大津市立皇子山中学生自死事件

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2011年(平成23年)10月11日午前8時頃、大津市立皇子山中学校の男子生徒Aさん(中学2年生•13歳)は、約1ヵ月間に渡って同級生B,C,Dの3人から腕で首を絞められたり殴られるなどの暴行を受けたり、校舎の3階の窓から身を乗り出させて自殺の練習を複数回にわたってさせられたり、蜂の死骸やゴミ•紙などの異物を無理矢理食べさせられようとしたり、金品を恐喝されることなどを苦にして、自宅マンションの14階から飛び降り自死した。

Aさんの死後も加害者らはAさんの顔写真に穴を開けたり、落書きをしたり、Aさんについて「死んでくれて嬉しい。でももう少しスリルを味わいたかった。」などと話していた。

担任の教諭は、いじめの様子を目撃しながら「あまりやりすぎるなよ」とへらへら笑って声を掛けるだけで何もしなかった。また、教諭はAさんがいじめ被害を相談した際、「どうでもいい」「君が我慢すれば丸く収まる」と発言して放置した。

学校はAさんが自死する6日前に「生徒がいじめを受けている」との報告を受けて担任の教諭らが対応を検討していたが、Aさんの死後、学校と教育委員会は、担任を含めて誰もいじめの事態に気付いていなかった、知らなかったと主張した。事件を隠蔽していた理由として、担任教諭は当時はいじめではなく喧嘩と認識していたと説明した。

大津市教育委員会と加害生徒の保護者は、Aさんの自死の原因はいじめではなく家庭環境が原因であると主張した。また、地上波の情報番組でAさんの死因が父親による殺人であると指摘されるなど遺族に対する誹謗中傷は後を絶たなかった1

2015年3月17日 Aさんの遺族が提訴した民事損害賠償請求訴訟で、当初争う姿勢を示していた大津市側は、事実関係が明らかになると態度を変え、「いじめが自殺の原因である」と認め、見舞金2800万円に加えて和解金1300万円を支払った。

2020年2月27日 大阪高裁は、「いじめが自殺の原因である」と認定し、計3758万円の損害賠償を認めた一審判決を覆し、いじめの事実は引き続き認定しながらも、「自殺は自らの意思による」とし、「両親側も家庭環境を整え、いじめを受けている子を精神的に支えることができなかった」などとして過失相殺を認め、計400万円が相当とした。(確定)

この事件は、いじめ防止対策推進法が制定されるきっかけとなった。

事件の経緯

(茶色の文字は、学校と教育委員会の対応です。)
(紫色の文字は、滋賀県警の対応です。)

2011年10月11日午前8時20分頃、滋賀県大津市内の14階建てマンションの敷地内で、Aさんは自宅マンションから飛び降り自死した。他の住民からの連絡で現場に行った管理人の男性が、Aさんが仰向けに倒れているのを発見し、すぐに119番通報し、心臓マッサージをしたが既に意識はなかった。Aさんは大津市内の病院に搬送されたが、間もなく死亡が確認された。最上階の通路にある高さ約110cmの手摺を乗り越えたような跡があり、近くにスポーツバックが置かれていたという。

10月12日 Aさんの死後、B,C,Dの3人は「遺体の一部でも落ちてへんかな」などと現場を徘徊した。同級生が「◯◯(Aさんの名前)が自殺したのはお前らのせいや」と問い詰めると、「何で俺らのせいなん。どうでもいいわ」と吐き捨てていた。

10月17-19日 市教委は全校生徒859人を対象に文書によるアンケート調査を任意で実施した。約8割の生徒が回答し、いじめに関する情報は300件以上集まった。この中に、「男子生徒に『おまえの家族全員死ね』と怒りながら言っていた」「体育大会で集団リンチのようなものに遭っていた」「(いじめたとされる同級生が)亡くなる2週間前に殴ったり頭をふんだりしていた」など、Aさんに対していじめが行われていたとの具体的な回答も目立ったため、生徒たちに直接聞き取りを始めた。

