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2016年(平成28年)11月21日、新潟県立新潟工業高等学校の男子生徒(高校1年生•15歳)は、複数の生徒から「うざい」などと悪口を言われたり、映画のキャラクター名の不愉快なあだ名で呼ばれたり、同じクラスの生徒でつくるLINEのグループ内では、本人が知らない間に、キャラクターと男子生徒の写真を合成した画像を投稿され、他のクラスの生徒にも拡散されるなどのいじめを受けたことを苦にして、列車に飛び込み自死した。
生徒の自宅から「生き地獄のような毎日でした」「本当はもっと生きたかったけど、もう生きていける気がしない」などといじめを仄めかす遺書が見つかった。
生徒は9月中旬からいじめを受けていると計3回、担任に相談していた。学校が加害生徒に確認したところ、いじめを認めたため、指導したという。学校は保護者や県教育委員会に報告していなかった。亡くなった後の調査で、LINEで男子生徒を除いたクラスのメンバーを中心としたグループで中傷するような投稿もあったことが判明した。
2018年9月11日 第三者委員会は、2016年9月以降、男子生徒が一部の生徒から不愉快なあだ名で呼ばれたり、同年11月に掛けて無料通信アプリ「LINE」に中傷する画像が投稿されたりするいじめがあったと認定した。男子生徒は10月末から11月中旬までに3回担任に相談したが、情報が一部の教諭に留まっていた他、保護者に報告せず、関係生徒からの聞き取りも適切でなかったことなどを挙げ、対応が不十分だったと指摘した。
第三者委は、男子生徒がネットで自殺方法を検索したのが3回目の相談の2日後だったことなどから、「孤立感を救ってほしいという担任教諭への期待が裏切られたことが、自殺の決行に最も影響を与えた」と結論付けた。
事件の経緯
男子生徒は小学4年生の時に新潟市内に引っ越した。引っ越してすぐの時は落ち着きが無かったが、友達ができて安定した。男子生徒は「人の悪口を言うのを一度も聞いたことがないような優しい子(父親談)」で、中学校まではいじめや大きなトラブルは無く、不登校になったことも無かった。
2016年4月に男子生徒は新潟県立新潟工業高校に入学した。夏休みまでは特にトラブルも無く過ごしていたが、2学期からいじめを受けるようになった。9月頃に学校行事の工場見学が行われ、その時のバスの車内でいじめの主犯となる生徒が不快なあだ名を考えて使うようになった。
9月18日の夜、いじめの主犯がLINEでバスの中で撮影した写真が投稿された。授業中にも受け狙いであだ名を言われるようになり、クラスの3分の1にまで広がった。10月2日には主犯が合成させた写真をLINEに投稿したが、男子生徒は投稿されていたことを知らなかった。当時の高校はネットのトラブルには関心が無く、ソーシャルメディアに関する講習会が行われるようになったのは事件が起きてからである。
10月27日の放課後に、男子生徒は他の生徒に暴言を言われたために担任教諭に相談していた。担任教諭は何かあったら来週に申し出るように言って、加害生徒からの聞き取りを行わなかった。
10月30日 男子生徒はいじめられていることを訴える手紙を書き、11月1日の午前8時半頃に手紙を担任教諭に手渡した。担任教諭はその日の昼休みに加害生徒から聞き取りを行い、その日の午後3時過ぎに加害生徒への指導を行ったが、その後も男子生徒はあだ名で呼ばれ続けた。男子生徒は11月11日にも担任教諭にいじめられていることを相談したが、加害生徒が認めなかったために、加害生徒に一般的な指導を行っただけだった。
11月13日 男子生徒はインターネットで自殺に関する情報を集めた。
11月21日午前5時20分頃、男子生徒はJR越後線新潟大学-寺尾駅間で新潟発吉田行き普通列車(2両編成)に撥ねられ、頭などを強く打ち、脳挫傷のために死亡した。
自死のおよそ30分前に男子生徒はLINEで別の高校に通う親友の生徒に対し、「これから死のうと思う。お前はもっとちゃんと生きてからこっちに来いよ。仲良くしてくれてありがとう」とメッセージを送っていた。
男子生徒の遺書
今の自分はあやまろうにもあやまりきれません。本当にごめんなさい。自分はもう2カ月前から命を断とうと考えていました。(中略)とても悲しくなり毎日一人でいる時涙を流して嘆いていましたが、家では悲しいことを極力思い出したくなかったので家でも相談せず、自分で何とかするべきだと思い先生にも言いませんでした。そのことで思い悩み気が沈んでいる所に1カ月前から学校で言葉による虐めを受けました。とても悲しく悔しかったので、このことは先生に相談しました。10月中に相談した方は良くなりましたが、11月に入ってから相談した方は、何の解決にもなりませんでした。自分のクラスの一部に留まらず見ず知らずの他クラスの人にも言われたりしました。もうずっと何週間も学校にいるだけで時々泣きたくなり寝るフリをして涙を流していました。9月中旬から今に至るまでの平日は生き地獄のような毎日でした。もう生きたくないです。学校で部活があったり土日時々遠くにいる友達と遊んだりと楽しいこともあったのですが自分にはもう耐えられません。本当はもっと生きたかったけどもう生きていける気がしません。(後略)
11月22日 学校は全校集会を開き、男子生徒の死亡と、男子生徒からいじめの相談を受けていたことを生徒に伝えた。
