社会

子どもたちのケータイ世界を知っていますか?

弁護士 峯本耕治

 携帯電話(ケータイ)のフィルタリングサービスを御存知ですか?フィルタリングサービスは、子どもの携帯電話から、子どもにとって有害と思われるサイトへの接続や閲覧を制限するサービスのことです。たとえば、アダルトサイトや出会い系のサイトなどから子どもを守るために携帯電話各社が提供するサービスです。
 これまで、フィルタリングサービスは保護者が積極的に求めた場合にのみ設定•提供されていたのですが、2008年1月、2月からは、携帯電話各社は、未成年の新規加入者に対して、親権者の適用除外の同意があった場合を除いてフィルタリングサービスを原則として適用することになりました。
 出会い系サイトに関連する事件が増加する中で2006年11月に総務省がフィルタリングサービスの加入を勧め、その後、警察庁や文部科学省等が普及のために様々な取組みをしてきましたが、一向に認知度•利用度が上がりませんでした。内閣府が昨年7月に発表した「情報化社会と青少年に関する意識調査」によると、保護者が子どものネット利用に関して心配なこととして、「暴力的な内容、性的な、反社会的な内容を含むサイトにアクセスすること」を挙げる保護者が最も多かったのですが、その一方で、フィルタリングサービスについて「知っている」と答えた父親32%、母親16%に止まり、実際に「使っている」と答えたのは父親6%、母親2%と極端に低い利用率に止まっています。
 このように認知度•利用度が上がらない中で、子どもたちのケータイ所持率は益々高まり、ネットを通じて様々なサイトに子どもたちが普通にアクセスするようになり、出会い系サイト、コミュニケーションサイトを通じて犯罪に巻き込まれる事件が増加していきました。そのような状況に業を煮やした政府(総務大臣)は、2007年12月に携帯電話各社に対し、フィルタリングサービスの原則導入を要請し、これに応じて、携帯各社がその導入を決定したものです。
 もちろん、このフィルタリングサービスの原則導入に対しては、様々な反対意見があります。「携帯電話各社が提供するフィルタリングでは10代の若者の間で人気の高いブログやSNSなどのまともなコミュニティーサイト等も利用できなくなる」、「子どもであることを理由とする原則規制は表現の自由の侵害になる」、「子どもに対して責任を負う保護者が自ら選択すべきもので原則規制は親の責任放棄だ」、「それによって、日本が世界をリードしているモバイルインターネット市場の成長を歪める恐れがある」等で、特に子どもを重要な商品市場として位置づけてきた産業界には激震が走っているようです。
 しかし、こんな反対意見がノーテンキに聞こえるほど、今、子どもたちは危険な世界に住み始めています。先日、TPC教育サポートセンターの3月例会で、寝屋川市教委の先生から、びっくりするようなレクチャーを受けました。
 昨年、寝屋川市教委が実施した調査によると、中学生でも携帯電話の所持率は男子65.4%、女子83.8%にのぼり、中3になると、女子87.3%、男子67.6%に及んでいます。もちろん、高校生になると、ほとんど全ての子どもが携帯を持っています。
 1日の自由時間の中で、携帯電話を3時間以上触っている中学生の割合が、男子21%、女子35%、1日のメール数が30通以上の子どもが男子18%、女子35%(守口市の調査では100通以上が9%という結果も出ています)となっており、自由な時間をほとんど全てケータイと過ごしており、実に3分の1の子どもがケータイ依存と言ってもよい状況になっていることが分かります。
 今一番危険なのは、男子については性に関する有害サイトへのアクセスと、女子についてはケータイのホームページ(子どもたちの世界では「ホムペ」と呼ばれています)•プロフのようです。
 実際に目の前で、その先生に、ケータイを使ってアクセスしてもらったのですが、僅か数秒で、本当に酷いアダルトサイトに簡単につながることができました。性描写が描かれていることはもちろん、映画やビデオのようにボカシ•修正が入ることなく、性器や挿入場面がそのまま映った無修正の映像を、静画だけでなく、動画で見ることができるのです。しかも、もちろん、普通の性描写だけでなく、暴力を伴ったものや異常なプレイなど、大人にとっても異常な刺激的な映像が並んでいるのです。
 しかも、子どもたちの多くが「パケ放題」という月額5000円弱の定額で、好き放題にアクセスできるサービスを利用していますので、実際上は無料感覚で、これらのアダルトサイトにアクセスすることができるのです。
 ですから、子どもたちは、自分のケータイを自分の部屋に持ち込んで、お金がかかるなどのリスクなく、自由自在にこれらのアダルトサイトにアクセスすることができます。私たちが子どもの頃に、友達から廻ってきたエロ雑誌やマンガを、親の目から離れて、必死になって見ていた時代とは全く異なる世界が広がっているのです。もし私が、現在の中学生であれば、毎日、自分の部屋でこの刺激的なアダルトサイトを見て、認知を歪めまくっていると思います。
 ケータイのホームページも、無料で僅か15分ほどで作ることができます。なぜ、無料かというと、広告がセットになっているからで、しかも、その広告は多くが出会い系サイトの広告なのです。そのため、非常に多数の子どもがケータイのホームページを持っていて、そこには、自分の名前はもちろん、様々なプライバシー情報が平気で掲載されています。子どもたちは、そのリスクを全く分かっていないのです。
 そして、そのホームページへのアクセスを通じて、知らない者同士がメールでのコミュニケーションを開始し、簡単に出会い系サイトと同様の役割を狙うようになっていきます。上記の寝屋川市の調査でも、ホームページへの書きこみを行ったことがあると答えた子どもが84%、更に、会ったことがない人とメールしたことがあると答えた中学生が、男子で31.8%、女子で52%に上っています。また、そこに悪口を書かれたことがあると答えた子どもが19%に及んでいます。
 また、大人気の携帯サイト「モバゲータウン」という、ゲームとチャット(利用者同士のサイト上の会話)が一体となったようなコミュニケーションにも実際にアクセスしてもらったのですが、すぐに見知らぬ相手とのコミュニケーションが始まり、それだけでなく、チャット相手のプロフィールを簡単に見ることができ、気が合えば、個人的にメールをやり取りすることが簡単にできるようになっていました。
 見知らぬ相手と知り合いになることについての驚くべき気軽さです。しかも、たとえば、相手は18歳と書いてきているが、本当に18歳であるかどうかは、確認のしようがありません。
 このようなアダルトサイトやホームページの利用は、子どもたちにとって、本当に自然なこととなってきていて、少なくとも、ほとんど全ての子どもが、その利用方法について知っています。しかし、そのリスクについては、驚くほど、無知で、無防備なのです。
 親や大人が知らない間に、子どもたちが触れる情報やコミュニケーションスタイルは大きく変化し、本当に危険な状況にいたってきています。
 私自身はフィルタリングサービスの原則導入など当然のことで、子どもたちの携帯電話を所持自体(少なくとも、ネットやメールの利用)を制限する必要があると思います。今となっては、大変難しいことですが、地域や学校単位での積極的な取組みを始めているところが出てきています。
 世界的に見ても、日本ほど、子どもたちに平気で携帯電話を持たせている国はありませんし、また、世界で携帯電話がこれほど無防備にネットにつながっている国はありません。とにかく酷すぎます。


