小学生の暴力が増えているのは?

弁護士 峯本耕治
先日、お知らせした近畿弁護士連合会の人権シンポの決議案や報告書の期限が近づいているため、その会議で休みが全てつぶれてしまい、平日の夜は夜で事件の書面書きに追われています。
さて、先週の新聞で、小学校の校内暴力が急増しているとの報道がされていました。去年も同じような報道がありましたので、かなりの増加傾向が続いているようです。私も、色々なケースにかかわる中で、そのことを感じています。思いつく原因や背景を挙げてみたいと思います。
一つは、親子関係において情緒的な愛着が不足していると感じる子ども、寂しさを抱えている子どもが、少し増えてきているのではないかということです。ネグレクトがその典型ですが、そこまでいかなくても、経済的な理由から生活するのに一杯いっぱいで、子育てにエネルギーを向ける余裕がない家庭も増えてきています。親自身の未熟さや子育てスキルの不足も原因になっています。情緒的な愛着不足から、なぜ、暴力が増えるのかということですが、情緒的愛着不足は、集団教育の中では、まず、落ち着きの無さという形で現れることが一般的です。授業中立ち歩く、先生にまとわりつく、すぐにちょっかいを出す。当ててもらえるまで手を挙げ続ける等です。簡単なことで、愛着不足の裏返しとして愛情要求が強くなり、「もっと大切にしてほしい」、「自分の方を向いて欲しい、かまって欲しい」というメッセージが、落ち着きの無さという形で現れるのです。このような落ち着きのない子どもは、学校の中では、あまり誉められることがなく、注意や指導の対象となりがちです。教師側からするとある程度やむをえない面があるのですが、愛情要求であることを気づいてもらえず、それに応えてもらえないまま、注意や指導が繰り返されていると、子どもの自尊感情や教師•大人への信頼感が低下していきます。子どもが、教師との関係においても、「大切にされている」という「つながり」感をもてない関係が生まれていきます。自尊感情と信頼感の低下は、当然の流れとして、子どもの反発を生みます。そして、更にそれが続くと、攻撃性が生じるようになっていきます。これが、落ち着きの無さから、問題行動にエスカレートしていく典型的な悪循環パターンです。今、小学校の低学年から中高学年にかけて、この悪循環パターンにはまっている子どもが少し増えてきているように感じます。
二番目は、子どもたちの対人関係能力が、かなり低下してきていることです。その原因としては、親のしつけ力の低下の問題と共に、幼い頃から友達と群れあって遊ぶ機会が激減していることが大きな原因になっていると思います。道路や空き地等の遊び場所がなくなってしまったこと、塾や習い事に追われ、子どもたちの生活が忙しくなっていること、ゲームという刺激の強い遊びができてしまったこと等、様々な変化が背景にあります。子どもは、友達との遊びの中で多様な体験を積みます。言いにくいことの伝え方、怒りやストレスの表現やコントロールの仕方、喧嘩の仕方、仲直りの仕方、喧嘩をしても、友達関係が終わるわけではないことの実感、合わない友達との付き合い方、適当な距離の置き方、傷つきからの立ち直り方。この友達との群れあい遊びの機械の激減は、対人関係能力を育む機会を失わせ、切れやすかったり、感情をコントロールしにくい子どもを増やしていると思います。
三番目は、幼い頃からの、子どもたちのストレスの高さです。生活面での忙しさ、勉強等のプレッシャーに加え、友人関係におけるストレスも大変大きくなっています。いじめの一般化と言ってよいかも知れませんが、子どもたちの人間関係が、友人の評価を極端に気にする、気遣いの多い人間関係になってきています。そのようなストレスの高い関係の中では、連帯感を育みにくく、ストレスが暴力的な形で発散されたり、暴力等の力によって人間関係がコントロールされることも多くなります。
四番目に、ゲームによる影響も無視できないものがあります。特に、男の子はゲームに費やす時間が長くなっています。ゲームにも色々なものがありますが、暴力的なものが少なくありません。ゲームからの暴力の学びは無視できないものとなっています。また、それだけでなく、いわゆる「ゲーム脳」の問題も指摘されています。前にも紹介しましたが、ゲームのしすぎによって、感情のコントロールや理性的判断をつかさどる前頭葉が発達しない危険性が指摘されているのです。科学的な立証がされているわけではなく、反対意見もありますが、あまりに難しく考えなくとも使っていない機能は発達しないものですから、私は脳の発達にも少なからず影響が生じていると思っています。
ほかにもあるかも知れませんが(多分、今の時代的雰囲気?も影響しているように思いますが)、このような色々な要因が重なって、小学校時代からの暴力の増加につながってきていると思います。
では、どうすれば良いかということですが、結論からいうと、上に挙げた原因に対して、少しずつでも手立てを講じていくしかないのだと思います。これまでは普通の環境の中で、学んできたことが学べなくなっているのであれば、意識的な学びの機会を作っていく必要があります。また、ゲーム等から誤った学びをしてしまう危険性が高いのであれば、それをコントロールし、よりまともな情報を子どもたちに積極的に伝えていく必要があります。
そして、より根本的には、暴力の背景には、自尊感情の低下と人への信頼感の低下があることが一般的です。子どもたちの自尊心を高め、信頼感を育む取り組み、関係作りを積極的にしていく必要があると思います。
実は今回は、この小学校における暴力の増加の問題と比較する形で、去年から相次いで発生している、子どもの親殺しの問題について書こうと思っていたのですが、紙面の問題と共に、もう仕事に出かけないといけない時間になってしまいましたので、諦めて、次回以降にします。すいません。
それから、前回、書きました不登校の原稿に関して御意見をいただき、ありがとうございました。今、11月17日のシンポに向けて、報告書作りなど、必死になって準備しています。11月17日のシンポは自由参加となっています。場所は、明石の手前の「舞子ビラ」です。ぜひ、ご参加ください。
子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして
清水克之(著), 佐藤拓代(著), 峯本耕治(著), 村井美紀(著), 山野良一(著), 松本伊智朗(編集) / 明石書店 / 2010年2月5日
<内容>
子ども虐待と貧困との関係を乳幼児期から青年期までの子どものライフステージに沿って明らかにする。執筆者のまなざしは、親の生活困難に向けられ、子どもと家族の社会的援助の必要性を説き、温かい。貴重なデータも多数掲載している。
子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて
小林美智子(著), 松本伊智朗(著) / 明石書店 / 2007年12月6日
<内容>
公権力の介入を求めるまで深刻化した子ども虐待。だが介入は虐待防止の切り札といえるのか。2005年の日本子ども虐待防止学会シンポジウムの記録を基に編まれた本書は、日英の経験をふまえ、虐待を防ぐために本当に必要な「ケアする社会」を構想する。
スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信
山野則子(編集), 峯本耕治(編集) / ミネルヴァ書房 / 2007年8月1日
<内容>
はじまったばかりのスクールソーシャルワーカーの活躍を描く。スクールカウンセラーや養護教諭とともに様々な問題に悩む親子に、社会的問題を含めて解決にあたる事例を紹介します。今までにない児童生徒へのアプローチに非常な関心がもたれています。
子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題
峯本耕治(編集) / 明石書店 / 2001年12月12日
<内容>
先進的なシステムをもつイギリスの児童虐待防止制度の詳細と、実際の運用状況を具体的に紹介する。ライン等も示し、問題点にも触れる。
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