その結果、Aさんが死亡の約1ヵ月前から「生徒が自殺の練習をさせられていた」「ハチの死骸やゴミ•紙など異物を無理やり食べさせられようとしていた」「金品を恐喝されていた」「同級生数人に殴られていた」「ズボンをずらされたりしていた」「腕で首を絞められていた」「昼食のパンを食べられていた」「生徒の死後、教室に掲示された生徒の顔写真が、画鋲で穴を開けられたり落書きをされていた」「万引きを強要されていた」「葬式ごっこがあった」「(いじめたとされる同級生が)あざができたら先生にばれないように伏せさせた」「(Aさんが)万引きをしたくないからお金を渡していたと聞いた」「屋上への階段で縛られていた」「(Aさんが)『じゃあ天国行ってきてあげるわ』と言っていた」などのいじめ行為があったことが判明した。「加害者が被害者について『死んでくれてうれしい。でももう少しスリルを味わいたかった』と話していたのを聞いた」「(加害者とされる生徒が)「『まだやることがあったのに』『何や、死んだんか』という発言をしたらしい」という情報もあった。しかし、学校側は「確認できない」などとして、調査結果も公表しなかった。また、加害少年は、このアンケートに「死んだって聞いて笑った」「死んでくれて嬉しい」などと回答している。また、Aさんは加害生徒に、「ぼく死にます」と電話していたという。

このアンケート調査で複数の生徒が、Aさんが加害者とされる生徒に「自殺の練習をさせられていた」と回答した。市教委によると、「自殺の練習」については16人が証言し、この内記名で書いた4人を中心に話を聞いたが、直接見聞きしたわけではないことが分かり、「事実とは確認できない」と判断した。「自殺の練習をさせられていた」との回答については、市教委は公表せず、調査も約3週間で打ち切っていた。調査を打ち切った理由について、越直美市長は「生徒の間に不安が広がり、保護者から『もう聞かないでくれ』と言われた、と市教委に聞いている」と説明した。市教委は讀賣新聞の取材に対し、「事実確認は可能な範囲でしたつもりだが、いじめた側にも人権があり、教育的配慮が必要と考えた。『自殺の練習』を問いただせば、当事者の生徒や保護者に『いじめを疑っているのか』と不信感を抱かれるかもしれない、との判断もあった」と説明した。結局、事実が掴めなかったとして非公表にしたという。

同級生の生徒の1人は、「自殺した生徒が教科書をびりびりに破られたり、死んだハチを食べさせられているのを見たことがある。担任の先生が『大丈夫か』と聞くと、自殺した生徒が『大丈夫です』と答えていたので、先生は安心したのか、あとは見て見ぬふりをしていたが、自分はいじめだと思っていた。殴る蹴るの暴力も受けていて、毎日あざだらけで、目の下がすごい腫れていた」と話している。
自死の3日前には自宅を荒らされたとの証言もあり、自宅を訪れた同級生らに、自分の部屋の外で数を数えて待つように言われ、部屋に戻ると室内が荒らされており、財布などが無くなっていたという。
また、複数の生徒が、Aさんが同級生から金を脅し取られていたと回答しており、「同級生が男子生徒を脅して銀行の口座番号を聞き出し、金を取っていた」「銀行の番号を無理やり言わせて遊ぶためにお金を使っていた」と書かれていたという。教育委員会は「同級生から自殺の練習をさせられていた」という回答と同様、同級生らに事実関係を確認しておらず、「聞き取りを拒否され、結果として確認できなかった」とした。
また、自死直前にAさんが、いじめた同級生らに「死にます」とメールしたり電話したりしていた、とアンケートで生徒7人が回答していた。7人は「男子生徒が自殺の練習をさせられていた」と回答した16人とは別の生徒たちだった。いずれも伝聞情報で、ある生徒は「いじめていた人に、死ぬという内容のメールを送ったらしい」と回答した。「『もうおれ死ぬわ』とメールすると、(いじめた同級生の1人は)『死ねばいいやん』と返信した」「前日に電話で『死ぬ』と伝えたらしい」などの記載もあった。

アンケート調査で加害者として名前が出た生徒に事情を聴いたところ、「校内で繰り返し殴った」「ズボンをずらした」などについて事実関係を認めた。生徒は「いじめではない」と否定したが、市教委は2011年11月、いじめがあったと発表した。

