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2017年(令和29年)4月20日、長崎県の私立海星高等学校の男子生徒(高校2年生•16歳)は学校から帰宅後に行方不明になり、翌4月21日に市内の公園で首を吊って自死しているのを発見された。遺書と手記からいじめが原因と考えられたが、学校側は調査を拒否した。教頭は遺族に対し、「突然死したことにした方が良いかもしれない」「転校したことにもできる」などと提案した。
2018年11月には第三者委員会は、いじめが主な要因で自殺したと認定したが、学校側は報告書の受け入れを拒否した。また、学校側は日本スポーツ振興センターの死亡見舞金について、遺族の損害賠償請求権放棄を条件とする申請を提示し、いじめではなく突然死を死因とすることを提案した。
2022年11月4日 第三者委員会が男子生徒の自死を「同級生によるいじめが主な要因」と認定したにもかかわらず、学校側が「内容が理解できない。結論に至る理由に論理的な飛躍があり不完全だ」と主張して、いじめ自死を否定していることに対して、遺族が約3,200万円の損害賠償と学校ウェブサイトへの謝罪広告の掲載を求めて長崎地裁に提訴した。
事件の概要
2017年4月20日、長崎県の私立海星高等学校の男子生徒は学校から帰宅後に外出したが、夜になっても戻らないため家族は長崎署に行方不明届を出した。翌4月21日に市内の公園で首を吊って自死しているのを発見された1。自死現場にはいじめがあったような遺書が残されていた2。自宅には、男子生徒が亡くなる約1カ月前に書いたとみられる手記が残されており、数年前から空腹時のおなかの音を同級生に「さんざんdisられた(侮辱された)などと書かれていた。また、教室内の物音も男子生徒が発した音として揶揄われていたと時系列で書かれていた3。
生徒の自死から約1週間後、武川真一郎教頭(現校長)は生徒の父親に「遺族が希望するのであれば転校ということにもできますよ」「マスコミが騒いでいるので、突然死ということにした方がいいかもしれませんね」と提案した4。(この場には長崎県の私立校を監督する課の責任者も同席していたが、「突然死までは許せる」と追認する発言をしたという5。)この提案から1週間後に、新たに加害者の実名が書かれたいじめの被害を訴える手記が発見された。このことから遺族は第三者委員会の設置を要望して設置された6。
遺族は教職員らと20回にわたり面会して再発防止策を講じるように求めた。遺族は自殺を公表するように頼むと、学校側は1986年に飛び降り自死した歌手の岡田有希子さんの事件の例を挙げて後追い自殺が出ることになることと、自殺した生徒はこれを望んでいないと思うと言った。この言葉を遺族は「まるで脅されているよう」に感じ、「精神的に圧迫されて」いった。(男子生徒の母親談)その時の教頭はいじめがあったと認めていたが、自殺した生徒のクラスでは何の話し合いも行わず、加害者には何の指導もしなかった。自殺から1年が経っても、担任も学年主任も加害者の名前すら知らない状態であった7。
海星高校はカトリック教会のマリア会のキリスト教主義学校であり、理事長をはじめ幹部は遺族に「追悼のために祈った」「ミサを捧げた」と強調した。母親はこれに対し「こんなことは頼んでいないし、これよりも現実に目を向けてほしかった。学校側は被害者は天国に行って一件落着としている、神様はそんなに便利な存在なのか」と述べた。父親は「海星高校は校訓に愛を掲げているが、学校側はこの意味を本当に理解しているのか、実際の行動はこれとは真逆である」と述べた8。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
生徒の自死の原因を調べない学校の姿勢に不信を抱いた両親が調査を求めた。
2017年4月末 学校から県学事振興課に生徒が自殺したとの連絡があり、5月上旬に「いじめが原因と考えられる重大事態」として報告があった。
県は学校側にいじめ防止対策推進法や文部科学省の調査ガイドラインに沿って調査を進めるよう指導した。
2017年7月 学校側は弁護士らでつくる第三者委を設置し、調査を始めた。
調査委員
委員長:中西祥之弁護士
委員:鮎川愛弁護士
市原正博(長崎県公立高校)
土居隆子(臨床心理士)
吉武久美子(臨床心理士•大学教授)
調査報告書
2018年11月 調査委員会は、本人の手記や同級生へのアンケートから、おなかの音を侮辱する行為や、男子生徒が音が鳴らないよう休み時間に別室で間食する際に、ドアを無理やり開けた同級生の行為をいじめと認定した。
