学校事故•事件

学校事故•事件被害者全国弁護団の設立について

弁護士 野口善國

1 設立の経緯─内海さんら遺族の活動

 1994年、兵庫県龍野市(現、たつの市)において内海平君という小学校6年生の男子児童が担任の男性教諭から理不尽な暴行を受け、その直後、自ら命を絶つという事件が発生した。私は教師の行為が子どもの人権を侵害しているのではないかと調査をした弁護士会の人権擁護委員の一人であった。その教諭は暴力を理由として罰金刑に処せられたが、その後、自らの暴行をごまかそうとし、同市の教育委員会は平君が自殺したかどうかも不明であるなどと全く不誠実な態度を取った。私は兵庫県弁護士会で学校、担任教諭に人権侵害の勧告がなされた後、龍野市に賠償を求める弁護団にも参加した。
 平君のご両親の内海千春さんご夫妻は、同市の現職の教師であった。ご両親は地域の平和を乱す者として、周囲から様々なバッシングを受けた。平君が亡くなってから、勝訴判決を勝ち取るまで、ご両親の人生は誠につらい人生であった。このようなバッシングはいわば2次被害である。子どもを奪われて、悲痛のどん底に突き落とされたあげく、周りの人々の中傷や脅迫にも耐えていかねばならないのである。
 内海千春さんは、自分以外にこのような悩み、苦しみをかかえている同種事件の遺族が他にもいることを知り、兵庫県内の遺族の方とも連絡を取り合うようになった。
 その活動は渡部吉泰弁護士(大津事件で第三者委員も務められた)他の方々の助言も得て、その後次第に広がっていった。
 現在では、全国学校事故•事件を語る会として全国的に活動を広げつつある。私は、時々その会に顔をのぞかせて頂いて多くのことを学んだが、その会でことあるごとに聞かされるのが、弁護士の対応の悪さや、事件を引き受けてくれる弁護士がなかなか見つからない事であった。これは何とかしなければと私も思うようになった。
 学校事故、事件の被害者や命を落とした子どもの遺族は力を合わせて文科省と交渉をしたり、裁判の支援をしたりする活動を全国規模に広げつつある。
 一方、弁護士の方はどうかと言えば、個人的に親しい弁護士に助言や助力を求めることはあっても、全国各地での経験を学校事故、事件について交流して、訴訟、交渉のノウハウを蓄積したり、全国の弁護士がまとまって運動をするということはほとんどなかった。
 これでは、弁護士の活動は学校事故、事件の被害者や遺族のがんばりに全くついていけないことになる。
 このように考えて東京の児玉勇二弁護士をはじめ吉峯康博弁護士、前記の渡部吉泰弁護士、名古屋の多田元弁護士、京都の安保千秋弁護士等々の賛同を得て、「学校事故•事件被害者全国弁護団」を立ち上げることになった。

2 弁護団の目的

 同弁護団員は、皆、子どもの権利を守る立場で活動してきた弁護士であり、かつて子どもの人権弁護団が全国的に設立された経緯も考慮して、「子どもの権利弁護団」と略称される。
 弁護団の目的は設立経過からも明らかなとおり、何よりも学校事故、事件の被害者、遺族が弁護士にアクセスしやすくすることである。
 次に弁護団として同種事件の情報交換、ノウハウの蓄積をすることである。
 そして単に個々の訴訟で勝ち切るための戦術を議論するだけでなく全国的な課題を見出し、その実現に向けて、全国の団員が結集し、被害者家族や遺族、研究者、マスコミ等の助力を得て文科省や国会へ働きかけることも必要である。

3 当面の方針

 当面の基本方針の要点は次のとおりである。

  1. (1) 年2回以上、各事故、事件について、学習、交流のための会合を開催する。
    (2) 前項の会合には事件当事者、それらを支援する団体、研究者を必要に応じて招請する。
    (3) その開催地は少なくとも年1回は東京以外とする。
    (4) 弁護団のメールを利用し、互いに各事件、各裁判についての情報交換をして、お互いの力量を高める。
  2. 弁護団の名簿を作成し、これを公開し、被害者、被害者家族、遺族からのアクセスを容易にすると共に、相談或いは事件の依頼を受けた団員は当事者の声に耳を傾け、被害者の権利の救済、親の権利の実現に全力を尽くす。
  3. 子どもの権利を守るため、被害者、被害者家族、遺族と共に学び、活動する。
  4. 結び
     同弁護団の活動が軌道に乗るまでには解決しなければならない課題もあり、新しい課題もあると現れてくると思われるが、今まで弁護士を探そうにも何の手がかりもなく困っておられた被害者や遺族の方には、ささやかな光明にはなると思っている。
     この弁護団が、本当に被害者、遺族の方から信頼されるには、個々の団員の奮闘の積み重ねが必要である。
     被害者、遺族の皆様の期待の大きさ、任務の重大さに緊張はしているものの、我々弁護団の活動が、これまでの個々の弁護士の活動を超えて集団の英知に支えられたより高度なものに発展することを心から期待している。

以上


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