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2022年(令和4年)1月9日、熊本県立大津(おおづ)高等学校のサッカー部で、1年生の男子生徒が全国高校サッカー選手権大会の応援のため宿泊していた東京都内の宿泊施設で、複数の上級生や同級生から「先輩にあだ名を付けた」と疑われ、上級生の1人から「あだ名言ったんだけん、土下座するのが普通やろ」などと土下座での謝罪を強要され、もう1人の上級生からも「全裸になれよ」などと同級生や先輩の前で全裸で土下座をするよう強要された上、その上級生から指示された他の部員にその様子をスマートフォンで撮影された。
男子生徒は大会終了後、同級生から「裸にされたんだって」と声を掛けられ、映像がどこまで広がっているか分からないと精神的に不安定な状態となり、学校に通えなくなり転校を余儀なくされた。
2025年10月31日、調査委員会は複数の証言などからいじめの事実を認定した。
事件の経緯
2022年1月9日、男子生徒は全国高校選手権に出場中のチームの応援に同行し、宿泊施設で、複数の上級生や同級生から「先輩にあだ名を付けた」と疑われ、上級生の1人から「あだ名言ったんだけん、土下座するのが普通やろ」などと土下座での謝罪を強要され、もう1人の上級生からも「全裸になれよ」などと同級生や先輩の前で全裸で土下座をするよう強要された上、その上級生から指示された他の部員にその様子をスマートフォンで撮影された。当時、サッカー部は準優勝した全国大会に出場中だった。
2023年7月、男子生徒は担任に「先輩にあだ名を付けたと疑われ、謝罪を強要された。全裸で土下座し、写真に撮られた」などと相談して発覚した。学校は聞き取りを進めるなど事実関係を調査する一方、県教委に報告しなかった。
9月上旬、男子生徒の保護者から県教委に相談があり、県教委は事態を把握した。
9月29日、学校側は「生徒が心身に苦痛を感じるいじめがあった」と県教委に報告した。
10月3日、県教委は定例会で、当該事件をいじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」に認定したと発表した。今後、有識者ら第三者による調査委員会を設置するとした。同日夕、学校は保護者向けに説明会を開いた。
10月4日、学校は生徒集会で説明した。
西野俊一郎副校長は取材に「重大事態を起こし、大変重く受け止めています。当該生徒や家族に苦しい思い、苦痛を与え、申し訳ありませんでした。深くお詫びしたいと思います。調査に協力していく」と話した。一方、「サッカー部の中で起こりました事案ですけれども、学校としてはその生徒たちの活動に制約をかける考えはない」として、部活動を継続するとの考えを強調し、現時点で「休止や大会辞退は考えていない」とした。
被害を受けた男子生徒は10月3日に保護者と共に取材に応じ、「(学校側が)後回し後回しというか大ごとにならないように、どこから見てもそう思えるような対応だったので、腹立つというか納得していないのが本音。」「実際のところ(同級生も)加担して写真を撮っていますし、こういう事実があっても、そういう方向で行くのであればやっぱり呆れてしまう」「辛い思いをする人が自分が最後であってほしい…」「第三者委員会で学校側の対応に問題がなかったか、きちんと調べてほしい」と話した。
10月5日 同校の高野寛美校長とサッカー部の平岡和徳総監督らは連盟で報道各社に「生徒の心のサインに気づけず、本人に寄り添えなかったこと、深くお詫び申し上げます。部全体でリスペクト精神を徹底し、再発防止に誠心誠意務めていく所存です」とのコメントを発表したが、学校側が男子生徒に謝罪したかについては、コメントしていない。また、学校は学習用タブレットを使っていじめの訴えなどを書き込める相談システムを作り、10月5日からサッカー部を対象に運用を始め、来週中にも対象を全校生徒に広げ、他にいじめがないか把握したいとしている。
男子生徒は「サッカー部の活動を一旦停止し、向き合ってほしい」と訴えているが、学校側は加害の中心となった生徒が既に卒業していることから活動を継続するとの考えを示している。これについて教育評論家の尾木直樹法政大学名誉教授は、「これは完全に隠蔽体質を露呈したと思います」とし、被害を訴える生徒側が担任に相談してから1ヵ月以上、学校は県教委に報告せず、問題発覚後も学校は記者会見を開くなど外部に説明せず、サッカー部の活動を続けていることについても、「おかしいですね。あり得ないです、この感覚。一旦(活動を)止めて、総括を徹底的にやることですね。それがないところで、ずるずるやっているというのは、同じことを高い比率で繰り返す可能性がありますね」「なぜこんなことになったのか」を深掘りしないと再出発できないと指摘し、今後熊本県教委が第三者委員会を設置してこの問題を調査することについて、調査のポイントとして、サッカー部の体質にメスを入れることと、加害者が卒業していても反省できるところまで指導すること、再発防止策の明示が不可欠であると話している。1
