高塚門扉通信の30年=私の弁護士キャリアです

弁護士 峯本耕治
30年という高塚門扉通信の歴史は、実は、私の弁護士キャリアと完全に重なります。
私が弁護士になったのが1990年4月で、その直後の7月に高塚高校事件が起こりました。当時、子どもの人権問題に取り組みたいと考えていた私は、子どもの人権問題の取り組みの先駆者で大先輩の瀬戸則夫弁護士に連れられて、高塚高校を調査に行きました。その時の光景が今でも記憶に残っています。「何故、本来、子どもにとって安全•安心の居場所であるべき学校が、居場所を求めて登校してきた生徒を排除し、死亡させてしまったのか」という本質的な矛盾に心が痛みました。同時に、その背景にある、当時の学校教育の特殊な生徒指導文化(今も根強く残っている教育におけるハラスメント文化と言ってよいかもしれません)に大きな疑問を感じました。
それから30年、私は、子どもの人権、特に、学校教育と子どもの福祉の問題に関わり続けてきました。高塚高校事件についても弁護団の一員として、ストレートに教育問題として取り上げる方法がなかったために、行政訴訟という特殊な形で学校教育のあり方を問い続けようとチャレンジしたことも、懐かしく思い出されます。
この30年の間に、子どもを取り巻く環境は大きく変化し、学校教育に関する問題•課題も変化し多様化してきました。近年は、80~90年代と少し形を変えて、いじめ問題と不登校の増加が極めて深刻な問題となっています。学校、家庭、地域社会環境など、原因は複合的ですが、学校の居場所機能が明らかに低下してきている点がたいへん心配です。福祉分野においても、1990年当時はほとんど注目されることがなかった児童虐待問題の深刻さが明らかになり、児童虐待の防止が子どもの福祉の中心になってきました。
この間に、私自身の子どもの人権問題への関わり方も変化してきましたが、学校教育や福祉現場において、様々な子どもや家族、多数のケースに関わる中で、あらためて実感していることは、「子どもの成長発達にとって、愛情•安心•安全の環境が保障されることが、いかに大切か」という点です。家庭の虐待環境•DV、学校におけるいじめや体罰、ハラスメントの問題は、この愛情•安心•安全環境を脅かす最大のものです。
高塚門扉通信には、この30年間、年2回、所さんからの優しくも厳しい(?)催促を受けて、かろうじて原稿を書き続けることができましたが、私自身にとっても、その時々の活動を振り返って記録し、皆さんに、活動内容や問題意識を発信できる本当に貴重な機会となっていました。本当にありがとうございました。
終了は寂しいですが、所さん、支援者の皆様、本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。私自身は、もうしばらく、「子どもの愛情•安心•安全の環境の保障」、「愛情保障と発達保障」をキーワードに、学校教育と虐待防止の問題に取り組んでいきたいと思います。
子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして
清水克之(著), 佐藤拓代(著), 峯本耕治(著), 村井美紀(著), 山野良一(著), 松本伊智朗(編集) / 明石書店 / 2010年2月5日
<内容>
子ども虐待と貧困との関係を乳幼児期から青年期までの子どものライフステージに沿って明らかにする。執筆者のまなざしは、親の生活困難に向けられ、子どもと家族の社会的援助の必要性を説き、温かい。貴重なデータも多数掲載している。
子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて
小林美智子(著), 松本伊智朗(著) / 明石書店 / 2007年12月6日
<内容>
公権力の介入を求めるまで深刻化した子ども虐待。だが介入は虐待防止の切り札といえるのか。2005年の日本子ども虐待防止学会シンポジウムの記録を基に編まれた本書は、日英の経験をふまえ、虐待を防ぐために本当に必要な「ケアする社会」を構想する。
スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信
山野則子(編集), 峯本耕治(編集) / ミネルヴァ書房 / 2007年8月1日
<内容>
はじまったばかりのスクールソーシャルワーカーの活躍を描く。スクールカウンセラーや養護教諭とともに様々な問題に悩む親子に、社会的問題を含めて解決にあたる事例を紹介します。今までにない児童生徒へのアプローチに非常な関心がもたれています。
子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題
峯本耕治(編集) / 明石書店 / 2001年12月12日
<内容>
先進的なシステムをもつイギリスの児童虐待防止制度の詳細と、実際の運用状況を具体的に紹介する。ライン等も示し、問題点にも触れる。
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