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2014年(平成26年)1月8日、長崎県の新上五島町立奈良尾中学校の男子生徒(中学3年生•15歳)は、複数の同級生から暴言や暴行を執拗に受けていたことを苦にして、公営グランドで首吊り自死した。男子生徒は2学期半ばからLINEで自殺を示唆するメッセージを何度も同級生に送り、一部の保護者も知っていたが、誰も学校や男子生徒の両親に伝えなかった。
学校は同級生へのアンケートや聞き取りで、男子生徒が同級生から「ウザい」「死ねばいいのに」などの悪口を言われていた情報を把握していたが、遺族には当初、「いじめはなかった」と報告した。同級生から「いじめがあった」と聞いた遺族の要望で再調査し、自死の約4か月後に「いじめがあった」と遺族に伝えた。
2016年1月6日 第三者委員会は、3年時から学級委員を務め、授業中に積極的に挙手するなどしていた男子生徒に対し、複数の同級生が「出しゃばっている」「死ね」といった悪口を繰り返したことなどを「いじめ」と認定し、「過酷ないじめを受け続け、生きている価値がないと思うほど追い詰められ、それが原因で自殺した」として、自殺との因果関係を認めた。
また、男子生徒が3年生の夏休みに、いじめ被害を示唆する作文を書いたのに、教師が「心の叫び」に気付かなかったと指摘し、学校の「いじめ予防、対策が非常に不十分だった」とした。学校と教育委員会が自殺の直後に行った調査について、直後からのアンケートで同級生らは「悪口を言った」などと回答していたのに、事実究明を徹底せず、両親には「いじめは見つからなかった」と報告するなど、「いじめは無かったという結論に基づいて調査したとしか思えない」として、極めて杜撰な対応だったと批判した。
2017年9月4日 男子生徒の遺族は町と県を相手取り民事損害賠償請求訴訟を起こしていたが、生徒がいじめによって自殺したこと、教職員がいじめ防止措置を怠っていたことなどの責任を町が認めて解決金4000万円を支払い、再発防止策を取ることなどの内容で和解が成立した。
事件の経緯
同校は離島の小規模校で、3年生は男子生徒を含め21人だけだった。各学年は1学級でクラス替えもなかった。この学級には「目立つとよく思われない」という独特の雰囲気があった。(第三者委による同級生全員の聞き取り調査より)
男子生徒は成績が良く、授業中にも積極的に挙手をするなどしていた。クラスや学校行事のリーダー的存在で、同級生に勉強を教えたりすることもあった。(男子生徒の自死後、同級生を対象にした学校の調査で「上から目線でものを言うから、うざいと言い返した」などの回答があったという。また、ある同級生は「目立つことをよく思わない生徒がいて、悪口を言われたと思う」と語った。)
2013年4月 男子生徒は3年に進級し学級委員になった。学級は1、2年時には別の生徒がいじめられていたが、3年になって「出しゃばっている」と男子生徒が対象になった。男子生徒へのいじめは、夏休み前の1学期から始まり、数人のグループを中心に他の生徒も同調し、「陰口を本人に聞こえるように言うなど精神的に追い込んでいくいじめだった」という。「キモい」「死ねばいいのに」といった暴言も浴びせられていた。(男子生徒の両親が同級生から聞いた証言より)
2学期からは男子生徒に対する悪口が酷くなり、私物の筆箱を机から落とされたり、ノートに「消えろ」などと落書きされることもあった。
10月頃 男子生徒は首を吊る紐を用意した。
LINEに、みんなに嫌われ、生きている価値がないので死ぬことを考えている、という内容の投稿をするようになった。
