不登校だったから (詩)

神戸フリースクール 田辺克之
不登校だったから
いのちが救われた
死なずにすんだ
恋もでき結婚もした
子どもも産まれた
不登校だったから
日常の雑事に追われながらも
いまを生き楽しんでいる
不登校になって
人をうらみ
産まれてきたことを呪った
毎日がどんよりして
ココロはいつもやみだった
話すことも歌うこともなく
ブツブツつぶやいて
頭のネジがはずれたみたいで
なにも感じなくなって
味覚さえおかしくなって
なにもかもいやになった
不登校になって2年半
なんの意味もない毎日
ただただ過ぎていく
人の声や大きな物音がこわくて
いつも部屋にカーテンをおろし
マンションの階段をのぼる足音に
びくついていた
息をひそめ自分の存在を
一瞬消したいと思った
今日も明日も同じ色で
くるくるくるくる空回り
今日が何曜日なのか
興味がない
ニュースでウイルスのことが
大きく取りあげられている
外に出ないボクには関係ない
でも桜のおとずれを告げる
天気予報士さんの明るい顔を
見ていて急に、ほんとに急に
宇治川の川ベリの
桜がみたくなって
まるでからくり人形のように
カタカタ動いて
ひさしぶりに靴をはいた
シューズのサイズが縮んだみたい
大きなマスクをして
帽子を目深にかぶり
まるで犯罪者か変質者のように
街路樹で自分をかくしながら
こそこそ歩いていた
でも桜にであって
光のあたる花びらが風にゆれて
ボクにかたりかけたような
あのときなにかがボクの体の中を
走りぬけた、倒れそうになった
あ~ボクは
いま不登校から抜け出せたと思った
あのなんでもない桜情報に
自然に体が動き出したのだ
まだまだ何年も同じ生活が
続くものと思っていたのに
マスクをはずし深呼吸してみた
もうひきこもる生活を終わりにしても
いいですかと、誰かに叫びたかった
不登校だったから
いま、なにもかもが新鮮で
よろこびがこみあげて
ひとり笑顔になっている
不登校の時間は長かったようで
一瞬のような気もする
不登校だったから味わった
にがい思いは消えたわけではない
けれど
トンネルをぬけた快感と
ちゃんぽんにして
いまを生きている
結婚して子どもが産まれて
毎日出勤のときネンネコに
息子をくるんで
会社の近くの保育園に
送っていく
あわただしい毎日に追われて
不登校だったあのときの時間を
返してほしいとさえ思う
でもあれはあれでよかったんだと
勝手に解釈している
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