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2018年(平成30年)1月27日未明、大阪市立中学校の男子生徒(中学1年生•12歳)は、「チビ」「メガネ」などと揶揄われたり、授業での雑用を押し付けられるなどのいじめを苦にして自宅マンションから飛び降り自死した。
担任教諭は、学校が実施した「いじめアンケート」に男子生徒からのいじめ被害の訴えが記されていたにも関わらず、「小学校時代の話」として扱って十分な聞き取りをせず、他の教職員との情報共有もしなかった。また、担任教諭は男子生徒に対して、「メガネつぶしたろか」と他の生徒の前で暴言を吐いて笑いものにするなどした。
2020年3月26日 第三者委員会は、「いじめは確認できていない」とした市教委の結論を覆し、同級生らによるいじめを認定し、学校でのいじめなどで精神的疲労を貯めたことで衝動的に自殺したと考えられるとして自殺との因果関係を認めた。学校側は生徒が発していたSOSを受け止めることができず、死後の対応も事故死を前提にするなど問題があったと指摘した。また、他の生徒の前で揶揄うなどした担任教諭の行為が、男子生徒が孤立する契機になったとも指摘した。
事件の経緯
2017年4月 男子生徒は同校に入学後、小柄な体格で幼少時から眼鏡を掛けていたことから、同級生は所属するクラブの上級生から「チビ」「メガネ」などと揶揄われるなどの行為を繰り返し受け、掛けていた眼鏡を奪い取られるなどの行為もあった。また、他の生徒から「上から目線」「いきっている」などの発言を受けたり、LINEによる中傷もあった。
同級生数名が男子生徒の持ち物の筆箱を取り上げ、キャッチボールのように筆箱を投げるということもあった。
同校では国語の授業で使用する国語辞典は教室の本棚に保管し、授業後には各自が本棚に返却するシステムを取っていたが、夏休み明け以降は複数の同級生が男子生徒に対して、クラス分の国語辞典を棚に戻すよう押し付け、生徒の机に勝手に置くなどの行為を繰り返した。
5月8日 学校が実施した「いじめアンケート」で、男子生徒は「いじめを受けた。持ち物を隠された。閉じ込められた」などと回答した。アンケートの内容を受けて担任教諭が聴き取りを行ったが、担任教諭は「いじめは小学校時代の話」として扱った。聴き取りの方法は、廊下での数分程度の立ち話だったという。また担任は、いじめの具体的な内容を聴き取らず、保護者や出身小学校への確認などもしなかった。また、アンケートの記載内容についても、他の教職員と共有しなかった。
7月 学校は選択肢に「当てはまる」「当てはまらない」の2択方式での「学校生活アンケート」を実施した。男子生徒は「仲間に入れてもらえないことがある」「陰口を言われているような気がする」「友だちにからかわれたり、バカにされることがある」「友だちにいやなことをされることがある」「友だちから無視されることがある」という問いに対して「当てはまる」と回答し、専用ソフトが「早急な支援が必要」と内容を解析したが、学校側が何らかの対応をしたような形跡は見当たらなかったという。
9月 担任教諭は自身が担当する社会科の授業で、「世界の国調べ」として、生徒が選んだ国について調べ、そのまとめを文化発表会で展示する課題を出した。しかし、男子生徒と他数名の生徒の発表については「氏名のみ」の展示となっていたという目撃情報が指摘された。学校側は「展示方法は教科担当に委ねた」「担任教諭はその後退職し、詳しい事情を聴けていない」などとして、この事案の経緯については不明としている。(大阪市教委の担当者は「このような展示方法には教育効果は疑問。生徒が晒し者にされて恥をかくような形になる」としている。)
10月30日 男子生徒は2017年5月頃より、体調不良を訴えて頻繁に保健室に来室していたが、男子生徒が「胸が痛い」と訴えて保健室に来室し、応対した養護教諭が「学校で嫌なことがあったのか」などと聞くと、男子生徒は涙を流しながら「ない」などと答えた。このことについて養護教諭は、担任や副担任には情報を伝えたものの、管理職には報告していなかった。養護教諭から情報を受けた副担任が事情を聴いたが、男子生徒は「何もない」などと発言した。この日以降、保健室への来室記録は途絶えている。
担任教諭は懇談会で、保護者に対して「いじめなどはない」などと話していた。
担任教諭は男子生徒に対して「メガネつぶしたろか」などと他の生徒の前で笑いものにするなど、男子生徒への「いじり」に加勢していた。
2018年1月22日 男子生徒は部活動で上級生にプロレス技を掛けられるなどの暴行を受けた。
1月27日未明 男子生徒は自宅マンションから転落死した。遺書などはなかったが、状況から飛び降り自死を図った可能性が高いと見られている。
男子生徒の自死直後、学校側は「警察が自殺と断定していないから、自殺前提での調査はできないと考えた」とした。
