住吉川の鳥

公庄れい
くらしのきもの資料館に関する仕事が増えてどうしても神戸暮らしが多くなってしまうので、すこし運動しなければと思って住吉川の両岸に作られている歩道を時々歩いている。白鶴美術館から百メーターほどの所に川岸へ降りる道があり、朝夕は犬の散歩で賑やかだが、今回歩いてみて鳥の多いのに驚いた。
六甲山から流れ出る自然の水は冬のことでもありごく僅かなものである。阪急電車の鉄橋から一キロほど上流に橋があり、そのまたすこし上流の左岸から大きな鉄管でうつくしい水が川にそそがれている。多分水道水だと思うカルキのつよい匂いがする。その水を得て住吉川はようやく川の体裁を整えているかに見える程のつつましい水量である。
そんな川に野鳥が来ているとは予想もしていなかったが、中州に草がしげり流れが少し淀んでいるところに二羽の鴨のような鳥がいて草の根をつついている。全体に茶色っぽい羽根の間からコバルトブルーの羽根がちらっと見える。足は黄色で二羽の体はほとんど同じくらいの大きさだがカップルのようである。
川下へどんどん歩いていくにつれてあちこちの淀みに二羽、三羽、四羽と泳いでいる。立ち止まってよくよく川をみるが魚らしいものは愚か、沢蟹の姿もない。三年ほど前に歩いたときには、国道二号線のあたりから川下には、川蜷がびっしりと川床を覆っていたが、その貝もチラホラといった感じでしかいない。本当に何を食べているのかしらと心配になってある時麩をもっていって撒いてやったが一向に食べようとしない。口に入れてもすぐ吐き出してしまう。
諦めて歩いていると、対岸を川下から上ってきたおじさんが何かを撒いている。鳥はすぐに集まってそれを食べているので私は大声で「何をやっているんですか」と聞くとパンですということだった。パンと麩とどこが違うのか鳥に聞いてみたいものである。
白鶴美術館の西隣に徳本寺という小さいお寺がある。私が現住所の住吉山手(当時は赤塚山)に来た四十年ほど前には、おとぎ話に出てくるような老いたお坊様が住職をしておられた。その方が小僧さんの頃には住吉川の水を引いて酒米をつく水車が何十もあり、現在の鴨子ケ原のあたりには大きな沼があって鬱蒼と木が茂り怖いような所だったといわれた。そんな所だった名残が地名に残っているのだろうか。二十年ほど前までは私の家のまわりでも雨の降った後など沢かにではない大きな蟹が這っていたり亀が出てきたりしていた。
そんな水の豊かだったこのあたりの記憶を鳥たちはDNAに取り込んでいるのだろうか。ある日阪神線が川をまたいだ所から少し川上をあるいていると、川の中心線を下から上にエメラルドグリーンの鳥が飛んだ。大急ぎで追いつくと川の中州に生えた木に一羽の鳥がいた。背中はグリーンでおなかは明るい茶色、カワセミがこんな所にと驚く私を待っていたように又飛ぶ。そして次の中州で私を待っていてくれたがそこから見失ってしまった。が、数日後同じところで見かけたので彼(どうしてか彼なのである)はこの川に棲みついていてくれているらしいのである。けなげで痛ましい彼や彼女に私は云うべき言葉を持っていない。
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