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2016年(平成28年)9月12日午前7時頃、兵庫県の加古川市立神吉中学校の女子生徒(中学2年生•14歳)は、所属する剣道部などで同級生らから受けていたいじめを苦にして通学途中に自宅近くで自死を図って救急搬送され、8日後の9月20日に亡くなった。周囲でいじめがあり悩んでいることを示す内容が書かれた1枚の小さなメモ用紙が女子生徒の自宅から見つかった。
女子生徒が自死を図った直後に、学校は全教員や仲の良かった生徒1人から聞き取りをしたが、いじめは確認できなかったとした。いじめの存在を示すメモを部活動の顧問らがシュレッダーで破棄し、第三者委員会に「紛失した」と説明したり、女子生徒がいじめを訴えていた学校生活アンケートの存在を女子生徒の両親に秘密にしたり、複数の同級生から寄せられたいじめの証言を第三者委員会にも伝えないなど、学校側の隠蔽体質が明らかにされた。
2017年12月23日 第三者委員会は、いじめが自殺の原因だったと認定する調査結果を発表した。女子生徒がいじめを訴え、学校が把握する機会が何度もあったのに、何も対応しなかったことが自殺に繋がったと結論付けた。
2020年9月、女子生徒の両親は、適切な指導をしないまま加害生徒を高校に推薦した学校や市教委の対応に深い不信感を抱き、和解案も市側に拒否され、「ずさんな教育現場を糾弾したい」として、加古川市を相手取り、約7700万円の損害賠償を求めて提訴した。
2025年5月26日、市は不適切だった対応を遺族に謝罪し、解決金300万円を支払う方向で和解が成立する見通しとなった。遺族側も和解案を受け入れる方向とみられる。
事件の経緯 (調査委員会報告書より)
女子生徒は、小学5年生の時に本人の嫌がるあだ名を付けられ、入学した中学でもあだ名は浸透し、クラス内や部活動で無視や仲間外れ、嫌がるあだ名で呼ばれるなどのいじめを受けた。1年生の2学期、部活動で一緒にいじめられていた別の生徒の保護者がいじめを訴えたが、顧問は生徒同士のトラブル(けんか)と判断し、教職員間で共有されなかった。
1年生の3学期頃からいじめがさらに激化し、あからさまに無視され、「ミジンコ以下」と書かれた紙を渡されたり、「死ね」などと書かれたメモが回ってきたり、LINE(ライン)に写真を掲載されたりした。女子生徒のカレンダーやスケジュール帳には、「自殺予定日」「死んでもいいかな」という言葉が残されていた。
クラス替え後の2年になっても、いじめは続き、発言力のあるグループが、女子生徒に話し掛けた生徒に嫌がらせをするなどして、女子生徒を軽視してもよいという雰囲気ができあがり、女子生徒はますます孤立を深めた。
女子生徒は1年の3学期頃から、担任に提出するノートに「しんどい」「だるい」「食欲ない」などと度々記入していたが、担任はいじめの認識について、第三者委員会の聞き取りに「分からない。聞いたことがない」と回答した。
2年生の6月に実施された学校生活アンケートで、女子生徒は「陰口を言われている」「無視される」などの質問に「あてはまる」と回答し、「のびのびと生きている」「生活が楽しい」には「あてはまらない」と答えていた。判定結果は「要支援領域」で、教師らによる支援が必要な状況だったが、学年の教員間で支援について話し合った形跡はなく、担任は保護者にアンケート内容を明かさず、その後の保護者懇談会では学習面について提出物の遅れを指摘しただけだった。また、担任はいじめの認識について、第三者委員会の聞き取りに「からかわれていることを知らなかった」と説明し、ノートの書き込みについては真意を確認しないまま「部活や勉強のことだと思った」としている。
加古川市と加古川市教育委員会の対応
いじめを示すメモの破棄
2021年1月3日 女子生徒が自殺する約1年前の2015年11月に、いじめの存在を示すメモを部活動の顧問らがシュレッダーで破棄していたことが分かった。顧問らは経緯を調べた第三者委員会に「紛失した」と答えており、破棄したことを隠蔽しようとした可能性がある1。
この件について、第三者委員会に「紛失した」と説明していたことについて、市教委は「遺族と訴訟中のため答えられない」として事実関係を認めなかったが、報道で明るみに出た数日後の2021年1月7日、一転して「メモ破棄は調査済みで把握している」とのコメントを発表した。「生徒の死を重く受け止め、再発防止に引き続きご遺族と協力していきたい」とする一方、「法的責任は否定せざるを得ない」と強調した。岡田康裕市長も取材に対し「ご遺族に申し訳ない」と謝罪の言葉を繰り返したが、「メモの内容が隠されたという訳ではない。第三者の調査結果や処分に関わる大事なところではない」「破棄と紛失に大きな差はない」との認識を示した。