Aさんの担任の男性教諭については、Aさんからいじめを受けていると電話で数回、相談を持ちかけられていたとの複数の証言があった。市教委の全校生徒アンケートでも、「教師が見て見ぬふりをした」という複数の回答があった。学校で担任教諭が生徒数人に対し、「死亡した生徒から、いじめを受けていると電話で相談があった」などと話していたという。
また、同学年の複数の生徒が、教師がいじめたとされる生徒の暴力行為を見ても、「あんまりやんなよ」と言いながら、ほとんど止めようとしなかった、という趣旨の証言を生徒の家族にしている。生徒らは2011年12月にAさんの家族に直接証言し、担任教師の名前を挙げ、いじめたとされる生徒2人が亡くなった生徒に暴力をふるっているのに、「隣にいたが止めなかった。笑ってた。『やりすぎんなよ』って」と話した。他の生徒も同様の証言をし、「周りに他の教師もいた」と話す生徒もいた。
学校側が直後に在校生徒に実施したアンケートでは、教諭が「見て見ぬふり」「一度、先生は注意したけれど、その後は一緒になって笑っていた」などといじめを放置していたことを示す回答が少なくとも14人分あった。また、「先生もいじめのことを知っていたけどこわくて言えなかったらしい」などとするものもあった。

Aさんが自死した直後の最初のアンケートの中には、「(男子は)完全にいじめを受けていた」との記述の他、加害生徒が「(男子が)亡くなっているのにそれを笑いに変えていた」「死んだって聞いて笑った」との記載があった。「人を自殺まで追い込んで、死んでくれてうれしいとかおかしい。(男子の)両親に土下座して欲しい。同じ学校に通いたくない」「顔も見たくない」と記述する生徒もいた。
また、加害者生徒は「(教室に)貼ってあった男子生徒の写真の顔に、死亡後も、いじめをしたとされる生徒が穴を開けたり落書きをしたりしていた」とのアンケートの記述もある。Aさんが自死した翌日の昼休みには、加害者生徒3人は被害者生徒の机でトランプ遊びをしていた。

加害者の保護者は、保護者会などで被害者の保護者や学校に対して、「あんたの子供は死んだけど、自分の子供は生きていかなくちゃいけない。ほんとどうしてくれるんや!」「冗談真に受けてホントに自殺するなんて、こっちが被害者やわ」「いじめたと公にされると、うちの息子が彼(Aさん)を殺したのと一緒という感じがする」「周りからのいじめていたという目は、学校や社会からのパワハラみたいなもの」「うちの息子が自殺したらどうするんですか?これ(いじめと認める行為)はいじめではないのか」「アンケートは無関係の人間が憶測で書いただけ。いじめはなかった」と発言するなど威圧的な対応を取り、「自分の子どもたいじめの加害者扱いをされて被害を受けている」かのように主張した。(加害者生徒の親らが「うちの子供は被害者です」として校門前で配ったチラシ全文)

11月2日 市教委は記者会見で、Aさんが同級生に殴られていたことや成績表を破られたなどの事実を認めて、いじめと判断できるとする見解を示した。しかし、この時に公表されたいじめの内容は一部に留まっていた。

2012年3月13日 事件後の2012年1月に就任した越市長は、市内の中学校で一斉に卒業式が実施された際、当初は別の中学校で挨拶予定だったのを急遽変更して同校で挨拶を行い、自身の学生時代のいじめ被害体験を明かしながら「全力でいじめのない社会に取り組む」と述べた。

7月4日 自死事件発生時や提訴時の報道は、最小限の事実関係のみを短文の記事で報じる小さな扱いだったが、死亡した生徒への悪質ないじめがあったという同級生の証言が複数ありながら学校•市教委が公表していなかったことが発覚し、各マスコミで大きく報道された。

Aさんの遺族は大津警察署に対して3度に渡り被害届を提出したが、警察署は「被害者本人が自殺しており存在していない」として受理せず、報道が加熱してようやく受理した。

7月 校内放送で藤本一夫校長が講和を行った際、「自殺の練習と報道されているのは嘘」「報道には嘘が含まれている」等と話し、マスコミ取材には答えないよう口止めを図っていたことが生徒からの証言で明らかになった。さらに、学校側が遺族に対して、事件への口止めを図る念書を書かせていたことも判明した。

