社会

スマホ•LINEと子どもたちの世界

弁護士 峯本耕治

 スマホのLINEを使っておられますか。LINEは、今の子どもたちの中心的なコミュニケーション手段となっていて、子どもたちの友人関係のあり方や、少し大げさに言うと、子どもの成長•発達にも、大きな影響を与える存在となっています。学校や保護者が、いじめ問題に取り組む上でも、LINEに関する知識が不可欠になっています。簡単なものになりますが、LINEによるコミュニケーションの特徴や問題について、紹介します。
 LINEは、スマホを使って、電話番号を知っている人たちがつながって無料で通信ができるアプリケーションで、1対1の通信のほか、3人以上、最大100名までのグループチャットが利用できます。パケット通信を利用したインターネット電話なので、パケット通信定額制に加入していれば無料で利用できるのが大きな特徴で、たとえば、子ども、大人に限らず、親しい友人グループ、同じ趣味の仲間、部活の仲間、同じ趣味の仲間同士など、色々なグループを作って、グループチャットを利用しています。昨年の時点でも、世界で2億人、日本でも4500万人が登録。クラブ活動等にも利用でき、今の子どもたちにとってはなくてはならない便利な存在となっています。
 このLINEによるコミュニケ~ションには、様々な特徴があります。何よりも、メッセージの発信が非常に簡単で、送信すると通信相手(グループチャットであれば、グループの全員)のスマホの画面に吹き出しが表示され、メッセージを読むことができます。返信すると、直ちに
、それも画面に表示されますので、一連の会話がスマホ画面において一覧できて、実際の会話のようなテンポでやりとりが進んでいきます。そのため、ケータイメール以上に、なかなか会話を終了させることができない心理状態に陥りやすく、特に、グループチャットになると、次から次へとメッセージが送信されてくるので、それへの対応に追われる状況になります。しかも、送られてきたメッセージを読むと、相手画面に「既読」と表示されるため、「すぐに返信しなければ」という心理に陥りやすく、実際に、長時間にわたって、返信がこないと不安になってしまいます。グループチャットにおいても、「既読表示」がでるため、会話についていくことに必死になり、スマホから手を離せない状況になってしまいます。一人の子どもが数件のグループチャットに入っているのが一般的で、一人で、10~20以上のグループチャットに参加していることも少なくありません。そうなると、一日数百件のやりとりが行われることも珍しくなく、一日中、スマホを見ていなければならないなど、容易にスマホ依存の状況に陥ってしまいます。少し前の調査ですが、厚生労働省の調査で、ネットの病的使用の中高生が8.1%(約51万人)で、大人の約4倍という調査結果が発表されていましたが、スマホ、LINEの浸透により、子どものネット依存率は、どんどん高くなってきているのではないかと思われます。
 もう一つの大きな特徴は、LINEによるコミュニケーションは、短い文字やスタンプ(絵文字のようなもの)だけの会話であるため、誤解が生じやすく、些細なことが大きなトラブルにつながりやすくなっています。軽い気持ちでの発言や、やりとりの中で、一人から悪口や攻撃的なメッセージが始まると、他の子どもたちは、無視することもできず、それに軽く応じてしまうなど、抑制力が働かず、簡単にエスカレートしてしまいます。また、メッセージと共に、スマホで撮影した写真や動画の送信も、たいへん簡単なので、グループチャットに一人の子どもが気軽に送った写真や動画が、複数のグループチャットを通じて、全くの知らないところに、簡単に回ってしまうようなトラブルが頻発しています。
 このようなLINEのコミュニケーションの特徴から、いじめ問題についても、①「既読無視」を理由とする「LINEはずし、ブロック」など、安易に、攻撃、無視•阻害等のいじめ的関係が生まれやすい、②帰宅しても友人関係から解放されず、まさに24時間、やめたくても、やめることができない関係におかれてしまう、③グループチャットの中で、無視することもしにくく、結果として、傍観者はいなくなり、自然に全員が加害者になってしまう、④一人が発信した悪口や攻撃的なメッセージや無視することの提案に対して、他の子どもが軽く応じてしまうため、ブレーキがかかりにくく、エスカレートしやすい、⑤LINE依存が進む中で、LINE世界で居場所を求める子どもたちが、その居場所を失うことを恐れ、危機感から「造反者」等を攻撃し、集団意識等も手伝って、暴力的な行為等にも発展しやすい(集団による殺人事件まで発生しています)、⑥写真や動画が簡単に送信できることによって、性的な写真等が広く出回ってしまうなど、取り返しのつかない状況が生まれやすい、⑦親や教師などの大人に、より一層見えにくく、いじめの実態を把握しにくい等の困難な特徴や問題が見えてきています。
 今となっては、子どもたちの世界から、LINEを取り除くことは不可能ですが、少なくとも、子どもたちに対して、家庭や学校において、前述のような、LINEによるコミュニケーションが持つ特徴や陥りやすいリスク、いじめのリスク等を具体的に説明し、子どもたち自身に使い方を考えさせ、ルール作りをさせる等の予防的取り組みが不可欠な時代となっています。


子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして

清水克之(著), 佐藤拓代(著), 峯本耕治(著), 村井美紀(著), 山野良一(著), 松本伊智朗(編集) / 明石書店 / 2010年2月5日
<内容>
子ども虐待と貧困との関係を乳幼児期から青年期までの子どものライフステージに沿って明らかにする。執筆者のまなざしは、親の生活困難に向けられ、子どもと家族の社会的援助の必要性を説き、温かい。貴重なデータも多数掲載している。


子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて

小林美智子(著), 松本伊智朗(著) / 明石書店 / 2007年12月6日
<内容>
公権力の介入を求めるまで深刻化した子ども虐待。だが介入は虐待防止の切り札といえるのか。2005年の日本子ども虐待防止学会シンポジウムの記録を基に編まれた本書は、日英の経験をふまえ、虐待を防ぐために本当に必要な「ケアする社会」を構想する。


スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信

山野則子(編集), 峯本耕治(編集) / ミネルヴァ書房 / 2007年8月1日
<内容>
はじまったばかりのスクールソーシャルワーカーの活躍を描く。スクールカウンセラーや養護教諭とともに様々な問題に悩む親子に、社会的問題を含めて解決にあたる事例を紹介します。今までにない児童生徒へのアプローチに非常な関心がもたれています。


子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題

峯本耕治(編集) / 明石書店 / 2001年12月12日
<内容>
先進的なシステムをもつイギリスの児童虐待防止制度の詳細と、実際の運用状況を具体的に紹介する。ライン等も示し、問題点にも触れる。



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