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2014年(平成26年)9月21日、宮城県の仙台市立館中学校の男子生徒(中学1年生•12歳)は自死を図り、9月27日に死亡した。
2015年6月 調査報告書は男子生徒が入学直後から同級生11人から受けた仲間外れにされたり、消しゴムのかすを投げつけられるなどのいじめを認定し、「(いじめをふざけ合いとして認識していた)学校の対応に問題があった」と指摘した。市教委は「いじめと自殺は関連がある」と認定し、男子生徒の保護者に謝罪した。
2015年12月 遺族は仙台市と加害生徒7人に対し、事実関係の究明と責任の所在の確認を求めて民事調停を仙台簡裁に申し立てたが、加害生徒側はいじめの存在を否定し、市側はいじめと自殺の関連を認める一方で賠償責任を認めず、不成立となった。(加害生徒の大半は調停を欠席した。)
2016年6月30日 遺族は仙台市と加害生徒8人に対し、計5500万円の損害賠償を求めて仙台地裁に提訴した。加害生徒全員がいじめを否定し、市側も「いじめの事実は認めるが、いじめが自殺につながることは予見できなかった」と請求の棄却を求めた。
同校では1998年にも1年生の男子生徒(13歳)が自死しており、原因としていじめが疑われていた。また、2016年にも、同じ仙台市泉区の南中山中学校でいじめ自死事件が発生した(仙台市立南中山中学生自死事件)。
事件の経緯
2014年4~5月頃から男子生徒は学校で仲間外れにされたり、消しゴムのかすをぶつけられたりしていた。男子生徒は定期的なアンケートにも「持ち物にいたずらをされる」とか「みんなで1人をからかっていた」などと回答していた。
5月 保護者が「いじめを受けている」と担当教員に相談し、学校は加害生徒3人に指導し謝罪させたが、男子生徒はその後も友人から「チクった」「変態」などと言われた。
保護者からの相談は5月以降計6回あった。
9月21日 男子生徒は自死を図り、同月27日に死亡した。男子生徒は自死前日の20日と当日、保護者に「部活をやめたい」「転校したい」と話していた。
男子生徒の自死の公表は、遺族の意向として2015年8月まで行われず、担任の教諭はクラスの生徒に「(男子生徒は)家の都合で転校しました」と説明していた。(10月5日に遺族の了承を得て学校名と自死日を公表した。)
自死の隠蔽
事件発生から約1年後の2015年8月21日の記者会見で、仙台市教委は事件の存在を発表した。学校名など具体名は多くが伏せられ、「昨年、市立中1年の男子生徒が自殺した」「第三者委員会の調査で、校内のいじめが自殺と関連性があるとされた」と説明されたが、詳しい説明は拒み、公表遅れの理由なども含め「遺族の意向」と繰り返した。
事件について仙台市教委が宮城県教委に報告したのは発表前日の20日で、村井嘉浩知事は24日の定例記者会見で「県教委と市教委の意思疎通が十分出なかったのは大変残念」と苦言を呈した。
8月24日朝、館中学校では臨時の全校集会が開かれたが、校長が読み上げたのは市教委が全市立学校に配布した再発防止を訴える緊急アピール文のみで、自校のことには一切触れられなかった。
市教委の発表後、館中学校周辺で取材する報道関係者らに対しては、同校の教諭らが「うちの学校だという証拠があるのか」と否定を装った。校長は「市教委に聞いてほしい」の一点張りを通し、28日夜の河北新報社の取材には「駄目、駄目。警察呼びますよ」と拒否した。教頭は「うちと決まったわけではない」と話した。
男子生徒の自死後、担任の40歳代の女性教諭は「(男子生徒は)家の都合で転校しました」とクラスメートに説明している。教諭は半年間学校を休んだ後、2015年4月に仙台市内の別の中学校に異動した。男子生徒の両親に対しては2014年10月に1度だけ手紙が届いたが、明確な謝罪の文言がなく校長に返したという。両親は「寂しい。反省していないように見える」と語った。
市教委による発表後も、館中学校は生徒たちに対する説明を行わなかった。いじめに加わったとされる11人の生徒にのみ、実態調査の過程で事実を伝えている。
インターネット上では、学校名や所在地など真偽不明の様々な情報が飛び交い、男子生徒と同学年の2年生たちの間でもLINEでいじめに関する詳しい情報が出回った。ある生徒は、いじめに関与したとみられる生徒たちに反省する素振りがないことを知り、「もう駄目」とショックで寝込んでしまったという。また、ある生徒は「先生たちの対応が怖い」と呟いた。
市教委による事実関係の公表から4日後の25日、教諭らは生徒に対し、「憶測で物を言わない」「個人情報は出さない」「個人情報を出すと名誉毀損になる」と注意事項を伝達し、事実上の箝口令を敷いた。教員らは「新聞はでたらめ。信じないように」と生徒たちに説明したという。
保護者は「先生たちはまるで人ごとのような態度。子どもたちは何を信じていいか分からなくなっている」と嘆いた。
自死した男子生徒の両親は24日、「地域に余計な動揺を与えるのを避けるため、公表したくなかった。要らぬ混乱を招いたのであれば大変申し訳ない」と改めて談話を出した。