- 事件の発覚と活動自粛:2023年10月、いじめの事実が明らかとなり、学校側はサッカー部の活動を同月7日から自粛した。
- 調査と再発防止策:学校は部員全員(約230人)への聞き取り調査を実施し、新たに容姿を揶揄ういじめが1件確認された。これを受けて、いじめ防止のための取り組みが開始された。
- 活動再開:再発防止策の開始などを踏まえ、サッカー部は2023年10月23日から活動を再開し、全国高校サッカー選手権の熊本県大会にも出場した。
関係者の処分
事件を受けて、平岡和徳総監督は指導を自粛し、宮﨑祐介氏が新たに監督に就任した。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
熊本県教育委員会は、本件をいじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」と認定し、第三者委員会を設置して詳細な調査を進めた。
2024年3月から、被害生徒、保護者、その他の生徒、校長、教員など20人から聞き取り調査を実施した。
調査委員
委員長:原村憲司弁護士
委員:飯田喜親弁護士
松永美弥社会福祉士
青木加奈子公認心理師
調査報告書•その後
2025年10月31日、原因や経緯に関する調査結果が公表された。
高校とサッカー部の相談態勢が不十分だったとし、指導者がいじめの知識や対応技能を習得する機会が十分ではなかったと指摘した。
調査の経緯と概要
事案の発生
被害生徒は2021年4月に大津高校サッカー部に入部。その年の12月28日から翌年1月10日にかけて行われた全国高等学校サッカー選手権大会への出場に伴う、応援団の宿泊先で発生した。
いじめ行為の内容
被害生徒は宿泊所で同級生の部屋に呼ばれ、上級生(2年生)から「先輩のあだ名を付けたこと」を疑われた。被害生徒は身に覚えがなかったが、馬を収めるため謝罪に応じ土下座しようとしたところ、さらに全裸になるよう求められ、意に反して全裸で土下座をさせられた。その様子がスマートフォンで撮影された。
事案の認知
被害生徒は、この出来事について、約1年半後の2023年7月下旬に学級担任に相談。大津高校は調査の結果、いじめの重大事態であると判断し、9月末に教育委員会へ報告した。
いじめ行為の認定
調査委員会は、被害生徒が上級生から指示されて複数の生徒がいる前で裸になって土下座させられた行為は、心身に重大な被害が生じると考えられるため、いじめ防止対策推進法上の重大事態に該当すると認定した。
サッカー部における「いじり」と指導者の認識
日常的な「いじり」
当時、サッカー部では、容姿などに由来するあだ名をつける、サッカーのプレーの失敗を茶化す、一発芸を求めるなどの「いじり」と呼ばれる行為が日常的にあった。被害生徒も1年生の時に「いじり」を受けていた。
指導者の対応
サッカー部の指導者(監督、コーチなど)は、部員間に「いじり」があることは認識していたが、「いじり」自体は特に問題視していなかった。指導者は「過度のいじり」を認知したときに都度注意•指導をしていたが、「過度」と認識しない日常的な「いじり」については、状況把握や発展防止のための対応をとっていなかった。
「いじり」からいじめへ
「いじり」は、対象となった生徒の感情への配慮に欠けたまま行われており、日常的に繰り返されることで、いじめを行う側が受ける側への配慮を欠く状況を醸成し、今回のいじめの遠因ないし原因となった可能性が否定できない。
大津高校独特の特性(いじめのリスク要因)
サッカー部の特殊性
• 大津高校サッカー部は全国的に認知された強豪校であり、全国大会での活躍を夢見て多くの生徒が入部する。
• 実際に全国大会の場で活躍できる選手は一部に限られていて、夢を実現できない状況にある生徒が多数存在する。
• このような状況は、悩みを抱えた生徒が多い一方で、はけ口を求めて他の生徒へのいじめなどに走る生徒が現れることが容易に予想され、いじめが発生しやすい状況にある。
• 部員数は2021年度で176人、2022年度以降は200人を超えていて、対人関係のとり方が苦手、他者の感情を理解できないなど、様々な個性や特性を持った部員が一定数所属していた可能性は否定できない。