副顧問に命じて女子生徒へのいじめについて部員に記させたメモをシュレッダーにかけさせた剣道部の顧問教諭は、2019年2月に妻へのDV事件(夕方、加古川市内のドラッグストア駐車場で、乳児を抱いていた妻の肩をわし掴みにして前後に揺さぶった)で加古川署に逮捕されている。
顧問教諭の父親は、兵庫県内の市教委の幹部や中学校長などの要職を歴任し、県の教育功労者として表彰もされた、地元教育界の”大物”であるので、暴行で逮捕されたら普通は教員を続けられないと思われるが、顧問教諭は、学校を移りはしたものの、今も教鞭を執っている2。
証言の隠蔽
女子生徒がいじめを訴えていた学校生活アンケートの内容は、女子生徒の死後、すぐさま校長や市教委の職員に共有された。女子生徒の回答を見た時点で対策に生かしていれば最悪の事態を免れることができたが、アンケートの存在は女子生徒の自死の約1年後に第三者委員会からの調査の過程で知らされるまで遺族にも秘密にされていた。(女子生徒の父親は、「何度も説明の機会はあったはずだ。学校は『いじめを示す資料はない』としらを切り続けた」と憤っている。)
市教委は女子生徒の死を公表した2016年11月、学年主任は女子生徒の両親の元を訪れ、「ある生徒が謝りたいと言っている」「自分のせいかもしれない。もう本人に謝ることもできない」と苦しんでいると話した。両親は「真相解明にはあなたの勇気が必要だと伝えてください」と伝言を託した。当初、「いじめがあったと思っている」と話していた学年主任は、その直後から「犯人捜しが始まる可能性がある」「校長も立場があっていじめと言えない」「この話は内密に」と口外しないように念を押して立ち去った。(女子生徒の父親は、「教員はほぼ一様に口を閉ざした。口止めされているか、保身を図っているようだった」と振り返っている。)
一方、真相を求める遺族の思いに応えようと複数の同級生は、いじめの証言を寄せてくれていた。内容は教員にも話したが、学校に集まっていたはずの証言は隠蔽され、第三者委員会の報告書にはなかった。(女子生徒の父親は、「同級生が苦しみながら発してくれた訴えがこんな扱いなのか」と怒りを隠さない。勇気を振り絞った同級生の思いまで踏み躙られているように感じた。)
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
女子生徒の保護者が、自殺の原因にいじめ問題があるのではないかと考え、市教委に調査を求めた。
2016年11月18日 市教委は、いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」として、「市いじめ問題対策委員会」を設置した。いじめの有無や自殺との因果関係について調べる。
2016年12月26日 前年度までに実施されたいじめの有無や悩みに関する生徒アンケート(中1分)が保管されていないことが判明した。市教委は、「問題のある記述は教員が記録し、保存している。」「スペースが限られており、物理的に難しい」と釈明した。
調査委員
委員長:吉田圭吾(臨床心理士 神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授)
金綱知征(甲子園大学心理学部現代応用心理学科准教授)
曽我智史(弁護士 尼崎駅前法律事務所)
三木一子(社会福祉士 芦屋市スクールソーシャルワーカー)
渡邊敦司(児童精神科医師 兵庫県立ひょうごこころの医療センター)
調査補助員:藤田翔一(弁護士 SIN法律労務事務所)
清田美夏(弁護士 あじさい法律事務所)
報告書•その後
2017年12月23日 第三者委員会は、いじめが自殺の原因だったと認定する調査結果を発表した。女子生徒がいじめを訴え、学校が把握する機会が何度もあったのに、何も対応しなかったことが自殺につながったと結論付けた。
第三者委員会は、クラスの生徒間で序列ができる「スクールカースト」の構図が、いじめの背景にあったことを指摘した。担任ら学校側が、この構図の重要性を認識していなかったことが、女子生徒からのいじめの訴えを見過ごす要因だった可能性が高いとされた。
第三者委員会は「女子生徒の周囲にはからかう生徒や傍観する生徒ばかりで、手を差し伸べる生徒はほぼ皆無だった」と分析し、1年生の3学期で既に「いつ自死行為を実行しても不自然ではない状態まで追い込まれていた」と認定した。