7月10日 越市長は記者会見で、遺族側との訴訟について、いじめと自殺との因果関係を認め遺族側の訴えを認める方向での方針転換を図り、訴訟を中断して事実関係の再調査を行い、和解などの形も検討する方針を表明した。また、第三者による調査委員会を立ち上げ、遺族側の意見も反映させる意向を示した。いじめ調査の内容が隠蔽されていたことについて、市長は7月9日になって初めて知り、調査内容を公表するよう澤村憲次教育長(2007-08年度の同校校長)を3時間にわたって説得したという。

7月11日 市教委は市長発言について「市長の見解だ」として、「自殺との因果関係は不明」との従来の主張を撤回しない姿勢を示した。

7月13日 澤村教育長は、いじめは自殺の要因の一つと言及するが、その一方で「家庭にも問題があるのではないか。裁判で明らかにする」と、まるで家庭に問題があるかのような中傷を行った。

7月25日 大津市と被害者側の関係者は大津市役所内で会談した。越市長は調査が不十分だったことや、自身が2012年1月に当選して2月に訴訟になっているのに提訴時点で再調査を出来なかった遅れについて謝罪した。遺族側は、市長の態度は一定評価したものの、学校や市教委に対しては不信感を募らせて、遺族側の意向を反映した第三者調査委員会の設置を求めた。

調査委員会

調査委員会の設置

越市長は、市長の下に第三者調査委員会を設立し、独自調査を依頼した。越市長は「学校や市教委の調査は不十分で、杜撰だった。再調査で事実を徹底的に明らかにしてほしい」と述べ、真相解明への期待感を示した。

2012年8月25日 第1回調査委員会が開催された。

調査委員

元裁判官や弁護士、大学教授ら5名。市側推薦委員と遺族側推薦委員が同数。

委員長:横山巌弁護士(大阪弁護士会)
副委員長:渡部吉泰弁護士(兵庫県弁護士会)
委員:尾木直樹氏(教育評論家) 他2名

調査報告書

2013年1月31日 調査委員会は自殺の直接の原因は同級生らによるいじめであると結論付けた。また大津市教育委員会やいじめ側の家族らが主張した「家庭環境も自殺の原因となった」という点については、「自死の要因と認められなかった」と否定した。
加害者のうちBとCの2人から継続的に受けた行為19件をいじめと認定したが、加害者とされたDについてはクラスが違ったことなどをあげ、関与が少ないとしていじめを認定しなかった。

刑事事件として

被害届の不受理

遺族は大津警察署に対して、3度に渡り被害届を提出したが、「被害者本人が自殺しており存在していない」として受理されなかったが、このことが大きく報道されると態度を変えて受理するに至った。父親は7月18日、Aさんに対する行為45件について暴行や恐喝、強要、窃盗、脅迫、器物損壊の6つの罪で加害者の同級生3人を刑事告訴した。父親は告訴後、弁護士を通じて「事実が解明され、加害少年が罰を受け、しっかり更生することを望みます。」とのコメントを公表した。一方でインターネット上からは、「どうせ渋々受理したんだろう」と警察への不信感を覗かせる声が噴出した。

滋賀県警察はこのうち、2011年夏頃から自殺した同年10月までの間に、3人がAさんに行った行為を家宅捜索での押収資料や生徒らへの聞き取りで捜査した。これに対して加害者側は「いじめではなく遊びだった」と一貫して容疑を否認している。

強制捜査

滋賀県警は7月11日夜、Aさんへの暴行容疑の関連先として市教育委員会と学校に対して強制捜査を実施した。いじめが背景にある事件の場合、学校や教育委員会から証拠の任意提出を受けるのが一般的で強制捜査に至るのは異例とされた。学校では7月12日に緊急保護者会が開催され、学校側より強制捜査を受けるまでに至った一連の経緯が保護者に説明された。保護者からは「納得いく説明がない」など厳しい批判が噴出し、保護者会は3時間を越えて続けられた。保護者らが求めた担任からの説明もなく、それに対する保護者らの不信感がましたとされた。校長は、担任教師が会場に姿を見せなかったことに関しては、「私の判断で出席させていない」とした。

滋賀県警が強制捜査に入ったことを受け、それまで学校名を他紙同様匿名としてきた中日新聞(東京新聞)は翌12日の朝刊から実名報道に切り替えた(新聞各社で学校名の実名報道に踏み切ったのは中日新聞のみ。