11月 男子生徒はLINEに複数の同級生に「死ぬ前にやることが3つ」などと書き込むなど、自死を仄めかすメッセージを何度も送り、一部の同級生の保護者も知っていたが、誰も学校や男子生徒の両親に伝えなかった。
11~12月 男子生徒はLINEに「嫌われすぎて自殺のサイトを見た」「自殺の方法は調べ尽くした」などと書き込んだ。「自分は本気。一番楽な自殺方法わかる?」との書き込みもあり、友人は「そんなの知らなくていい」と返信した。その前後に、何本かの白いビニール紐を撚り合わせて作ったロープの写真を載せていた。(この友人は学校の調査に「うそだろ、と思っていた」と話したという。ロープが実際に自死に使われたものかは不明だという。)
2014年1月7日 男子生徒はLINEに「死ぬ準備はできている」と書き込んだ。
1月8日(3学期の始業式の日) 男子生徒は自宅を出たが通学バスには乗らず、学校から「登校していない」との連絡を受けた両親が、午前9時20分頃、公営グランドで首を吊っている男子生徒を見つけた。男子生徒は自死前、LINEで同級生に「次会うときは死んでからだよ」「さようなら」と書き込んでいた。
男子生徒がバスに乗っていなかったため、男子生徒からLINEで自死する考えを伝えられていた同級生たちは騒ぎ始めた。登校直後の教室内の様子について、多くの同級生が学校の聞き取り調査に対し、「『やばいんじゃないか』と騒ぎになった」などと回答し、一部の同級生は男子生徒が自死した朝、教室で「(男子生徒が投稿してこなかったため)数人の会話で『みんな共犯者だよ』と言っている生徒がいた」「(男子生徒に)『うざい』と言っていた生徒たちが『もしかして自殺したのでは』と言っていた」「『全体責任だよ』と言う生徒もいた」と答えていた。その後「警察に捕まらないかな」との声も漏れていたという。しかし、教室に来た担任教師に、誰も男子生徒が自殺する恐れがあることを伝えなかった。
学校は翌9日から複数回、同級生20人へのアンケートや聞き取り調査などを実施した。
1月下旬 町教委は両親に「いじめは見つからなかった」と報告した。
3月下旬 同級生2人が男子生徒宅を訪問し、両親に「◯◯君(男子生徒の名前)はいじめを受けていた」と証言した。男子生徒は、クラス内で「うざい」「嫌い」などの悪口を日常的に言われ、「自分はみんなに嫌われている」と悩んでいたという。
町教委は、いじめがあったことは認めたが、「自殺の原因とは断定できない」とした。
男子生徒が2年の夏休みに書いた作文「空気」(一部抜粋)
情報社会である現在、毎日膨大な情報が流れてくるが、必ずといっていいほど目にする記事がある。それがいじめ問題だ。「中学の男子生徒がいじめにより自殺しました」などという事件が起こるのが最近はあたりまえと思う人が増えていると思う。
いじめの加害者の気持ちを想像してみた。主な理由は二つほど考えられる。まず一つ目、いじめという行為が楽しい。「相手の反応がおもしろい」などがよく補足としてつけ足される。このての加害者は恐らく、自分がその苦痛を知ることでしかやめないだろう。
二つ目は、周りの友達に合わせているからだと考えられる。そう、ほとんどの人が自分が嫌われないように生活しているのだ。もし、少しでも友達が嫌いな子に優しくすれば、そのことを責められ、今度は自分がいじめの対象になるのではないかという不安と恐怖にかられる。それの連鎖がおこるから、周りの人に合わせるといじめがおこる可能性があると思う。
もっともたちが悪いのは後者の方だ。なぜなら、いじめが完全に終わることがほとんどないからだ。対象者は移り変わってもいじめは続く。
では、いじめの原因は何かを伝えよう。それは「空気」だ。これが目に見えないものだから恐ろしい。いじめをしなければ自分がやられてしまうという空気、いじめに参加しないといけない空気。いじめの加害者、主犯でさえも空気によって動かされているのだ。