部活の顧問が部内のいじめを「トラブル」として処理し、適切な対応を怠ったことについて、第三者委員会は「生徒に無力感を与え、その後も続いたいじめに対し、救いの声を出せなかった原因になった」と指摘した。
2017年12月23日 「本市中学校における重大事態の調査結果と再発防止の取組みについて」(PDF:186KB)
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2020年(令和2年)9月、女子生徒の両親が提示した和解案を市側に拒否され、女子生徒に対して2015年頃から部活動で悪口を言われるなど仲間外れが常態化し、顧問らが部員にいじめの内容をメモに書かせるなど調査をしたが「部員同士のトラブル」と判断してメモを破棄し、校長らへの報告も怠るなどの「ずさんな教育現場を糾弾したい」として、遺族が加古川市を相手取り、約7700万円の損害賠償を求めて神戸地裁姫路支部に提訴した。
第1回口頭弁論を前に、両親が提訴に至った思いを代理人を通じて発表された要旨
娘が私たちの前からいなくなってから4年経ちますが、遺族にとっては昨日のような出来事で、毎日いつもの調子で帰ってくるのではないかと錯覚さえする日々を送っております。
娘と交わした我が家にとってはほんのささやかな明るい未来の約束、それすらかなわなく置き去りになってしまった現実を胸に、自分自身の自責、加害者への恨み、教育委員会への憤りで一日が始まり一日が終わり悲壮感は尽きません。一歩進みたいが進めない。このような状況は想像できるでしょうか。
第三者委員会の答申後、私たちは関係者の協力で当時の教員と面談し、報告書の内容だけでは不明な経緯の確認作業と、教育委員会がとった行動に、遺族は深く傷つけられました。学校側の対応に納得するものは一つとして無かったのですが、市教委や学校に事実に向き合って教育の現場で再発防止を実現してほしいと願って、水面下で遺族側から和解策を提示し対話を試みました。しかし、教育委員会が最後まで法的責任はないという考えに固執したことによって、話し合いは決裂し訴訟に踏み込んだのが経緯であります。
この交渉過程でも教育委員会の誠意を感じることはありませんでした。娘の死を置き去りにしようとしている対応姿勢が続き一層怒りが募りました。和解策についても、本来は遺族から申し入れすることでなく、自ら組織としてどうすべきかと打診してくるのが筋ではないでしょうか。そうした姿勢に、娘の命を軽視しているとしか思えませんでした。
「遺族に寄り添う」という言葉を口にしますが、それはあまりに軽く、心に響くことはありませんでした。この訴訟は4年間、教育委員会と協議した果ての最終手段であり遺族の怒りだと理解してください。
出典:朝日新聞
一審(神戸地裁姫路支部)
2024年6月、同支部は和解を勧告し、協議を経て2025年4月17日、市教委や学校側の不適切な対応が遺族の心情を深く傷つけたことを謝罪する、市はいじめの再発防止に取り組む、市は解決金300万円を支払うーなどの和解案を提示し、同年5月26日、市は和解のための議案を公表した。遺族側も和解案を受け入れる方向とみられる。
和解案には、部活動の顧問がいじめを「グループ間のトラブル」として処理、部員らが書いたメモを廃棄し、いじめの事実を見過ごした▽学校生活アンケートで女子生徒がいじめをうかがわせる回答をしていたのに、本人に積極的に事情を聴かなかった▽同級生がいじめの存在を申告したが、第三者委が設置されるまで女子生徒の家族らに伝えていなかったーことなどを市が認めると記している。更に、市教委や学校の対応が遺族らの心情を傷つけたことに対するお詫び▽市が実施してきた「いじめ防止対策計画」などを継続し、取り組み状況を27年度まで生徒側に報告する▽市が解決金300万円を支払うーなどとしている。
同級生の不登校と転校
自死した女子生徒の同級生は、被害生徒に寄り添い、加害生徒に注意を促したが、いじめは止まず、守れなかったことを悔いて学校に通えなくなった。そのような同級生に対し、学校側は学年主任が個室で第三者委員会による調査の有無や被害生徒の両親とのやり取りを問い糺した。同級生が再び学校に通い始めると、教諭らが下駄箱で待ち伏せていたこともあり、教諭らの質問攻めに遭うことを恐れた同級生は学校への不信感を募らせ、不登校になり転校に追い込まれた。3
加害者のその後