書類送検•少年審判

2012年12月27日に滋賀県警は、加害者3人のうち2人を書類送検した。残る1人は当時は刑事罰の対象とならない13歳であったことから、暴行などの非行事実で児童相談所に送致された。県警は本件に関連する27件の犯罪行為を検討し、暴行、器物損壊、窃盗の3容疑、計13件について立件した。一方で、一人一人の容疑や非行事実は、少年事件を理由に明らかにしなかった。認否に関しても詳細は述べず、犯罪行為自体を否認したり、行為を認めたものの犯意を否定したりしているなどとだけ説明した。県警の大山洋史生活安全部参事官はいじめはあったとしながら、自殺との因果関係は、「推測や憶測で説明すると誤解を招く」と述べ、結論は出なかったとした。当初、被害届を3回にわたり不受理としたことを「もう少し被害者の痛みに心を動かすべきだった」とし、遺族に謝罪した。

なお、Aさんが窓から落ちる練習をさせられていたとされる「自殺の練習」については、他の生徒らからの聞き取りの結果、詳しい内容などは確認できず、度胸試しの一環であったと判断し、強要容疑での立件は見送る方針だという。一方で、学校などへの捜索容疑になった体育祭でAさんの手足を鉢巻きで縛るなどしたとする暴行容疑については、「体育祭での行為は、遊びで同様の行為をしていた生徒が多く、犯罪との区別が難しい」として、立件の可否を慎重に検討している。また、3人のうちの1人による女性教師暴行事件の件及び別の1人が他の同級生に対して起こした暴行事件(いずれも後述)でも書類送検などの処分が取られた。その後、2014年(平成26年)3月18日、大津家庭裁判所は加害者3人の内、2人を保護観察処分、1人を不処分とした。

民事損害賠償請求訴訟

暴行に関しての賠償請求

2012年2月24日 Aさんの両親は、加害者とされる同級生3人とその保護者及び大津市を相手取り、約7720万円の損害賠償請求を求めて大津地方裁判所に提訴した。(大津地方裁判所平成24年(ワ)第121号 損害賠償請求事件)これに対して、大津市は当初争う姿勢を示したが、事実関係が明らかになると態度を変えて、和解に向けて交渉する意向を越直美市長が示した。一方、澤村教育長は、和解の意向は市長の独自判断であり、教育委員会としては従来通り「いじめと自殺との関連性は判断できない」とし、市の判断は受け入れ難いとした。その一方で外部の調査機関の判断があれば結果は真摯に受け止めるとも述べた。加害者側とされた保護者は、事実誤認があるとして同校の校門でビラ配りを行うとともに、自殺は被害者宅の家庭環境が原因であるとした。

2012年5月22日 第1回口頭弁論で、加害者側は3人とも「遊びの延長線上でいじめではない」と主張していじめを全面的に否定し、大津市も「自殺との因果関係は不明」として争う姿勢を示した。

2012年7月17日 第2回口頭弁論で、大津市側の代理人は「現時点で市としていじめと自殺の因果関係を認める可能性は高い。和解協議をさせていただく意思がある」と主張を変更する陳述を行った。
市側は、近く設置する外部調査委員会や警察の捜査結果が出るまで約4ヵ月間訴訟進行を中断してほしいと訴えたが、遺族側が難色を示し、市の主張と関わりない部分については通常通り進行することになった。

2013年1月30日 遺族側は、学校がいじめを認識しながら、市教育委員会や学校の指導マニュアルに沿って対応しなかったとして、市の過失を訴える書面を大津地裁に提出した。

2015年3月17日 大津地裁は大津市が設置した第三者委員会の報告書に基づき、いじめの存在を認定した。また、生徒が自殺企図の意向を事前に漏らしていたことも指摘し、「学校や教委は適切に措置していれば自殺を防げた」と判断した。これを元に、大津市側の安全配慮義務違反を認め、支払い済みの見舞金2800万円に加えて和解金1300万円を支払い、自殺を防げなかったことや、学校と教育委員会の対応に問題があったことを謝罪するとの内容の和解勧告が提示され、3月6日に大津市議会に提出された和解関連議案は3月13日の大津市議会で全会一致で採択され、3月17日に原告側との協議を行って正式に和解が成立した。加害者とされる生徒との裁判は分離され、審議継続される。

