イギリスでの電車乗り越しには気をつけよう
これらの例からわかる、もう一つの違いが、コストに対する意識の違いです。
イギリスやヨーロッパの地下鉄・鉄道が前に紹介したようなやり方を採用しているのは、ルールに対する意識の違いだけでなく、その方がコストが安いと判断しているからです。無賃乗車の取締のために、改札口に人や機械を細かく配置して改札でのチェックを確実にするよりも、発見した時に厳しいペナルティを科す方が金がかからない、という判断が、そこにあると思われます。
このコストに対する意識の違いは、イギリス生活における色々な場面で感じました。
前に紹介した体罰禁止の決定的なきっかけが「損害賠償額が無視できなくなった」という現実的理由であったのも、大変、イギリスらしさを感じます。
それ以外にも、例えば、刑事手続や刑事政策を決定・改革する上でも、コストが大変重要なファクターであると考えられています。
イギリスでは、犯罪者一人あたりの逮捕・勾留・取調の費用、裁判の費用、刑務所収容の費用等のコストが常に計算され、意識されています。その上で、どのような刑事手続や刑事政策を採用するのが、最もコストが安くて再犯防止効果が高いかという観点からの試行錯誤が繰り返し行われているのです。
日本の警察は、被疑者が認めている事件・無罪を主張している事件・軽微な事件・重大な事件等を、ほとんど区別せずに、全てについて同じような細かい取調べ調書を作成します。裁判において被疑者が認めることが明らかな事件について、警察官が膨大な時間をかけて調書を取り、しかも、それが日本全国で同じように行われているわけで、誰が考えても大きな無駄があります。それによって、日本の警察官は事件に追われる大変忙しい毎日を送り、もっと慎重に調べなければならない事件や、迅速に捜査しなければならない事件の捜査がおろそかになっているわけです。
もう少しコストの意識があれば、このような不合理なやり方はとっくに変わっていたはずです。
また、イギリスには、日本で近年大きな問題になってきている児童虐待問題に関する、大変洗練されたシステムがありますが、現在、このシステムについても大きな改革が行われようとしています。これまでのシステムは既に発生した虐待問題の発見や事後的な対応に主眼があったわけですが、今回の改革では、事後的な対応と共に、児童虐待を防止するための家族サポートが重視されています(詳しくは、別の機会にご紹介したいと思います)。
これまでのシステムの運用に要したコストと効果等に対するリサーチが様々な角度から行われ、事後的な対応よりも、事前予防にお金をかける方が、費用対効果が高いと判断されたことが改革の理由です。
このコスト意識は、イギリスの制度を現実にあわせて合理的なものに改革していく上で、重要な役割を果たしています。
もう少しコスト意識があればと思うことが、日本の場合、本当にたくさんありますね。





