定時制高校 青春の短歌 その⑤

兵庫県立神戸工業高校 南悟
定時制高校には、さまざまな障害を持った生徒もたくさん学んでいます。競争原理だけでは計れないいろんな価値観があるように、それぞれの居場所もあるのです。
うにくらげの歌
「定型」にこだわる私の予想をはるかに越えて、定型にとらわれない自由な発想の歌が生まれてきます。当の生徒は、五七五七七に、指折りしながらどうにかして折り込もうと、ケシゴムで消しては書きしながら作っているのですが、訴えたいこと、書きたいことが多くあるからなのでしょう、どうしてもはまり切らないのです。
うにくらげ中華くらげ帆立山菜子持ちさざえいくらいか黄金数の子くらげうに
くぎ煮塩抜きくらげふくろづめしておせいぼでいそがしい 杉山亮
このように三年生の杉山君が詠みました。海産物の工場で働く、歳暮準備に追われる仕事の様子です。漢字の苦手な生徒ですが、自分の仕事に関するものなら難しくても覚えているのです。
知的な障害を持つ山本君が初めて詠みました。
自分はらくなとかんがえることしか考えてません
まほの力でつけるんをよく神様ゆうことをきく 山本準
風ひらひらと学校へくる
ニッカボッカみながはいているからかっこいい風ひらひらと学校へくる 小林英二
知的な障害があり、他人とのコミュニケーションをとるのが難しい生徒です。そのため仕事には就けていませんが、毎日休まず学校に来ます。
この歌は、三句まではすらすら書けましたが、四句目で鉛筆が止まってしまいました。「ニッカボッカのズボンでどんなふうに学校へ来るの?」と聞くと、長い沈黙の末に、「風ひらひらやねえ」と答えてくれました。
仕事に就けない小林君が、ニッカボッカへのあこがれを持てるほど、夜間定時制高校での作業着は日常の風景として溶け込んでいるのです。
校舎の中はいつも明るい
夜学校まわりはいつも暗いけど校舎の中はいつも明るい 山里政治
中学校は不登校のために半分くらいしか行っていませんが、定時制高校ではほとんど休んでいない寡黙な少年です。中学校に行かずに、近所の模型店に出入りしてヨーヨーのスーパーテクニックを身につけ、神戸を代表するほどの腕前です。
中学校では友達の出来なかった彼ですが、定時制高校では、そのヨーヨーの腕前にまわりのごんた連中も「ヤッチャン」と愛称で呼ぶなど打ち解けています。人とのコミュニケーションをとるのが苦手なために、仕事には就いていませんが、最近ゲームのスロットに熱心で小遣いと学費はゆうゆう稼げるようになっています。
生きていくための短歌 (岩波ジュニア新書 642)
南悟(著) / 岩波書店 / 2009年11月21日
<内容>
昼間働き夜学ぶ、定時制高校の生徒たちが指折り数えて詠いあげた31文字。技巧も飾りもない、ありのままの思いがこめられている。働く充実感と辛さ、生きる喜びと悲しみ、そして自分の無力への嘆き。生き難い環境の中で、それでも生き続けようとする者たちの青春の短歌。
ニッカボッカの歌: 定時制高校の青春
南悟(著) / 解放出版社 / 2000年5月1日
<内容>
失敗や挫折や障害が癒され、人として生きる力が与えられる定時制高校の生徒たちの短歌、作文を紹介。NHKドキュメンタリー番組で放映。
定時制高校青春の歌 (岩波ブックレット NO.351)
南悟(著) / 岩波書店 / 1994年7月20日
<内容>
「大阪で道路舗装し夕映えの神戸の夜学に車を飛ばす」毎日、汗と油にまみれて働きながら、通学する夜間定時制高校の生徒たち。短歌に詠みこまれた喜び、悲しみ、悔しさ、そして恋─青春いっぱいの姿を教師が綴る。
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