大津市との和解後も加害者側はいじめを認めず、加害者3人とその保護者に対して約3800万円の損害賠償を求める訴訟は継続した。2017年に断続的に加害者とその両親、担任教師などへの証人尋問が行われたが、いずれも指摘された行為は認めながら「いじめではない」という見解を主張した。

2019年2月19日 大津地裁は「いじめが自殺の原因」であると認定し、自殺の予見可能性も認定して加害者3人のうち2人(BとC)に対して計3758万円の損害賠償を命じる判決を出した。もう1人(D)については、いじめへの関与度合いが低いとして賠償責任を認めなかった。また、保護者については監督責任を認めなかった。(この判決は、「これまでのいじめ自殺訴訟では、いじめと自殺との因果関係を認定せずに原告側敗訴となったケースが多かった。いじめと自殺との因果関係を明確に認定したことは、当該個別案件だけにとどまらず、いじめ訴訟全体にとって従来の判例から前進する画期的判決となった。」と評価された。)

原告側は控訴しなかったが、加害者の生徒のうち1人が2019年3月6日に一審判決を不服として大阪高裁に控訴した。またもう1人の生徒も2019年3月7日に控訴した。

加害者側は2019年8月23日の第1回口頭弁論で、いじめを認めず判決変更を求めた。控訴審は2019年10月30日の第2回口頭弁論で結審した。

2020年2月27日 大阪高裁の二審では、いじめの事実は引き続き認定しながらも、「自殺は自らの意思による」とし、両親が別居していたことや男子生徒が無断外泊した際に父親が顔を叩くなどしていたことなどを踏まえ、「両親側も家庭環境を整え、いじめを受けている子を精神的に支えることができなかった」などとして過失相殺を認め、損害額から4割を減額し、大津市からの和解金の額などを差し引いた計約400万円が相当とした。

2020年3月12日、両親側は大阪高等裁判所判決を不服として最高裁判所に上告した。

2021年1月21日、最高裁判所第1小法廷(小池裕裁判長)において、両親側の上告を棄却し約400万円の支払いを命じた大阪高等裁判所の判決が確定した。

アンケートに関する精神的苦痛の賠償請求

2012年9月、アンケートの結果を受け取る際に「部外秘」とする不当な確約を迫られたことに対する精神的苦痛を理由に、遺族は大津市に慰謝料100万円の賠償請求を行った。これに対して大津市は11月2日、市の責任を認める答弁書を大津地裁に提出し、「遺族の心情を損なった」と謝罪した。弁論後に記者会見した父親は「これを機に大津市が、日本で一番、安全で安心な学校教育が行われる市になれば息子の本望だ」と述べた。賠償額については、議会の同意が必要となることから、市長のみの判断で許諾できないため、裁判所の指示に従うとした。

2014年1月14日、大津地方裁判所は大津市が原告に対して30万円を支払うように命じた。

加害生徒らのその後

加害者のリーダー格のBは、事件後の2012年4月に宇治市の中学校に転校し、同年6月12日に神明皇大神宮の境内で同級生の男子4人と女子1人と連んで放課後、同級生の男子生徒1人に対して集団リンチ事件を起こした。20分以上も殴る蹴るの暴行を加え、気を失いかけている男子生徒からスクールバッグを奪って火を点けて燃やし、中身の弁当箱•筆箱などを池に投げ捨てた。Bは、この事件でも最も執拗に攻撃していた。Bは転校して来た頃は大人しかったが、5月になると髪を染めたり、下校の時は校門を出た瞬間にタバコを吸い出したりしていた。Bは事件の翌日に教師に呼び出されてからは登校しなくなった(同級生談)。被害者からの被害届を受けて京都府警はBを傷害容疑で書類送検した。Bは2012年8月に家裁送致された。被害生徒の父親は、池に捨てられた物を加害生徒たちに1週間くらいかけて拾わせるようにしたが、3日目に教育委員会から中止要請が来た。被害生徒の父親は「宇治市も大津市と一緒や」と話している。