生徒が残していたメモなどをもとに、「少なくとも中学3年の時以来のいじめを主な要因としつつ、これに起因した心理的な孤独や教師からの理不尽な指導、学習に対する悩みやあせりなどが相互に作用しあって自殺につながっていった」などとする調査結果をまとめた。
生徒が卒業するはずだった3月までに総括することなどを提言した。
男子生徒に対するいじめ
被害生徒へのいじめは中等部(中学校)からあり、当初はお腹の音が鳴ったと揶揄われることから始まり、椅子を動かす音やその他の音が鳴れば、それをお腹の音だと決め付けられて揶揄われるということが続いた。次第に被害生徒は、おにぎりや軽食を時間の合間などに食べるようになるなど、行動に現れるようになった。
被害生徒は極めて音に敏感になっていき、何か音がする度に自分のせいにされるという事態に怒りを覚えていた。こうしたことは高等部(高校)に上がっても続き、何かの音がすればいじめをする生徒が「のどをならす」という行動を取るようになった。これは「定番の喉鳴らし」などと言われており、被害生徒はノイローゼと言える状態に陥っていた。
何かの音が鳴れば自分のせいだと勘違いされ、うるさいなどと言われたり、音がしないように緊張することで、被害生徒は唾を飲む音すら苦痛になっていった。
このような継続的ないじめ行為により、被害生徒は常に心身の苦痛を感じている状態であった9。
男子生徒に対する教師からの理不尽な指導
複数の生徒たちによると、「数名の生徒が私語をしていても◯◯(生徒の名前)君だけが怒られる」など生徒だけがなぜか怒られるという事態が起きていた。
また、動画を見る授業で被害生徒がメモを取っていると、「メモを取るより動画を見ろ!」と言われ、その次の回はメモよりも動画に集中していれば、「なんでメモを取らないんだ!」と強く怒られていた。この様子を見ていた周囲の生徒は、被害生徒が理不尽に先生から怒られていたと見ていて、自分が被害生徒のようだったら辛いなと考えていた10。
その後
2019年1月 学校側はいじめの存在は認める一方で、いじめが自殺の主因とは認めず、報告書を受け入れない意向を両親に通知した。
第三者委の報告書について、「全体的に説得力を欠く」などと受け入れず、アンケート結果など証拠文書の開示を求めている。
また、第三者委員会は「自殺は同級生のいじめが主要因」とする報告書を提出したが、2020年11月現在で学校は、日本スポーツ振興センターの死亡見舞金について遺族の損害賠償請求権放棄を条件とする申請を提示11し、いじめではなく突然死を死因とすることを提案した。長崎県学事振興課も突然死を追認した12。遺族は、この申し出を断り、自ら雇った弁護士の協力で自力で申請し、センターも2020年3月に「いじめ自殺」を事実上認定し、見舞金の給付を決定した。
2019年2月 学校は保護者会でも「(報告書は)いじめがあったとする裏付けが薄い」などと主張した。
2019年5月30日 高校の敷地内で、男子生徒が首吊り自死した。原因は公表されていない。
2019年11月7日 学校のホームページで報告書を公開した。64頁(+調査委員会の呼び掛け文)
2021年3月、第三者委員会がまとめた「主因はいじめ」とする調査結果を受け入れない学校側に対し、地元の塾経営者や在校生らが公の場での説明を求める754筆の署名を25日、学校側に郵送した13。
2021年7月、NPO法人「子どもの権利オンブズパーソンながさき」は、学校側が「いじめが主因」とする第三者委員会の報告書をいまだに受け入れていないことを問題視した意見書を長崎県に提出した14。
2021年11月、男子生徒の両親は、いじめ防止対策の徹底を求める要望書を県と県教委に提出した15。
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2022年11月4日 第三者委員会が男子生徒の自死を「同級生によるいじめが主要因」と認定したにもかかわらず、学校側が「内容が理解できない。結論に至る理由に論理的な飛躍があり不完全だ」と主張して、いじめ自死を否定していることに対して、遺族が約3,200万円の損害賠償と学校ウェブサイトへの謝罪広告の掲載を求めて長崎地裁に提訴した。
事件報道について
男子生徒の自死後、学校側は対外的には「突然死」と説明することを両親に提案し、長崎県の総務部学事振興課は了承した。この経緯は「海星高が自殺を『突然死』に偽造/長崎県も追認、国指針違反の疑い」(2020年11月17日)と共同通信から報じられた。
