エッセイ

日韓併合の秋に

くらしのきもの資料館 公庄れい

 この度、当館では、お隣朝鮮半島の人達のくらしと文化の一端を、布を切り口として窺ってみました。
 在日おばさん達の白い朝鮮服姿を目にした記憶のある人も多いと思いますが、今回協力をお願いした在日の方たちの殆どは、もう晴れ着としてのチマチョゴリしか持っておられませんでした。例外として、物を捨てるのが大嫌いとおっしゃる大阪生野在住の八十才ほどの夫辛花(プ•シナ)さんが大量の衣料をご寄贈下さった中に、白い麻のチマチョゴリ、白木綿のチョゴリ、ふだん用にはき古した化繊のパジがありました。
 韓国からの留学生、田恩伊(チョン•ウニ)さんが偶々お家の近くのお寺のお坊様から貰ってきて下さった化繊の鼠色の作業着は、着古されシミもつきボタンも一つ取れているが、丁寧な洗濯がされてきたのが窺え、お坊様の規則正しい日常がしのばれる品でした。
 京都•高麗美術館の山本俊介さんは、ご所蔵のポシャギの中から逸品の六点と古い綿入れヌビ(刺し子)のチョゴリを貸して下さいました。人間業とは思えない精巧繊細な刺し子の技術、布を接ぎ合わせる技術と洗練された色彩感覚とどんな小さな布も活かす心に打たれます。
 京都の高康浩(コ•カンホ)さんが寄せて下さった済州島の農民の帽子は、チョンドンという蔓性植物で編まれていますが形も色も編み方も素敵で日本の麦藁帽子とは大違い、こんな洒落た帽子で畑仕事をするのかと驚きます。
 朝鮮半島の人達の日常の衣装や道具の中に当たり前に使われている、刺す、縫う、繍う、編む、結ぶ技術の確かさ、どんな鮮やかな色使いもくどくならない透明感のある色彩などに、五百年続いた朝鮮王朝の宮廷の中で、より美しくより精巧にと練り上げられて来た文化の影響を感じずにはいられません。
 今回は日本の布でポシャギを創っておられる吉岡治子さんの作品も展示させて戴いておりますので、両国の布文化の違いをご覧いただけます。
 大阪の金英姫(キム•ヨンヒ)さん、伊弥生(ユン•ミセン)さん、神戸のキム•シニョンさんにもご協力いただきました。
 二◯一◯年九月八日、この展示を始めた日、庭の木々は昨夜の雨に洗われ、開け放った古い日本家屋に風が吹きとおり、色鮮やかなチマチョゴリ、モダンアートのようなポシャギ、艶やかな紅布や錦紗、二つの国の布が揺れています。

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