Dは2012年5月30日、修学旅行事前指導の集会中に帰宅しようとしたため担任の女性教諭が注意したところ暴れ、女性教諭に殴る蹴るの暴行を加えて左手小指骨折や顔や胸、脇腹など計5ヵ所に打撲や擦り傷による全治1ヵ月の重傷を負わせた。学校側は教育的配慮から被害届の提出を見送ったが、県教委と越市長らが対応を批判し、2012年9月に学校は緊急職員会議で県警に被害届を提出する方針を固めた。この事件は同年7月に学校などを家宅捜索して押収した資料や学校関係者への聞き取りにより発覚したが、この事件の直前にはいじめに関する民事訴訟の第1回口頭弁論が開かれており、捜査関係者は学校側が訴訟への影響を配慮して警察に被害届を出さなかったとみている。(教育委員会は当初、報道機関の取材に「暴れる生徒を教師が止めようとして小指を負傷した」と説明していた。)

Cは、事件後宇治市の中学校に転校した2

関係者の処分

事件に関連して学校で5人、教育委員会で2人の処分が行われた。

事件発生時の藤本校長は、2013年2月26日にAさんへのいじめに適切に対応するための体制づくりを怠ったこと、教員らへの指導•監督を怠ったこと、保護者や社会に説明責任を果たさなかったこと、以上の責任に対して減給10分の1(1ヵ月)の懲戒処分を受け、同日に依願退職した。事件当時の教頭2名が文書訓告、被害者の在籍していた学年主任が厳重注意処分となった。

澤村教育長及び教育部長は減給相当の処分と判断されたが、既に退職していたので処分は実施されなかった。退職金は規約通り満額支給された。これに対して遺族は強い不満を表明し、教育庁が「自殺の原因は家庭環境が問題であり、いじめが原因ではない」と当初表明したことについても未だに謝罪も説明もないとして、退職金の公庫返納を求めた。

2013年5月17日、教育委員会はAさんの担任であった教諭に対して、「教員としての職務上の義務を怠り、教育公務員としての信用を著しく失墜させた」として、減給10分の1(1ヵ月)の処分とした。教諭は2013年3月より職場復帰しているが、事件から1年半経過した時点でも、遺族には説明や謝罪を行っておらず、遺族は「男性教諭からまだ謝罪を受けていない。本人の口から、この問題をどう思っているか聞きたい」と話している。

参考図書

大津中2いじめ自殺

大津中2いじめ自殺共同通信大阪社会部(著) / PHP研究所 / 2013年5月17日
<内容>
絶対先生とかも気づいていたと思う。いじめはなかったと会見開く前に真実を知るべき、知らせるべき。大人のエゴのせいでみんな傷ついた。いい加減隠さず話してほしい(全校生徒アンケートより抜粋)。子どもたちは知っていた……。「自殺の練習をさせられていた」――生徒たちの埋もれかけていた証言から事件は発覚した。いじめと自殺の因果関係を認めず、調査を打ち切った市教委の対応は、社会問題となった。事務作業や保護者対応に忙殺される教師たち。連携さえとれない現状で、はたして子どもの異変を察知することはできるのか。子ども1人に孤独を背負わせる世の中であっていいのか。私たちはいま、彼らのために何ができるのか――。大津支局記者のスクープで疋田桂一郎賞受賞。全国25紙以上に掲載され大反響となった3部にわたる連載記事をもとに、この事件の真相、そして悩ましき、いじめの構造に迫る。全校生徒アンケートの一部を本書に収録。

囚われのいじめ問題――未完の大津市中学生自殺事件

北澤毅(編集), 間山広朗(編集) / 岩波書店 / 2021年9月11日
<内容>
いじめが社会問題化して30余年、子どもの自殺→原因究明→再発防止、という構図が一般化した。「いじめ防止対策推進法」の制定など、社会に大きな影響をもたらした「大津市いじめ自殺事件」は私たちに何を問うているのか。過熱報道、被害者遺族、加害者とされた側、教師らの経験など、その複雑な全体像に迫る問題提起の書。

参考資料

“滋賀県大津市•市立皇子山中学校いじめ自殺” 地上の涙

  1. FNNスーパーニュースアンカー (2012年7月18日)
  2. “大津イジメの加害生徒、転校先の宇治市の中学でも集団リンチに加担” 週刊新潮 (2012年7月26日号)
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