高校全体の特性
大津高校は、全校生徒にサッカー部員が占める割合が高い(2021年度で26.6%)ことから、高校全体としてもいじめが発生するリスクの高い集団だといえる。
調査委員会による提言(主な再発防止策)
集団の特性を踏まえた対応
サッカー部及び高校全体が「いじめが発生するリスクの高い集団」であることを認識し、集団の特色に応じた具体的な工夫をすること。
生徒の特性を意識した指導
生徒の特性に対する知識や対応スキルを身に付けるため、心理学等の専門知識を踏まえた指導者研修を継続的に実施すること。
早期の情報獲得体制
いじめの情報を早期に獲得できるよう、生徒全員のタブレットを利用した匿名相談ツールなど、一般的な対策に留まらない新たな方策を継続的に検証すること。
いじめ予防教育の強化
「いじめを許さない」という考えやいじめの知識が生徒間に浸透するよう予防教育を強化し、申告者•被害者に不利益が及ばない体制を構築すること。
サッカー部の状況の事前情報提供
入部前に、A•B•Cチームの練習内容の違いや寮の入居制限など、サッカー部のありのままの情報(良い情報だけでなく)を正確に伝えること。
被害者の男子生徒は、当時「いじり」がサッカー部にあり、指導者は認識しながら問題視せず「過度のいじり」だけ注意していたと第三者委員会が調査結果に書かれていたが、指導者の日常的な言動に踏み込んだ提言をしておらず「納得できない」と批判した。同時に「(上級生の嫌がらせを放置した)指導者がかわらなければ環境は変わらない」と効果を疑問視した。男子生徒は被害を受け下痢や嘔吐の症状が続いていたが、それでも上級生の報復を恐れ、家族にも打ち明けられなかった。約2か月ぶりに登校すると、監督に「おまえ生きとったんか」と言われたが、「サッカーのため」と思い耐えた。
男子生徒は記者会見で「謝罪はいただいたが、謝罪で済まされるものではない。(対策が)本当に学校に浸透するか、今後を見ていきたい」とし、「母に(被害を)告白するまで、将来の安定を考えて言うのをやめるべきか、話して正面から向き合うのか、ずっと悩んできた。今も悩んでいます。そして、どっちに転んでも自分の生きたい生活は送れていない」と話している。
報告書を受けた大津高校は「長期間にわたり、元生徒、家族の皆様に大変辛い思いを強いることになったことを学校として心よりお詫び申し上げる。今後、いじめのない学校作りを改めて検討して進めていきたい」としている。
また、サッカー部の監督は「未然防止ができなかったことや、寄り添うことができなかったことについて、深く反省している。今後、いじめを許さず、1人1人をより大切にするような活動を目指して活動していく」とコメントしている。
刑事裁判
熊本県警は、当時の上級生2人を強要の容疑で書類送検した。
2024年8月、熊本地方検察庁は、当時2年生だった元男子部員2人を強要罪で在宅起訴した。
一審(熊本地裁)
2024年11月1日に初公判が開かれ、検察側は冒頭陳述で、2年生の部員たちは1年生たちに一発芸を要求するなど、上級生の立場を利用して、理不尽な行動や粗暴な行為があったと指摘した。加害生徒らは「全裸と土下座は強要していない」と起訴内容を全面的に否認し、無罪を主張した。
被害を受けた元男子部員は、裁判を通じて加害者が自身の行為に気付き、真摯な謝罪をすることを望んでいると述べている。
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2024年11月、被害を受けた元男子部員は、精神的苦痛や転校を余儀なくされたことなどを理由に、元上級生2人に対して計440万円の損害賠償を求めて熊本地方裁判所に提訴した。
一審(熊本地裁)
2024年12月4日に第1回口頭弁論が開かれ、被告の1人は争う姿勢を示し、もう1人は弁護士が決まっていないとして態度を示さなかった。
次回の口頭弁論は2025年1月24日に予定されている。
事件の背景
サッカー部は1972年創部で、2023年度当初の部員数は230人。全国高等学校サッカー選手権大会を始めとする全国大会の常連であり、九州の強豪の一角である。平岡和徳監督は昭和58年度全国高等学校サッカー選手権大会優勝校帝京高校の主将だった。2021年度第100回全国高等学校サッカー選手権大会準優勝校。2022年度大会もベスト4入りしている。高校年代最高峰の高円宮U-18プレミアリーグ西地区に所属する名門。
参考資料
“大津高サッカー部いじめ、土下座での謝罪要求や裸になるよう強要…上級生2人に440万円賠償求め提訴” 讀賣新聞 (2024年11月30日) 他