2017年1月15日 男子生徒が担任に名前を挙げた3人の生徒と保護者は、高校で個別に男子生徒の遺族と面会した。校長や担任らも同席した。加害生徒は、男子生徒を嫌がるあだ名で呼んだことや暴言を言ったことと、SNSで男子生徒を中傷する画像の拡散に加担したことなどを認め、謝罪した。(新潟県3号案件)
県教委は「新潟県いじめ防止等に関する委員会」を設置し、SNSの適切な利用への取り組みの強化や、SNSでのトラブルの対処をするマニュアルの策定や、SNSのガイドラインを生徒と話し合いながら決めることを提言した。
2018年12月13日 新潟県議会の委員会に男子生徒の父親が出席し、意見陳述を行い、関係者の懲戒処分や、いじめに対する新潟県独自の条例の制定を求めた。新潟県の対応について、いじめに対する理解不足で被害者や遺族に対する配慮の無さが深刻であると批判した。
2019年6月27日 新潟県議会で男子生徒の遺族が口頭陳述を行い、いじめに関する条例の早期制定を訴えた。具体的には責任や罪の重さや責任、処分の基準を明確にして、通報した者の安全を保護する仕組みを求めた。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2016年12月 第三者委員会を設置した。
常設の「新潟県いじめ防止対策等に関する委員会」(第三者調査委員会)部会
調査委員
氏名公表10名
会長:梅野正信上越大学大学院学校教育研究科教授
職務代理者:青山雅子佐潟荘(医療法人水明会)精神科医師
委員:伊藤真理子新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科准教授(臨床心理士)
武井恒美新潟医療福祉大学社会福祉学部社会福祉学科特任教授(社会福祉士)
足立定夫弁護士(新潟中央法律事務所)
川上克(まさる)新潟県高等学校PTA連合会会長
臨時委員:折目直樹新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野医師
浅田剛正(たかまさ)新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科准教授(臨床心理士)
岩淵浩(ひろし)弁護士(岩淵浩法律事務所)
吉田金豊(きんぽう)新潟県立巻高等学校PTA会長
調査報告書•その後
2018年9月11日 報告書を提出した。
2016年9月以降、男子生徒が一部の生徒から不愉快なあだ名で呼ばれたり、同年11月に掛けて無料通信アプリ「LINE」に中傷する画像が投稿されたりするいじめがあったと認定した。男子生徒は10月末から11月中旬までに3回担任に相談したが、情報が一部の教諭に留まっていた他、保護者に報告せず、関係生徒からの聞き取りも適切でなかったことなどを挙げ、対応が不十分だったと指摘した。
第三者委は、男子生徒がネットで自殺方法を検索したのが3回目の相談の2日後だったことなどから、「孤立感を救ってほしいという担任教諭への期待が裏切られたことが、自殺の決行に最も影響を与えた」と結論付けた。
提言として、いじめを把握した場合の丁寧な聞き取りや学校と県教委、保護者間の連携強化の他、会員制交流サイト(SNS)の適正利用に向けた取り組みの強化などを求めた。
関係者の処分
2018年11月14日 県教委は、男子生徒の担任だった男性教諭(30歳代)を減給10分の1(3か月)、既に定年退職した当時の校長は減給3か月相当と判断し、減給分の寄付を要請した。当時の教頭と副校長と生徒指導副部長は減給処分、当時の生徒指導部長の男性教諭(40歳代)ら2人を口頭訓戒処分、遺族への対応が不十分で管理監督責任があったなどの理由で教育長ら当時の県教委側の4人も文書訓告や厳重注意の処分とした。
県教委は担任の処分理由について、生徒から3回相談を受けていたのに調査が不十分で、管理職に報告を怠ったなどとした。
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2019年11月14日 男子生徒の遺族と弁護士は、新潟市内で記者会見を行い、新潟県に対して損害賠償を請求する裁判を起こしたことを報告した。高校の教員らが安全配慮義務を怠り、生徒のいじめの訴えに適切に対応せず、生徒が自殺に至った責任を追及した。父親は責任を取るべき者が責任を取らず、新潟県は話を聞くのみであり、遺族の気持ちを蔑ろにしていると語った。
和解
証人尋問の際に校長が裁判長から、生徒から担任に3回目の相談された際にどんな対応が行われると想定していたかを聞かれた際に、校長はよく分かりませんとして、些細なことも報告して欲しかったと回答した。報告が無かった理由は、担任は本人に関わることではないと理解していた気がすると回答した。
法廷では生徒指導を行う教諭は、保護者への連絡は担任に任せて、その時にはアドバイスをできなかったと語った。校長は、自殺した本人が保護者への連絡を拒否したため、その段階では見守ることとしたと語った。しかし、校長の見守るという指示は、第三者委員会の報告書では確認できなかった。
2022年3月30日 男子生徒の遺族と新潟県の間で和解が成立した。新潟県は対応の不備を認め、新潟県立学校の校長は、年に1回はいじめ対策に関する研修を受講することとなった。
参考資料
“新潟県新潟市•県立新潟工業高校いじめ自殺” 地上の涙 他