保育•教育

定時制高校 青春の短歌 その①

兵庫県立神戸工業高校 南悟

 昼間仕事をしながら夜に学ぶ定時制高校生の短歌を紹介します。仕事が人を生かすという価値が定時制高校には見られますが、短歌に込められた彼らの生き方は、きっと詠む人の心を動かし、生きる勇気すら与えられることでしょう。

※ 肝っ玉母さんの歌

 五二才夜学に通い早や四年今では友らとメールやりとり
 祝福のルーズソックス娘から履けないままでもうすぐ卒業  見方真弓

 五二才のお母さん生徒の歌です。女手一つで息子二人を育て上げた彼女は、次男の本校建築科卒業の春に、同じ科の一年生に四八才で入学しました。二首目の歌のルーズソックスは、長男の嫁が母の高校入学祝いに「お母さんも女子高生になったんやから」と贈ってくれたのですが、私や級友に学校へ履いてくるように勧められても、とうとう実現しなかったものです。
 入学の前年に阪神大震災があり、彼女の自宅は全壊して全ての財産を失いました。途方に暮れていた彼女を、ある大きな計画が、高校建築科入学へと後押ししたのです。
 入学してからの彼女は、仮設住宅で婦人服の縫製仕事のミシンを踏みながら、建築現場で働く息子の弁当作りからはじまる家事をこなし、建築の勉強に人一倍打ち込んでいました。

 一年生の時の生活が詠まれています。

 朝早く息子を起こし一息すミシン仕事に睡魔が襲う
 徹夜してミシンに向かい期日まであせる気持ちが指まで縫った

 彼女が高校三年の秋、とうとう自らの手で自宅を再建させてしまいました。それも近隣との連棟三軒住宅を、図面から建築確認申請を含め、息子と三人で手掛け、その上震災の工事現場から不要の廃材や材料部品をかき集め、自宅は最小限度の費用で木造三階建てを完成させてしまったのです。この話を聞いた私は半信半疑で、本当に建っているのかと見に行きましたが、確かに線路沿いの斜面に立派に建っていました。

(つづく)


生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)

南悟(著) / 岩波書店 / 2009年11月21日
<内容>
昼間働き夜学ぶ、定時制高校の生徒たちが指折り数えて詠いあげた31文字。技巧も飾りもない、ありのままの思いがこめられている。働く充実感と辛さ、生きる喜びと悲しみ、そして自分の無力への嘆き。生き難い環境の中で、それでも生き続けようとする者たちの青春の短歌。


ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春

南悟(著) / 解放出版社 / 2000年5月1日
<内容>
失敗や挫折や障害が癒され、人として生きる力が与えられる定時制高校の生徒たちの短歌、作文を紹介。NHKドキュメンタリー番組で放映。


定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)

南悟(著) / 岩波書店 / 1994年7月20日
<内容>
「大阪で道路舗装し夕映えの神戸の夜学に車を飛ばす」毎日、汗と油にまみれて働きながら、通学する夜間定時制高校の生徒たち。短歌に詠みこまれた喜び、悲しみ、悔しさ、そして恋─青春いっぱいの姿を教師が綴る。



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