文化•生活•芸術

オーストラリアから③ オーストラリアにおる目的は?と問うなら

堀蓮慈

 ぼくが籍を置いてる学校は、学生ヴィザが一番安く取れるんで、留学生のほとんどがヴィザ目的で、学習意欲はあんまりない。ただ、平均で週16時間以上は出席してないとヴィザを取り消されて強制送還される危険があるんで、やる気はなくても出席だけはして、ウダウダしゃべってたりする。考えたら日本の高校にもそういう生徒はけっこうおりそうやな。進学する気がなくて、高卒資格がほしいだけやったら、最低限の出席時間と単位さえ確保したらええわけで、目的もなく惰性で学校に来るぐらいやったら、サボってその時間を自分の好きなことのために使う方が賢明な選択、て言えると思う。その「好きなこと」が、ゲームとかの「ただの時間つぶし」やったら、大人は眉をひそめるやろが、少なくとも「自分で時間の使い道を決めてる」いうだけで、だらだら通学組よりはましやないかな。で、学生ヴィザを取って何をしてるか、いうたら、たいていは観光ガイドとかレストランとかでのアルバイト。永住権あるいはビジネスヴィザを取る、いう先の展望があるわけでもない学生が多数派や。ただ単にオーストラリアにおることだけを目的にしてる、いうて批判する人もおるが、それはそれでええんやないかな。日本におる人間かて、目的がはっきりせえへんのは同じやろ。日本におる場合、「普通」に仕事して「人並み」に結婚して家庭を持ったら、「人生の目的は?」とかあらためて考えんですむだけの話で。
 たいていの人にとって、仕事は目的というより生活の手段やろ。ま、中には仕事に使命感を持ってたり、ほんまに楽しんでたりする人もおるんやろけどや。「自己実現のために仕事してる」いうたらカッコええけど、ホンマかな? 自己実現いう言葉にはだまされやすい。仕事にのめり込むことで何かから逃げてたりしてな。ワーカホリックが、アルコホリック(アルコール依存)と同じようなもんとして扱われても不思議やない。ただ、アルコール依存は金がかかるし周囲に迷惑やけど、仕事依存は逆に収入が増えたりするから、病院に入れられることなく、過労死に至ったりするわけやが。
 ともあれ、人生の目的を問われたら、言葉につまる人が多いんやないか、と思う。日本では哲学いうんはただの道楽みたいに思われてて、多くの人が人生の根本について思考停止してるから、その結果、自分の根っこがゆらいで不安でしゃあない、いう人が増えてるんやないかいな。古代ギリシャ以来、快楽原則以上に強力な行動原理は発見されてないから、人生の目的は「楽しく生きること」いうんはかなりええ答えやと思う。ただ快楽にもいろいろあって、最終的には「心の平安」に行き着く、いうんがエピクロスの考え。そう考えていくと、「手段のための手段」に過ぎん学校なんぞにこだわることのアホらしさが見えてくると思うんや。学ぶこと自体が快楽やったら話は別やけどな。

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