というストレスが重なったところに(叱責を含む)個別指導が行われ、限界を超えた」と分析した。また、市教委や学校の対応について「(遺族側が)不信感を抱くやりとりがあった」と指摘し、担任の指導法について「生徒や保護者で受け止めに差があることを踏まえた説明が必要だった」と強調した。
再発防止策などで、生徒に恐怖を与える指導の改善や適切な情報開示といった6項目を提言した。有倉巳幸委員長は「社会全体で活用してほしい」と話し、時期は未定ながら報告書を公開する方針を示した。杉本羊一鹿児島市教育長は「(指摘を踏まえ)指導の在り方などを見直す」と述べた。
「鹿児島市児童生徒の死亡事故に関する調査委員会報告書(公表版)」(PDF:4MB)
2022年7月14日、鹿児島県教育委員会は、元担任で生徒を大声で叱責した女性教諭(44歳)を、「校長の注意があったのに、不適切な指導で職務上の義務に違反した」として、戒告の懲戒処分とした。当時の校長は退職しており、管理監督責任は問えないとした。
民事訴訟
民事損害賠償請求訴訟
提訴
男子生徒の遺族は、男子生徒が自殺をしたのは、担任だった女性教諭の不適切な指導が原因として、鹿児島市に対し、約6580万円の損害賠償を求めて提訴した。
元担任は18年9月、夏休みの宿題の一部を提出しなかったとして男子生徒を大声で叱責し、その後、男子生徒は自殺した。男子生徒は日頃からどなり声をあげて指導する元担任にストレスを感じており、学校は自殺に追い込まれる可能性を認識できたと主張している。
一審(鹿児島地裁)
2024年11月28日、鹿児島地裁(前原栄智裁判長)の第5回口頭弁論で、遺族側は被告側が提出した学校評価資料などを踏まえ、「中学校は人権感覚が欠如する教師がいることを自覚していた」と指摘し、「当時の校長は教師が生徒を苦しめ続けている状況を見て見ぬふりをしていた」として、当時の校長の予見可能性が認められるべきだと書面で主張した。市側は書面で、個別指導が引き金になった可能性が高いことは争わないとしつつ、指導した教諭らに自殺の予見可能性があったとは考えにくいと主張し、仮に損害賠償義務が認定される場合、生徒の心因的要因が「損害発生に大きく寄与した(9割以上)」として、個別指導が唯一の原因であるとは言えず、生徒の心因的要因も「発生の原因」であると主張した。
2025年10月15日、女性教諭は個別指導の理由について「未提出の量が他の生徒よりも多かったため」としたうえで「自殺するとは全く思わなかった」と証言した。なぜ大声を出す必要があったのかと問われると「真剣に指導する態度が生徒の内省につながると思った」と答えた。
同日、男子生徒の同級生は女性教諭について、ある事案で指導を受けた際、「椅子を振り上げられ『吐け』とどなられた。いつも一方的で威圧的だった」と証言した。
10月23日、元校長は尋問で、元担任が以前から指導の際に大声を出したり、机や椅子を蹴ったりしていたことを認識した上で、担任が大声で指導していたことについて「生徒が嘘をつくこともあるので、大きな声で指導せざるを得ない場面があった」と証言し、学級経営力や生徒指導力を踏まえて評価していたと証言した。一方、自殺の原因については「一面的には(指導が)引き金になった部分はあるが、子どもたちが抑圧されてはいない」と述べた。
男子生徒の母親は「当時の息子は頭の中が真っ白になり、どうしたらいいか分からなくなったと思う」と語り、「不適切な指導によって子どもの心が壊れてしまう。社会一般ではパワハラに該当する行為を『指導』で済ませてほしくない」と主張し、改めて不適切な指導が自死の原因になったと訴えた。
参考資料
“3年前の中3自殺 「担任の個別指導が引き金」 第三者委が鹿児島市教委に最終報告 大声で叱責、対応の不備も” 南日本新聞社 (2021年7月1日) 他