ある保護者は「愛する子どもが自殺した直後、親が冷静に対応できるはずがない。遺族の思いを、われわれは責めるべきではない」と庇った。地域住民の一人は「昔からある学校側の事なかれ主義とその場しのぎの対応が、事態をより悪化させている」と話した。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
2014年6月5日 仙台市いじめ問題専門委員会設置した。
(「仙台市いじめ問題対策連絡協議会等条例」第7条に基づき設置している委員会で、教育委員会の諮問に応じ、いじめ防止対策推進法第28条第1項に規定する重大事態に係る事実関係の調査などを行う。)
2014年11月25日 男子生徒の自殺を受け市教委は、常設の第三者委に調査を依頼した。
15回の会議。
公表を望まない遺族の意向を踏まえ、初期段階における全校アンケート調査は採用しなかった。
調査委員会は、学校職員、遺族、遺族から名前をあげられた関係生徒11人(保護者同席)への聞き取りを実施した。
出身小学校管理職や小学校6年時の担任、教育委員会にも聞き取りを実施した。
学校による基本調査で示されたこと以上に重大な影響を及ぼす事実が得られるとは考えられず、遺族が非公表を望んだことから、全校アンケートや他の特定生徒から聴き取り調査は行わなかった。
2015年10月5日 全校アンケートの内容は第三者委員会が検討し、現在の2、3年生を対象に実施した。
追加調査を市教委が諮問し、答申をもらった。
2014年6月5日 「第1回いじめ問題専門委員会議議事録」(PDF:171KB)
調査委員
委員長:本図愛実宮城教育大学教職大学院教授
副委員長:滝井泰孝東北福祉大学せんだんホスピタル副院長
委員:阿部正孝東北福祉大学社会福祉学科教授
石井慎也弁護士
清水めぐみ東北福祉大学福祉心理学科講師(臨床心理士)
髙橋勝子公益社団法人みやぎ被害者支援センター犯罪被害相談員
調査報告書
2015年6月23日 14頁
第三者委が市教委に「学校の対応に問題があった」との検証結果を市教委に提出した。
2015年6月 市教委の第三者委員会はいじめに関わった生徒らに聞き取りした結果を第一次答申として市教委に提出し、同学年の男子生徒11人がいじめに関与したと指摘した。
報告書によると、いじめの兆しは入学直後の2014年4月からあり、テストの点数が低かったことなどを貶された他、部活を休んだことを「仮病」「サボり」と言われ、消しゴムのカスを投げつけられるなどした。
学校は5月27日に最初の「謝罪の会」を開き、加害生徒らを謝らせたが、6月中旬に男子生徒とアイドルの合成写真がLINEで流され、「部活に何で来ないんだ」と強い口調で言われるようになった。7月上旬に級友らとプールに行った際は、男子生徒だけが置き去りにされた。
学校は、いじめに関する生徒指導を行うため7月10日に臨時学年集会を開催した。しかしこの直後、男子生徒は「お前がチクった(告げ口した)からだ」と詰られた。その後は給食や休み時間に「変態」と言われたり、寝癖をばかにされたりするなどのいじめがエスカレートした。学校は1週間後の同17日に2回目の謝罪の会を開いた。
担任教諭は、5月と7月の謝罪の会と7月の臨時学年集会の後にそれぞれ、加害生徒の保護者に連絡するよう指示されていたが、一部の保護者にしか伝えていなかった。
2015年8月18日 市教育委員会は再発防止策(2頁)をまとめたうえで、あわせて市長に報告書を提出した。
継続性のあるからかい等の行為があり、累積性がみられる。ただし、他の生徒間にも同様のからかい等の行為があり、当該生徒だけを意図的に対象とするといった、過度の集中性は認められない。それらの出来事及び学校の対応と自死については、関連性があると考えられる。
学校側の対応について、当該生徒の件以上に、注意を要する生徒間トラブルがあった。
事前に対応方針を当該生徒の保護者と協議•説明せず、対応後も注意深く見守らなかった。
学年としての協働に欠けた。
いじめについて指導を受けた友人及び保護者らと情報共有ができていなかった。
当該生徒が感じていた苦痛等の心情を汲み取れていなかった。
管理職等による事案対応のダブルチェックが行われていなかった−−などと指摘した。
市教委は「いじめと自殺は関連がある」と認定。男子生徒の保護者に謝罪した。
2015年8月21日 市教委が男子生徒の自殺を公表した。
調査結果 概要3頁
追加調査 第二次答申
調査委員会の設置•調査内容
2014年6月5日 仙台市いじめ問題専門委員会を設置した。同委員会は、「仙台市いじめ問題対策連絡協議会等条例」第7条に基づき設置している委員会で、教育委員会の諮問に応じ、いじめ防止対策推進法第28条第1項に規定する重大事態に係る事実関係の調査などを行う。
2015年10月22日 教育委員会が学校名を含めた公表を行ったことから、あらためて追加調査に関する諮問を行う。
専門委員会は全校生徒アンケート等の調査を実施のうえ答申をまとめる。