子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして子ども虐待と貧困―「忘れられた子ども」のいない社会をめざして

清水克之(著), 佐藤拓代(著), 峯本耕治(著), 村井美紀(著), 山野良一(著), 松本伊智朗(編集) / 明石書店 / 2010年2月5日
<内容>
子ども虐待と貧困との関係を乳幼児期から青年期までの子どものライフステージに沿って明らかにする。執筆者のまなざしは、親の生活困難に向けられ、子どもと家族の社会的援助の必要性を説き、温かい。貴重なデータも多数掲載している。


子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて子ども虐待 介入と支援のはざまで: 「ケアする社会」の構築に向けて

小林美智子(著), 松本伊智朗(著) / 明石書店 / 2007年12月6日
<内容>
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スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信スクールソーシャルワークの可能性: 学校と福祉の協働•大阪からの発信

山野則子(編集), 峯本耕治(編集) / ミネルヴァ書房 / 2007年8月1日
<内容>
はじまったばかりのスクールソーシャルワーカーの活躍を描く。スクールカウンセラーや養護教諭とともに様々な問題に悩む親子に、社会的問題を含めて解決にあたる事例を紹介します。今までにない児童生徒へのアプローチに非常な関心がもたれています。


子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題

峯本耕治(編集) / 明石書店 / 2001年12月12日
<内容>
先進的なシステムをもつイギリスの児童虐待防止制度の詳細と、実際の運用状況を具体的に紹介する。ライン等も示し、問題点にも触れる。



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