定時制高校 青春の短歌 震災を詠む①

兵庫県立神戸工業高校 南悟
忘れることのできない震災から一三年が経ちました。当時、私たちの学校も、職員•生徒の全半壊家屋数は三分の一にのぼり、被害甚大な校舎•校地の復旧工事は、二年間かけて終えました。働く生徒の三分の一が仕事を失い、神戸経済の地盤沈下のために次の仕事がなかなか見つからないのが、定時制高校にとっても大きな痛手でした。
そして、親の生活破壊と避難生活の困難から、震災後、神戸市の少年のシンナー吸引事件や深夜徘徊からの暴走行為や窃盗事件が急増し、全国平均を大きく上回るどころか、場合によっては三倍にのぼるという年もありました。警察や家庭裁判所が、折りに触れ、定時制高校に無職青少年を入学させて面倒見てほしいと求めるまでの困難な時代でした。
昼に働き夜に学ぶ定時制高校の生徒たちは、荒れた生活からの立ち直りを求めた生徒たちも含めて、誰もが、毎日の仕事を通して、震災の復旧作業と神戸の復興に関わってきたのです。
あまり紹介されることのなかった、貴重な若者の証言を何回かにわけて報告します。
木枯らしのガレキの中を探し当て吐く息白く新聞配る 池山和昭
震災二日後の長田区で新聞配達の様子です。
寡黙な一八才の生徒で、入学時から三年間新聞配達の仕事を続けていました。震災後、自分の家の片づけを後回しにして、ガレキの町中を一軒一軒探し歩き、配達したのです。
それにしても、交通機関が途絶する中、地震発生の翌日から、時間の遅れはあっても、毎日、新聞が戸別配達されて来ることに驚きましたが、この池山君もその一役を担っていたのです。
このような歌も詠みました。
暗がりのガレキの中に「夕刊です」不安顔しておっちゃん受ける
(つづく)
生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)
南悟(著) / 岩波書店 / 2009年11月21日
<内容>
昼間働き夜学ぶ、定時制高校の生徒たちが指折り数えて詠いあげた31文字。技巧も飾りもない、ありのままの思いがこめられている。働く充実感と辛さ、生きる喜びと悲しみ、そして自分の無力への嘆き。生き難い環境の中で、それでも生き続けようとする者たちの青春の短歌。
ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春
南悟(著) / 解放出版社 / 2000年5月1日
<内容>
失敗や挫折や障害が癒され、人として生きる力が与えられる定時制高校の生徒たちの短歌、作文を紹介。NHKドキュメンタリー番組で放映。
定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)
南悟(著) / 岩波書店 / 1994年7月20日
<内容>
「大阪で道路舗装し夕映えの神戸の夜学に車を飛ばす」毎日、汗と油にまみれて働きながら、通学する夜間定時制高校の生徒たち。短歌に詠みこまれた喜び、悲しみ、悔しさ、そして恋─青春いっぱいの姿を教師が綴る。
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