教育

大阪でスクールロイヤー制度がスタートします

弁護士 峯本耕治

 スクールロイヤーってご存知ですか?日本では余り馴染みのない言葉ですが、簡単に言えば、スクールソーシャルワーカーが学校をサポートする福祉の専門家であるのに対し、スクールロイヤーは学校をサポートする弁護士のことです。
 「学校をサポートする」と言っても、いわゆる学校や教育委員会の代理人として、学校の利益を一方的に代弁したり、擁護したりする存在ではありません。あくまでも、学校をサポートすることを通じて、「子どもの最善の利益」や「子どもの成長発達を保障することができる学校環境」を実現することを目的とする存在であり、第三者性を持った専門職サポーターです。
 これまでも何度かご紹介していますが、私が代表を務めているNPO法人TPC教育サポートセンターは、1999年に設立(TPC教育サポートシステム研究会としてスタート)されたのですが、設立当初から、①学校現場において子どもが抱える様々な問題や心配な症状の背景•原因には様々な福祉的問題•環境的要因が存在するので、学校•教師が子どもの問題行動等に表面的•対処療法的に対応するのではなく、福祉的視点•スクールソーシャルワークの視点を入れたアセスメント(問題行動等の背景•原因の見立て)とそれに応じたプランニング(総合的な対応プラン)に基づいて合理的に対応する必要があり、そのために、学校へのアセスメント•プランニングスキルの導入をサポートする、②ケース会議の積極的活用など校内チーム体制作りをサポートする。③児童相談所や市町村の要保護児童対策地域協議会など、関係機関との効果的な連携システム•関係作りをサポートする、更に、専門職による学校サポートシステムとして、④教育─福祉の専門職であるスクールソーシャルワーカー(SSW)を導入すること、⑤法律•司法福祉の専門職として、スクールロイヤーを導入すること等を活動目標の柱としてきました。
 このうち①~③については定例会や研修会の開催、コーディネーターや講師の派遣等を通じて地道な活動を続けていますが、④のスクールソーシャルワーカー(SSW)については、2005年に都道府県での本格的導入としては全国で初めて、大阪府教育委員会においてSSW事業がスタートしました。TPCから4名のスーパーバイザーを出し、スクールソーシャルワーカーの人選もTPCで行うなどTPCと府教委が一緒に事業を立ち上げました。そして、ご承知のとおり、2008年には文部科学省による全国的なSSW活用事業が始まり、スクールソーシャルワーカーは、スクールカウンセラーと並んで、専門職による学校支援として、教育現場に確実に根を下ろしつつあります。
 そのような中で、TPCのもう一つの目標であった⑤スクールロイヤーについても、このたび、大阪府教育委員会において、スクールロイヤー制度が試験的に実施されることになりました。
 学校と弁護士との連携については、過去10年間の間に府教委や市教委のサポートチームなどの活動を通じて、既に実績を重ねてきているのですが、ここ数年、モンスターペアレント(この言葉自体は妥当なものではありませんが)という言葉に象徴されるように、学校における保護者対応が困難化し、教師や教師集団が疲弊して精神的につぶれてしまったり、学校と保護者の対立関係の中で子どもが不登校になったまま事実上放置されてしまうなど、子どもの最善の利益が脅かされるような事態も珍しくなくなっています。また、対応が難しい学校事故も増加し、深刻な暴力ケースや非行ケースなど司法機関や福祉機関との適正な連携が求められるケースも増えてきています。そのような中で、弁護士に対するニーズも大変高まっており、私自身も最近では週に1~2回のペースで学校や教育委員会の相談を聞かなければならないというような状態になってきました。
 そこで、弁護士側の受け皿体制を充実させることを含め、本格的な制度として位置づけていく必要があるのではないかということで、府教委との協議の結果、このたび、あくまでも試験的な導入ということですが、スクールロイヤー制度としてスタートすることになったものです。限られたものですが予算も確保された制度です。
 最初は、市町村教育委員会の指導主事、学校管理職、生徒指導主事らに弁護士事務所に来てもらって相談を聞き、必要に応じて、学校等におけるケース会議、機関連携のケース会議等に出席したり、学校で研修を行うなどのサポート活動を行うことになると思われます。
 現段階ではどれくらいのケースがあがってくるのか、私たち弁護士がそのニーズに十分に応えることができるのか、どんな課題や問題が生じてくるのか等も全く判りませんが、SSWと同様に、確実に定着させ、少しずつでも広げていくことができればと思っています。
 このスクールロイヤー制度の試験的導入にあたり、TPCの主催で、11月3日(木•文化の日、時間:13時30分~16時30分、場所:新大阪丸ビル新館405号室 大阪市東淀川区東中島1丁目18番27号、参加費:非会員500円)に「スクールロイヤー制度について考える」というテーマでシンポジウムを行います。私がコーディネーターをつとめ、パネリストに府教委児童生徒支援課主席指導主事の中野澄さん、茨木市教委学校教育推進課参事の加藤拓さん、弁護士の三木憲明(TPC理事)さんに来ていただきます。よろしければご参加ください。


子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして

清水克之(著), 佐藤拓代(著), 峯本耕治(著), 村井美紀(著), 山野良一(著), 松本伊智朗(編集) / 明石書店 / 2010年2月5日
<内容>
子ども虐待と貧困との関係を乳幼児期から青年期までの子どものライフステージに沿って明らかにする。執筆者のまなざしは、親の生活困難に向けられ、子どもと家族の社会的援助の必要性を説き、温かい。貴重なデータも多数掲載している。


子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて

小林美智子(著), 松本伊智朗(著) / 明石書店 / 2007年12月6日
<内容>
公権力の介入を求めるまで深刻化した子ども虐待。だが介入は虐待防止の切り札といえるのか。2005年の日本子ども虐待防止学会シンポジウムの記録を基に編まれた本書は、日英の経験をふまえ、虐待を防ぐために本当に必要な「ケアする社会」を構想する。


スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信

山野則子(編集), 峯本耕治(編集) / ミネルヴァ書房 / 2007年8月1日
<内容>
はじまったばかりのスクールソーシャルワーカーの活躍を描く。スクールカウンセラーや養護教諭とともに様々な問題に悩む親子に、社会的問題を含めて解決にあたる事例を紹介します。今までにない児童生徒へのアプローチに非常な関心がもたれています。


子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題

峯本耕治(編集) / 明石書店 / 2001年12月12日
<内容>
先進的なシステムをもつイギリスの児童虐待防止制度の詳細と、実際の運用状況を具体的に紹介する。ライン等も示し、問題点にも触れる。



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