この問題を解決する方法はただ一つ……。みんなが親友になることだ。そう、実はすごく簡単なはずなのだ。人の笑顔は人を笑顔にし、その笑顔がまた別の人を笑顔にすると思う。僕の好きな歌にこういう歌詞がある。「空気なんてよまずに笑っとけ、笑顔笑顔、笑うかどには福来たる」。暗い顔をしていてもいいことは起こらない。
いじめの加害者は本当にごめんと一言言えば必ず許してもらえるだろう。学校で習う数学の公式や英単語を忘れても、笑顔の大切さだけは忘れないでください。
調査委員会
調査委員会の設置•調査内容
学校側の聞き取り調査に対し、一部の同級生の証言が「同級生が『自分たちのいじめのせいで死んだ』と認識していることを示す重要な言動だ」として、男子生徒の両親は詳しい調査を求めた。
2014年6月13日 男子生徒の両親は記者会見を行い、学校が男子生徒の自死翌日のアンケートで「(男子生徒に)悪口を言った」などの情報を得たが、当初はいじめと判断せず、両親の要請で3~4月に再調査を行い、5月に「いじめがあった」と両親に伝えるなど、受験前という理由で再調査が遅れた結果、生徒の記憶が薄れた恐れがあり、調査結果開示にも時間が掛かったとして学校の対応を批判し、「町教育委員会や学校は多くの情報を隠していた。何があったか知りたい」と真相究明を訴えた。
2014年9月9日、町議会で第三者委員会設置の条例案が可決し、2015年1月に第三者委員会を設置した。
第三者委員会は、いじめと自殺の関係について「断定できない」とした町教育委員会の調査結果を検証し、真相究明や再発防止策に向けた提言も行うとした。
• いじめを含め男子生徒に何が起きたかを調査する。
• 自殺の原因を考察する。
• 学校•町教委の対応が適切だったかを考察する。
• 再発防止に関する提言
などをする。
第三者委は当時の同級生全員(3年生は1学級のみで21人)に聞き取りをした他、残されたLINEの記録や男子生徒が3年生の夏休みに「空気」の題名でいじめをテーマに書いた作文などを検証した。
調査委員
委員の人選に3カ月要する。
委員は町と遺族側とでそれぞれ3人ずつ推薦して、6人とした。
6名。町は当初、団体と氏名を非公開としていたが、遺族の抗議を受けて公開した。
委員:大谷辰雄弁護士(福岡県弁護士会)
内田敬子弁護士(福岡県弁護士会)
西尾裕美「学校安全全国ネットワーク」会員
山下洋日本児童青年精神医学会認定医
藤原珠江臨床心理士(福岡県臨床心理士会所属)
原田純治長崎大学教授(社会心理学)
調査報告書
2016年1月6日 全101頁
第三者委員会は、3年時から学級委員を務め、授業中に積極的に挙手するなどしていた男子生徒に対し、複数の同級生が「出しゃばっている」「死ね」といった悪口を繰り返したことなどを「いじめ」と認定し、「過酷ないじめを受け続け、生きている価値がないと思うほど追い詰められ、それが原因で自殺した」として、自殺との因果関係を認めた。
男子生徒は無料通信アプリ「LINE」などで同級生に自殺を示唆することで助けを求めたが反応は乏しく、追い詰められていったと判断した。
男子生徒は2学期半ばからLINEで自殺を示唆するメッセージを何度も同級生に送り、一部の保護者も知っていたが、誰も学校や男子生徒の保護者に伝えなかった。
また、男子生徒の同級生の間では、中学1、2年時などにも別の生徒へのいじめがあったのに、学校側の危機感が薄く、2年3学期のアンケートでは、同級生の7割が「この学級にはいじめがある」と回答し、男子生徒の自殺の約2か月前には生徒の一人が担任に「◯◯君(男子生徒の名前)が悪口を言われて困っている」などと相談したにも関わらず対処しなかったという。また、中学2年の時にも別の生徒が悪口を言われるなどのいじめを受け「死にたい」と思い詰めていた。ある保護者は保護者会の開催を担任に要望したが、開かれることはなかったという。