女子生徒の両親は、第三者委員会の報告書を受け取る際、委員会のメンバーから「いじめ行為について12人の多くが自ら話すことはなく、聞き取りを最後まで拒んだ生徒もいる。」と口頭で伝えられた。両親の元には「いじめた人たちが『自分たちのせいではない』と言っていた」との同級生の証言も寄せられていた。
女子生徒の両親は、事件後も一貫して学校や教育委員会に12人の加害生徒に対する指導を求めてきた。要望を受けて市は加害者への指導計画を策定し、「自らの言葉で事案を振り返らせ、反省の気持ちを継続して持たせる」方針を両親に提示してきたが、その指導内容は遺族の納得とはほど遠かった。市教委に設置されている「少年愛護センター」の所長がまとめた「関係生徒、保護者説明及び指導概要に関する報告」は、指導日時をまとめた表を入れてA4用紙3枚分しかなく、指導は2017年12月~2018年2月に各生徒に1~3回行われただけで、「涙を流していた」「嫌な思いをさせたのかもしれないと話した」と指導時の様子が数行書かれている程度だった。中には「あだ名で呼んだことはない」と、いじめ行為を否定する言い分も含まれていた。
加害生徒らの卒業が間近に迫り、女子生徒の両親は「反省もないままに進学してしまうのではないか」と焦りを感じ、2018年3月に弁護士事務所で両親は関係教員や市教委職員に加害者が学校推薦を受けているか問いかけたが、その時に回答はなく、市教委側は年度が変わった4月になって推薦した事実を認めた。学校推薦は、スポーツなど特定の分野に優れている生徒を学校として進学先に推すことが多く、何よりもこれまでの学校生活から生徒の「人格が優れている」と認められることが前提であるが、市教委側は面談の場で「加害者だから推薦しないという基準はない」と伝えてきた。女子生徒の母親は「人を死に追い詰めた人をどうして推薦するの?」「どこまで私たちを苦しめたら気が済むの?」と話し、父親も「(加害者)本人のためにもよくないでしょう?」と堪らず諭したが、当時の校長は「中学を卒業したら終わりとは思っていない」と、この先も加害者への指導を続けるかのような発言をしたが、その後も学校側から更なる指導について何も報告はない。改めて2024年6月に取材を受けた市教委の担当者は、裁判で係争中であることを理由に「答えられない」とし、推薦については「具体的に誰とは答えられないが、総合的に判断して出す人には出したということです。」と答えた。(加害生徒の内、推薦入学で強豪校校に進学した生徒は、その後、実業団スポーツ選手として活躍した後、現在は退団している。)
女子生徒の死後、加害者に認定された12人の内、弔問に訪れたのは2人だけで、その2人も自身の行為について謝罪の言葉はなかった。女子生徒の両親の心理的負担を考慮して、代わりに担当弁護士が加害生徒に対して個別に面談を実施しているが、聞き取りできたのはわずか6人で、記録には「自分だけが悪いわけではない」と責任転嫁する姿勢も垣間見られた。
教育評論家の武田さち子氏によると、加害生徒が推薦で進学するケースについて「万引などの犯罪や有形の暴力の場合は推薦が取り消される可能性が高いが、言葉や態度による暴力は相当悪質でも許されてしまう現状がある」と指摘し、進学先にいじめの情報が伝わらなければ、加害生徒を注意する人がいなくなり、何のペナルティーも受けぬまま、自身の行為を反省する機会が失われてしまうと、同じことが繰り返されることにもなりかねず、「相手が死んでさえ、大したことはないという、いびつな成功体験になってしまう」として、「学校や行政が保身に走り、再発防止の取り組みに逆行している。学校や先生が反省しないままでは、子どもを反省させることは到底できない」と加古川市の一連の対応を厳しく批判している。4
関連資料
加古川中2 いじめ自殺問題 いじめメモ学校側がシュレッダーで破棄か
出典 : サンテレビニュース
参考資料
“いじめ報告書、公表されなかった真実 「娘は帰ってこない。せめて…」切なる思い” 47NEWS (2021年2月2日)
“兵庫県加古川市•市立中学校いじめ自殺” 地上の涙 他
- 「いじめ示すメモを破棄、隠蔽か 中2女子自殺で部活顧問ら、兵庫」 共同通信社 (2021年1月3日)
- “「加古川中2自殺、部活動顧問に「DVで逮捕」の過去 「いじめメモ」の証拠隠滅を指示」” デイリー新潮 (2021年2月4日)
- “中2女子いじめ自殺 同級生も不登校 教員の圧力感じ転校” 毎日新聞 (2021年2月9日)
- “加害者の今を知ってしまった…「娘の未来は絶たれたのに」中2いじめ、遺族の憤りと煩悶 学校推薦で高校進学、実業団選手に。謝罪はないまま” 47NEWS (2024年6月28日)