市長は、専門委が追加調査までした点や再調査を望まない遺族の意向を踏まえ、再調査を見送った。
調査委員
委員長:本図愛実教育大学教職大学院教授
委員:教育、法律、医療、心理、福祉等についての専門的な知識及び経験を有する者で、現在6名により構成
第二次答申
2016年3月24日 3頁
第二次答申を教育長に提出。
生徒間にからかいやあざけりがあり、それらの行為を受けた当該生徒は精神的苦痛と感じていたが、それらいじめを行った生徒はふざけ合いとして許されていると認識し、その認識のずれが学校の指導によって修正されなかったことに起因して重大事態が発生した。
当該行為を受ける者と行う者は不定であり、ときに入れ替わることもあったが、当該生徒はそのような行為を受けることが多かった。行う者は、本専門委員会が第一次答申において「関係生徒」と称した生徒たちだけではない。
当該生徒の自死は、上記精神的苦痛が蓄積されていったこと及び学校が適切な対応を取ることができなかったことと関連性があると考えられる。
追加調査により、5件の出来事以外にも日頃から当該生徒に対しからかい及びあざけりのいじめ及びこれに対し学校が適切な対応を取らなかったことと、自死との間には関連性があると考えられる。
2016年3月24日 「仙台市いじめ問題専門委員会第二次答申」(PDF:216KB)
民事調停
2016年2月、遺族は仙台市と加害生徒7人に対し、事実関係の究明と責任の所在の確認を求め、民事調停を仙台簡裁に申し立てた。加害生徒の大半は欠席した。
遺族は市教委第三者委の報告書を基に、入学直後からいじめが始まり、部活を休んだことを「仮病」「サボり」と言われたり、級友らとプールに行った際、男子生徒だけ置き去りにされたりしたと主張した。
学校の責任については、保護者から6回の相談を受け、加害生徒に謝らせる「謝罪の会」を2度開くなどしたが、担任教諭は深刻な状況と考えず、市教委にも報告しなかったため、組織的な対応が取れなかったとした。
遺族側は「市は男子生徒が自殺する危険性を十分予測できたのに適切な措置を取らず、精神的に追い込んだ。加害生徒からは今も謝罪など誠意ある対応はなく、調停の場で事実関係や責任の所在を明らかにしたい」とした。
2016年3月には、市教委第三者委員会が日常的ないじめが自殺に繋がったと結論付ける第二次答申を大越裕光教育長に提出した。答申では学校は認識のずれを修正できず、自殺に至ったと指摘した。
2016年6月16日、第3回調停は仙台簡裁で不成立となり、遺族側は同日、話し合いを中心とする調停での解決は難しいと判断し、損害賠償を求めて仙台地裁に提訴する考えを明らかにした。
遺族側によると、いじめに関する新しい事実を示すよう求めたが、加害生徒側は16日の調停までに「新しい事実はない」などと書面で回答。これまでの調停でも、遺族側が複数の行為をいじめと指摘したが、加害生徒側はいじめの存在を繰り返し否定した。市側はいじめと自殺の関連を認める一方、賠償責任はないと主張していた。
生徒の父親は取材に「調停のままでは平行線。一歩前進するため、一つ上の行動を取らないといけない。いじめをしたことをまず認めてほしい」と話した。
市教委の大越裕光教育長は「真摯に対応してきたが、調停は不成立となった。最優先課題のいじめ防止対策に今後もしっかり取り組む」との談話を出した。
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2016年6月30日 遺族は仙台市と当時同級生だった加害生徒8人に計約5500万円の損害賠償を求めて仙台地裁に提訴した。
同級生に対しては、第三者委がいじめに関わったと第一次答申で認定した11人のうち、特に関与度が高いとされる8人を提訴した。
遺族側は市教委の第三者委員会の報告書を基に「自殺の原因は入学直後から始まったいじめで、同級生8人の関与の度合いが高かった。部活を休んだことを『仮病』『サボり』と言われたり、級友らとプールに行き置き去りにされたりした」などと主張。市の責任については、教員が加害行為を把握しながら適切な指導をしなかったとした。
原告の父親は「調停で息子がなぜ死んだのか分かってもらおうとしたが、応じなかった。司法に事実を認めてもらい、いじめ自殺を撲滅したい」と話した。
奥山恵美子市長は「訴状が届いておらず、現時点でコメントは差し控えたい。訴状が届き次第、内容を精査し、適切に対応したい」との談話を出した。
2016年10月3日 第一回口頭弁論が仙台地裁であり、市と生徒8人はいずれも請求の棄却を求め、争う姿勢を示した。
生徒8人のうち7人は「いじめと評価される事実はない」などといじめの存在を否定し、残る1人は「詳細は追って主張する」とした。市側は「いじめの事実は認めるが、いじめが自殺につながることは予見できなかった」と主張した。
男子生徒の父親は閉廷後に仙台市内で記者会見し、「息子の辛かった思いを全国に知らせ、いじめはいけないと仙台から訴え続けたい。今後いじめが起こらないよう、裁判が抑止力になれば」と語った。
参考資料
“宮城県仙台市•市立館中学校いじめ自殺” 地上の涙 他