1月30日 別の生徒の名前を挙げて「今日もまたいじめられた」などと記したメモが男子生徒の自宅から発見された。当該メモの日付は2017年6月7日付となっていた。遺族が学校側にメモの存在を知らせ、学校側は関係生徒に事情を聞いたが、メモで記されていた件については具体的な事実認定には至らなかった。
2018年2月と3月の計3回に渡り、男子生徒宅に差出人不明の手紙が投函された。手紙は匿名ながら、内容からは同校の教職員だと窺わせるような形だった。2月9日に投函された1通目の手紙では「学校は都合のいいようにしか動いていない。こんな職場で働くのも辛い」などと記されていた。3月12日に投函された2通目の手紙では、「保護者が帰宅してすぐ、校長室から大笑いが聞こえた」などとする内容の文面が記され、校長らが保護者を笑いものにしているような会話とも受け取れる録音音声が入ったUSBメモリが同封されていた。3月19日に投函された3通目の手紙には、学級担任に関する内容が記されていた。
学校側は2018年3月16日頃まで、調査の文面に「自殺」と入れることを拒否し続けていたが、最終的には3月24日に「自殺」の文面を入れたアンケートを作成して実施した。(この調査では、男子生徒が「チビ」「メガネ」などと揶揄われていた、掛けていた眼鏡を奪われていたなどとする同級生からの証言が複数寄せられた。)
3月19日 男子生徒の自殺問題が大阪市会教育こども委員会で取り上げられ、また同日に大阪市教育委員会が概要を公表した。大阪市は市長部局に第三者委員会を設置して調査に当たる意向を示した。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2018年5月22日 市は遺族の意向を踏まえ、市長部局に執行機関の付属機関に関する条例第1条に基づく「児童等がその生命等に著しく重大な被害を受けた事案に関する第三者委員会(以下、第三者委員会)」に、新たな部会として、「平成30年大人事人第54号に関する部会」を設置した。
2018年5月29日 平成30年大人事人第54号に関する第1回部会開催(全37回開催)
調査委員
部会長:藤木邦顕弁護士
部会長代理:藤木秀行弁護士
(※部会長の藤木氏と代理の藤木氏には姻戚関係なし。偶然、名字が同じ。)
委員:川原稔久大阪府立大学教授
平井美幸大阪教育大学講師
専門委員:磯部晶子臨床心理士
清水周弁護士
林揚子弁護士
調査報告書•その後
2020年3月26日 報告書(全143頁)
調査委員会は、「チビ」「メガネ」「いきっている」などと言われる、持ち物を隠される、閉じ込められたりする、筆箱を投げられる、上級生からプロレス技を掛けられる、LINEで食事を奢るようにしつこく求められたり、返信をほとんどしてもらえなかったりする、などの行為をいじめと認定し、「精神的疲労が蓄積する中で、衝動的に自死を選んだ」といじめと自死の因果関係を認めた。
生徒は学級代表に立候補し、合唱コンクールで指揮者を務める一面もあったが、いじめで自尊感情を傷付けられ、次第にクラスや部活動で孤立感、無価値感を深め、自殺以外の解決策が思い浮かばなくなる「心理的視野狭窄」に陥ったとした。
また、7月の学校アンケートでは、友達からの無視や揶揄いについて「あてはまる」と回答し、専用ソフトが「早急な支援が必要」と内容を解析したが、学級担任が教育相談などに利用した形跡はなかった。
保健室を頻繁に訪れ、涙を流したこともあったが、副担任には「何もない」と答え、保護者や校長に情報が伝わらなかった。
学校側の対応についても、「いじめを前提とした対応になっていなかった」ことと、担任教諭が「大声で怒鳴る」「突き飛ばす」など威圧的な指導を繰り返していたことから相談できない雰囲気になっていたなどと指摘した。
また、「警察が自殺を前提に捜査中と知りながら、調査や遺族への対応が、事故死を前提とした恣意的なものであった可能性を否定しきれない」と指摘した。
また、校長の保管の指示にも関わらず、学級日誌が廃棄されたり、亡くなった生徒のアンケート結果が削除(第三者委調査で復元)されたりしていたといい、「廃棄が意図的である可能性を考えざるを得ない」と批判した。
2020年3月26日 「大阪市立中学校生徒のいじめ申立に関する調査報告書」(PDF:1MB)
関係者の処分
大阪市教育委員会は2020年9月10日付で、「いじめに関して不適切対応を行った」として関係教職員4人への処分を行った。
いじめへの対応が不十分だっただけでなく、自身も自死した生徒への暴言があったことが指摘された当時の担任教諭については、2018年5月に依願退職していることから「文書訓告相当」とした。また、校内の情報共有や事案発生後の遺族対応が不十分だったとして、当時の校長を文書訓告処分とした。学年主任を口頭注意、市教委事務局の担当課長を事務局指導の処分とした。