また、男子生徒が3年生の夏休みに、いじめ被害を示唆する作文を書いたのに、教師が「心の叫び」に気付かなかったと指摘し、学校の「いじめ予防、対策が非常に不十分だった」とした。学校と教育委員会が自殺の直後に行った調査について、直後からのアンケートで同級生らは「悪口を言った」などと回答していたのに、事実究明を徹底せず、両親には「いじめは見つからなかった」と報告するなど、「いじめは無かったという結論に基づいて調査したとしか思えない」として、極めて杜撰な対応だったと批判した。同級生への指導も不十分で、一部の生徒は男子生徒の死後も悪口を言い続け、男子生徒の持ち物をごみ箱に捨てた。
報告書には「分からない問題を教えてくれる」「頼れる存在」など、同級生による男子生徒の肯定的な人物評が並んだ。聞き取りに対しては、中心的に悪口を言っていた生徒ですら涙ながらに「本当は嫌いではなかった」と話したという。
長崎県五島列島新上五島町公式サイトで報告書を公開した。
2016年1月6日 「新上五島町立学校におけるいじめに関する第三者調査委員会 調査報告書」
民事損害賠償請求訴訟
提訴
2016年8月31日 第三者委員会の報告書提出後、男子生徒の両親は町などに対し、再発防止策の検討を求めたが、「報告書には事実誤認の記載がある。事実関係を全て認めることはできない」などと回答があったため、教職員がいじめを阻止するなどの安全配慮義務を怠ったとして、町と県を相手取り、計約6250万円の損害賠償を求めて長崎地裁に提訴した。両親は「裁判を通じ、学校関係者に息子の死に向き合ってもらい、検証につなげたい」と話した。
一審(長崎地裁)
2016年10月31日 第1回口頭弁論で男子生徒の母親が意見陳述し、「学校の責任を明らかにすることで、先生や教育委員会の人たちに◯◯(男子生徒の名前)の死と誠実に向き合ってもらいたい」「報告書には、先生たちがいじめに気付くことができるきっかけがいくつもあったと指摘されている。◯◯(男子生徒の名前)の命は救えたはずだ」と涙ながらに訴えた。
2016年12月19日 第2回口頭弁論で被告の県と町は一転して、自殺はいじめが原因で把握していなかった学校側に過失があったと認めた。町側は(1)いじめがあった(2)いじめを原因に自殺した(3)教職員がいじめを気付かず安全配慮義務違反があった――の3点を認め、争わない姿勢を示した。
両親の弁護団によると、いじめ自殺を巡る訴訟で行政側がいじめの存在や安全配慮義務違反を認めるのは極めて異例。ただ町側は「教職員がいじめに気付かなかったことには相当の理由があり、気付かなかった両親にも過失が認められる」と主張、過失の程度、賠償額などについて引き続き争う姿勢を見せた。弁論後に記者会見した男子生徒の父親は「こちらの過失を問うのは言語道断だ」と憤った。
2017年9月4日 長崎地裁で和解。
和解条項は、(1)町が両親に和解金計4000万円を支払う。(2)町は、男子生徒がいじめが原因で自殺し、学校がそれを防ぐ措置を怠った事実を認め、両親に謝罪する。(3)町は第三者委の調査結果を最大限尊重し、報告書の提言に基づく再発防止策の実施状況を年1回公表する。(4)両親は学校教職員や元生徒らへの民事上の損害賠償請求権を放棄する。-など。
和解後に新上五島町のウェブサイトで報告書を公開した。
2018年1月31日 「いじめ見逃し「ゼロ」を目指して ~いじめ自死訴訟の和解について~」(PDF:6MB)
参考資料
“長崎県新上五島町•町立奈良尾中学校いじめ自殺” 地上の涙 他