高校生の生き方

弁護士 平栗勲
1 夏の風物詩である甲子園球場での夏の高校野球が終わった。今年で88回の歴史を数える高校野球は我が国でも歴史と伝統に支えられたスポーツの一つとなっている。豊中の自宅近くにある公園(高校野球の前身である中等野球大会が最初に実施された豊中球場跡地)には「球史ここに始まる」というレリーフが刻まれている。心魂を傾けた熱闘を見るとひたむきな高校生の姿が目に焼き付き、ときに目を潤ませる光景にも巡り合わせる。特に今年は32年ぶりという15回延長戦のうえ決勝戦再試合が行われた。早稲田実業の斉藤投手と駒大苫小牧の田中投手との投手戦は感動的ですらあった。このような清々しい高校生の姿を見せられる一方で、医学部進学を運命づけられ、そのストレスのなかで追いつめられ、自宅に放火し母親と弟と妹を殺害するという痛ましい事件も発生している。
2 いずれも多感な時期の高校生であり、ある意味では厳格に管理されてきた高校生達であろう。高校野球の頂点に立った少年達は厳しい指導者のもとで日常生活も含めた指導管理がなされ、日夜の鍛錬を乗り越えてきた生徒達であろう。また親殺しという終生の汚名を受けることになった生徒も、報道によれば、医師である父親の厳格な生活指導と成績管理のもとで生活してきたようである。いずれも高校生に対する指導と管理のあり方が関わっている。ひるがえって自分の高校時代を振り返ってみると、安保闘争という全国的な紛争があり、日夜、新聞報道がなされ、地方の高校に通っていた私も胸を躍らせたものである。高校生は、大学受験を控えて難しい時期にあるが、なお少年から青年に脱皮していく時代であり、何かしら新しい希望に胸をふくらませ、自己を引きつける何かを追い求めている。高校野球は野球の好きな少年がスポーツとしての野球をしたいという自主的な願望があるからある程度の指導管理には耐えられよう、しかし自己の意思を越えた強制的な指導管理に対しては強く反発し、殺人事件にまで発展することもある。最近の報道を見ると、新しい自民党の有力総裁候補者は「美しい日本」を創るとかいって教育のなかで愛国心を重要な柱にすると述べているそうである。ここで強制される愛国心は憲法改正問題とも並んで極めて重大な問題を含んでいる。とうてい多感な高校生に夢と希望を与えるようなものではない。まさに一方的な思想により管理された社会を創ろうとしていることは明らかである。高校1年生の夢と希望に溢れた時期に、学校管理のもとで、心ならずも門扉に挟まれて死亡した石田僚子さんはこのような時代を天国でどのように見ているのかと考える今日この頃である。
僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実
草薙厚子(著) / 講談社 / 2007年5月22日
<内容>
2006年に起きた奈良自宅放火母子3人殺人事件を取材したノンフィクション書籍。奈良自宅放火母子3人殺人事件とは、16歳の少年が自宅に放火して自宅を全焼させ、継母と異母弟妹を焼死させた事件。裁判所は、事件の根本的原因は少年の父(少年の実母である妻に対する身体的または精神的なドメスティックバイオレンス、少年に対する身体的または精神的な児童虐待の常習者だった。)の考え方や言動が少年を精神的に追い詰めて、その状況に精神的に耐えられなくなった少年がその状況から脱出しようとして放火したものと認定し、少年の更生には刑事処分よりも保護処分が適切と判断し、少年を中等少年院に送致する処分を決定した。
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