定時制高校 青春の短歌 その③

兵庫県立神戸工業高校 南悟
八年目の卒業
八年間父と母とに励まされ通い続けた夜学に感謝
定時制通い続けて八年間父母の苦労に報いて卒業 中山健二
定時制の神戸工業高校を八年間の長い時間をかけて卒業した中山君の歌です。私は、この歌が卒業式の直前に色紙に書き記された時、嬉しくて職員室の連絡黒板に長い間掲示しておきました。苦労の多かった彼の喜びもさることながら、私達教職員も大きな励ましを貰ったようで、かけがえのない贈り物と思えたからです。
彼は中学校を卒業して全日制の高校に入学したものの、暴走族との付き合いの中から暴走行為を繰り返すという、荒れた生活で鑑別所に入れられても同じことを繰り返していました。このため、全日制高校を退学になってしまったのですが、それでも、両親の嘆き悲しみをよそに、暴走行為にのめり込んでいきました。そのような時に、定時制の神戸工業高校に通っている友達から諭され、翌春一年生に入学を果たしたのです。
定時制高校に来て彼は目を瞠ったといいます。自分と同世代の若者が昼間に仕事をし、疲れた生活の中にも生き生きとしている姿に感動し、自分が恥ずかしく思えたそうです。親のすねをかじり粋がって暴走していた自分が情けない、落ちこぼれが行く学校と見ていた定時制生徒に負けていると思えたと言うのです。
入学してしばらくから彼も飲食店の仕事に就きました。仕事と学校の両立は思いのほか厳しく、何度も仕事を辞めるか学校を辞めるかという葛藤の中から、なんとか綱渡りのような危うい生活を続けて来たのです。
二年生の秋に彼が初めて詠んだ歌です。
父母の苦労も知らず家を出てポリに捕まり臭い飯食う
その後、転職、落第、休学を繰り返し、ようやく八年もの歳月をかけて卒業にこぎつけたのです。
卒業文集の終いに、彼はこう書き残してくれています。
「長い長い高校生活で、感じたこと、考えたこと、楽しかったこと、苦しかったことをこれからの自分に少しでも生かせたら、今よりももうちょっと頑張れる自分になれるんじゃないかと思う。定時制高校に通っていろんな先生に出会い、いろんな友達と話し、ちょっとだけ頑張った八年間はすっごい宝物になった。」
(つづく)
生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)
南悟(著) / 岩波書店 / 2009年11月21日
<内容>
昼間働き夜学ぶ、定時制高校の生徒たちが指折り数えて詠いあげた31文字。技巧も飾りもない、ありのままの思いがこめられている。働く充実感と辛さ、生きる喜びと悲しみ、そして自分の無力への嘆き。生き難い環境の中で、それでも生き続けようとする者たちの青春の短歌。
ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春
南悟(著) / 解放出版社 / 2000年5月1日
<内容>
失敗や挫折や障害が癒され、人として生きる力が与えられる定時制高校の生徒たちの短歌、作文を紹介。NHKドキュメンタリー番組で放映。
定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)
南悟(著) / 岩波書店 / 1994年7月20日
<内容>
「大阪で道路舗装し夕映えの神戸の夜学に車を飛ばす」毎日、汗と油にまみれて働きながら、通学する夜間定時制高校の生徒たち。短歌に詠みこまれた喜び、悲しみ、悔しさ、そして恋─青春いっぱいの姿を教師が綴る。
Sponsored Link








