真の文明は生きものを殺さず
堀尾昭子
映画「犬と猫と人間と」を見て
この映画を見て思ったのは、標記の言葉でした。
今、世界は理不尽に満ちています。人為の異常気象による自然、生態系の回復不能の破壊。原子核分裂発見による核兵器、原発の開発、放射能汚染。進化し続けるハイテク兵器による、地球上絶えることの無い、無辜の人々の殺傷等々。科学技術の過剰な進歩と、天をおそれない過信で、理不尽は極限に近いと思えてなりません。そして私たちは、恐ろしい事が現実になってからしか気付かない。
この映画のテーマは、身近にあって、日常の中で行われて見過ごされているけれど、目をこらせばとても残酷で理不尽な事柄─人間の社会で生きて、人間に運命生死を左右される犬猫と、それに関わる人達、不要とされた犬猫の殺処分システム、安易に捨てられる生命などです。2009年制作のこの映画は、市井の一女性稲葉恵子さんが、余命を察した晩年、見ず知らずの映画監督飯田基晴さんに依頼し、私財を提供して作られました。動物福祉に無縁であった飯田さんに「なぜ犬猫なのか」と聞かれて、稲葉さんは、「人間も好きですけど•••動物の方が人間よりましみたい」と答えたのでした。完成をまたずに亡くなられましたが、映画は多くの人たちに感銘を与えました。
日本で飼主が保健所に持ち込み、殺処分された犬猫は、平成23年度183,441頭、薬物注射か、ほとんどは炭酸ガスによる苦しい窒息死です。感情があり、人間以上に苦痛感覚の鋭い犬猫に、日々現場で手を下す行政の職員は、無責任な飼主のシリヌグイをしているのです。持ちこむ人達のほとんどは、少数の例外を除いて衣食足りた人達です。
「いらなくなった」理由は、「引越しをする」「病気になった」「吠える」「老いた」「育てるあてが無いのに生ませてしまった」「ペットショップで売れ残った」など。”人間らしく” “快適に”暮らすために不要と判断されました。動物愛護とは、人間とは、と考え続けてこられた動物福祉のパイオニアの獣医師前川博司氏は、映画の中でこう語ります。「根本的には、人間はあまりにも強欲で攻撃的で、自然を食い荒らして生きているもんだとゆうことですね。それを気にしておさえないと、動物愛護とゆうことは出来ない。業の世界ですね。生活が困窮を極め始めると、動物愛護ってふっとんじゃうんですよね。人間が動物を可愛がるような精神になるには、平和があって裕福にならないと。そこに問題を持ってゆかなければならないですね。動物愛護は、助けるだけと思われているがそうじゃない。動物を管理して、人間生活の中に囲い込もうとすると、片一方で助け、片一方で殺処分する。そうしないと、どうにもそうゆう負の仕事をしないと、失った楽しい生活が出来ない」
ペットは人間の保護が無ければ生きてゆけません。モノ扱いで安易に捨てられた動物たちは、苦しみながら短い生涯を終えます。画面の中、ギリギリのところで、救おうと苦闘するボランティアの人達を支えているのは、人間による他の生命への理不尽に対する深い思いでしょう。
今、人はあまりにも自然、生命への畏敬を見失って、人間が自然を制圧しコントロール出来るものと思っているようです。私の身辺には、真摯な人達は多いのに、経済成長ばかりを大事にするこの国を動かしているのは、ゴミのような人達ばかりです。
「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」
「デンキ開けて 世間暗夜となれり」
田中正造(1841~1913)
「犬と猫と人間と」は、2009年に公開され、現在はDVDで見られます。
(東日本大震災の被災動物を取り上げた「犬と猫と人間と Ⅱ」が現在公開中です)
紀伊國屋書店•全国のDVD取り扱い店•インターネット通販サイト等 www.kinokuniya.co.jp
犬と猫と人間と
ドキュメンタリー映画(出演), 飯田基晴(監督) / 2009年10月10日公開
<内容>
空前のペットブームと言われる中、その影には年間30万頭以上の犬猫が殺処分されているという現実が存在する。長年捨て猫の世話をしてきた女性、稲葉恵子さんは、そんな現状を多くの人々に知ってもらうため、自ら「あしがらさん」の飯田基晴監督に企画を持ち込み、実現したドキュメンタリー映画。
犬と猫と人間と 2 動物たちの大震災
宍戸大裕(監督) / 2013年2月公開
<内容>
ペットブームの影で不幸な目に遭う動物たちの姿にスポットを当てた「犬と猫と人間と」の飯田基晴監督がプロデュースに回り、東日本大震災で被災した動物たちの実態を追ったドキュメンタリー。津波で愛するペットを失った人々、被災後に出会った動物と絆を結ぶ人など、被災地における動物たちを巡る様々な状況をカメラに収めた。
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