報道の翌日に県総務部は記者会見を開き、学校側による「突然死」の提案を追認したことについて、「積極的には追認していない」とか、「担当者の発言が適切でなく誤解を与えた」と釈明した。
記者会見に出席したメディア各社は県の釈明を批判的に報じたが、長崎新聞は遺族の主張には触れず、県の言い分だけを報じた。
2022年11月に出版された『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』の著者である共同通信の記者は、会見で県側を追及する質問をして、長崎新聞の県政担当記者に「県政記者クラブとしてあんまり行きすぎたことをされると、それはそれなりに対応せざるを得なくなりますよ」と言われ、遺族と共に被害生徒の自死の真相を追及していたが県外に転勤させられた16。
長崎いじめ自殺 保身の代償~最後の砦メディアの裏切り【探査報道最前線】
出典:デモクラシータイムス
メディアの裏切り ~共同通信の保身 記者は何を糾弾されたのか【探査報道最前線】
出典:デモクラシータイムス
書籍
いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録
石川陽一(著) / 文藝春秋 / 2022年11月9日
<内容>
2017年4月、長崎海星高校2年の男子生徒が首つり自殺した。いじめを示唆する遺書が残され、後に加害者の実名が記されたノートも発見された。
親族のみでひっそりと葬儀を終えた両親に対し、学校の教頭は自殺を「突然死」や「転校」に偽装することを提案する。学校がいじめを隠蔽しようとしているのではないかと疑問を持った両親は、息子がいじめを苦に自殺したことを全校生徒や保護者に伝え、再発防止に努めてほしいと要望する。
学校は自殺の原因を調査する第三者委員会を設置するが、第三者委がいじめと自殺の因果関係を認める結論を出すと、その報告書の受け入れを拒否する。両親が2019年2月に記者会見してその事実を公表すると、全国的な大きなニュースとなった。 だが、その後も、報告書を受け入れて再発防止策を履行するように県の指導を受けながらも、学校が態度を改めることはなかった。
そして、両親の会見から3カ月後、長崎海星高校では新たな自殺者が出た――。
- “「いじめで生徒自殺」第三者委が認定、学校は拒否 長崎” 朝日新聞DIGITAL (2019年2月26日)
- “第三者委「いじめ自殺」報告を拒絶する長崎•海星高 遺族に向き合わず、隠蔽体質示す会話記録の一部始終” 47NEWS (2020年12月3日)
- “「いじめで生徒自殺」第三者委が認定、学校は拒否 長崎” 朝日新聞DIGITAL (2019年2月26日)
- “「「息子のように苦しむ子どもをつくらないで」 生きていれば二十歳の誕生日、長崎海星高いじめ自殺 母親の手記全文” 47NEWS (2021年1月19日)
- “長崎海星高いじめ自殺事件で伏せられた第三者委「報告書」の仰天中身” MAG2NEWS (2021年2月26日)
- “《ついに両親が提訴》教頭が「16歳少年の自殺隠し」を提案…遺族が明かす「長崎•海星高校」の非道” 文春オンライン (2022年11月13日)
- “《ついに両親が提訴》教頭が「16歳少年の自殺隠し」を提案…遺族が明かす「長崎•海星高校」の非道” 文春オンライン (2022年11月13日)
- “《ついに両親が提訴》教頭が「16歳少年の自殺隠し」を提案…遺族が明かす「長崎•海星高校」の非道” 文春オンライン (2022年11月13日)
- “長崎海星高いじめ自殺事件で伏せられた第三者委「報告書」の仰天中身” MAG2NEWS (2021年2月26日)
- “長崎海星高いじめ自殺事件で伏せられた第三者委「報告書」の仰天中身” MAG2NEWS (2021年2月26日)
- “長崎高2自殺、いじめ認定に学校異議 第三者委の報告「不服」” 西日本新聞 (2019年2月26日)
- “海星高が自殺を「突然死」に偽装 長崎県も追認、国指針違反の疑い” 中日新聞 (2020年11月17日)
- “「いじめ自殺、説明を」認めぬ高校に署名、校長に手紙も” 朝日新聞DIGITAL (2021年3月26日)
- “「海星高の対応は「権利侵害」 生徒自殺で市民団体” 朝日新聞DIGITAL (2021年7月21日)
- “「いじめ対策の徹底を」海星高いじめ自死遺族が県に要望” 朝日新聞DIGITAL (2021年11月27日)
- “「長崎市•高2いじめ自殺事件/自殺の隠蔽提案を追認した県を庇うメディアの責任” Tabsa (2023年8月3日)